不二越「富山県出身者は極力採用しない」発言は法的に許されるのか?-採用の自由と採用差別 | なか2656のブログ

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(不二越本社。同社サイトより)

1.不二越会長「富山県出身者は閉鎖的なので極力採用しない」
富山県の総合機械メーカーである「不二越」の本間博会長が、「富山県出身者は閉鎖された考え方が非常に強いため」、同社での採用は極力控えると決算発表会見で7月5日に語ったことが7月13日に報道され大きな批判を受けています。

・不二越の本間博夫会長「富山県出身者は閉鎖的だから採用しない」と発言し批判相次ぐ|キャリコネ

同社のウェブサイトをみると、7月13日付のプレスリリースが掲載されていますが、この報道や社会の批判を受けて反省するという内容ではなく、「当社の人員構成は、8割近くが富山県出身者」であり、「人材の募集・採用につきましては、生産拠点が富山に集積しているため、富山県出身者から多くの応募がありますが、さらに広く全国から募集して、分け隔てなく、人物本位で採用しております。」としており、本間会長の発言を反省するというよりは、富山県出身者よりは全国から採用したいという同社の意向がにじみ出ています。

・当社の人材募集・採用に関して|不二越

この不二越会長の発言や同社の方針を法的にどのように考えたらよいのでしょうか。

2.使用者側の「採用の自由」
憲法22条、29条は経済活動の自由を保障しています。そのため使用者側・企業側は広範な採用の自由を有しています。

この点が裁判で争われた三菱樹脂事件(最高裁昭和48年12月12日)は、「企業者は、(略)経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、(略)いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限のない限り、原則として自由にこれを決定することができる」と述べています。

このように使用者は採用にあたっては幅広い採用の自由を有しています。しかし、この最高裁判決が述べているように、それは「法律その他による特別な制約」に服します。

3.採用差別の禁止
この点に関する職業安定法3条は、「何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として、(略)差別的取扱を受けることがない」と規定しています。

つまり、採用において門地、本籍地などによる差別、男女差別をすることや、年齢による差別を使用者が行うことは法の下の平等(憲法14条)の理念に反し、職安法3条に反しています。

とくに門地、本籍地、出身地などはいわれのない社会的差別をもたらすものですが、これはただそこに生まれた本人にとってはどうしようもない生来的なものであり、これらを理由とする採用差別は許されません。

なお、法的にみれば、出身地による差別行為を企業が積極的になしたとすれば、その行為は基本的人権の侵害としての不法行為(民法709条、715条)に該当することになりかねません(安西愈『採用から退職までの法律知識 第14版』8頁)。

4.厚労省サイトの「公正な採用選考について」
この職安法3条等を受けて、厚生労働省は使用者に対してウェブサイトで、「公正な採用選考の基本」や「公正な採用選考をめざして(平成29年度版)」等を公開しています。「基本」の「(3)採用選考時に配慮すべき事項」は、その例示のなかで、「本籍・出生地に関すること (注:「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当します)」は採用差別につながるおそれがあるとして禁止しています。

・公正な採用選考の基本|厚生労働省

・公正な採用選考をめざして(平成29年度版)|厚生労働省

・採用選考自主点検資料|厚生労働省

5.まとめ
このように法令をみると、不二越の会長の発言や、同社のプレスリリースから伺われる同社の「富山県出身者からは採用しない」という姿勢は、採用差別・職業差別に該当するおそれが強いと思われます。職業安定当局による行政指導などが望まれます。

「グローバル化」や「脱・富山の会社」を目指すのは不二越の自由ですが、しかし最低限の法律すら守らないようでは、不二越はグローバル企業どころか、ワタミ、すき家、アリさんマークの引越社等と同様のただのブラック企業な「富山の会社」です。

■追記
時事通信社によると、7月28日、富山労働局は不二越に対して、公正な採用を行うよう行政指導を行ったとのことです。

・富山労働局、不二越に公正採用を要請|時事ドットコム

■関連するブログ記事-採用における個人情報保護について
・就活生に企業が安保法案反対デモ等への参加の有無を質問することは法的に許されるのか?

■参考文献
・安西愈『採用から退職までの法律知識 第14版』7頁
・外井浩志・大矢息生・岩出誠『会社と社員の法律問題』42頁
・菅野和夫『労働法 第9版』135頁

トップ・ミドルのための 採用から退職までの法律知識〔十四訂〕



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