株主総会において会社の指示で従業員株主がヤラセ質問をしたことが争われた裁判例-フジ・メディアHD | なか2656のブログ

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一.はじめに
上場企業(フジ・メディア・ホールディングス)の株主総会において会社が従業員株主にヤラセ質問をさせたことが裁判の争点となった興味深い裁判例が出されました(東京地裁平成28年12月15日判決)。

二.東京地裁平成28年12月15日判決(棄却、控訴棄却、上告、「金融・商事判例」1517号38頁)
1.事案の概要

本件は、東証一部上場企業であるY(フジ・メディア・ホールディングス)の株主であるXらが、平成26年6月27日に開催された第73回定時株主総会(以下、本件株主総会という)における決議方法が著しく不公平であるとして決議の取消請求(会社法831条1項1号)などを請求した事件である。

Xらは、有給休暇を取得して出席したYの従業員株主が、B総務部長の指示に基づいてあらかじめ用意されたヤラセの質問を行ったことは、一般株主に十分な質問をさせないことであり、一般株主の質問権または株主権の侵害にあたり、決議の方法が著しく不公平であるとして決議の取消請求などを主張した。

2.判旨
『B総務部長がした本件株主総会への出席及び質問の依頼は、従業員株主に対する業務命令にあたるということはできないとしても、同従業員株主に対して、本件株主総会に出席し、リハーサル時と同旨ないし類似の質問をすることを相当程度促す効果を有するものであったというべきである。』

そこで、『一般に、上場会社の株主総会において、会社が従業員である株主に対し、会社自ら準備した質問をするよう促し、実際にも従業員株主が自らの意思とは無関係に当該質問をして会社がこれに応答した場合には、当該質疑応答に相応の時間を費やすこととなり、その分、一般株主の質疑応答に充てられる時間が減少し、質問又は意見を述べることを求めていた一般株主がそれを行うことができなくなるというべきであって(略)上場会社における適切な株主総会の議事運営とは言い難いものというべきである。』

『実際に、本件株主総会において、8人の従業員株主が会社に対して質問したことは、その人数及び質問した全株主に占める従業員株主の割合(5割)に加え(略)適切な議事運営方法といえるか疑問なしとしないものの、他方で、本件株主総会においては、一般株主からの質疑応答のためにも相応の時間を充てたこと(略)質疑打切りの直前の時点において質問等を求めて挙手していた一般株主の数は、出席株主の数に比して多いとはいえないこと』(略)であるから『Xらが主張するヤラセの質問の点を捉えて、本件各決議の方法が著しく不公正であると断ずることはできない。』


このように判示して判決はXらの主張を斥けました。

三.検討・解説
会社法は、「総会招集の手続またはその決議の方法が法令もしくは定款に違反しまたは著しく不公正な場合」を株主総会の取消原因とし、決議取消しの訴えの判決確定により無効とする仕組みをとっています(会社法831条1項1号)。これは瑕疵の主張を無制限に認めると多くの者の利害が害されるからです。

この「総会招集の手続またはその決議の方法が法令もしくは定款に違反しまたは著しく不公正な場合」はたとえば、総会招集の場所・時刻を株主が出席不可能な場合や、あるいは、騒然と混乱した会場において、議題の説明もなく質疑討論の機会を与えず、出席株主にも賛否の確認をしえない状態において拍手による採決方法をとり強引に決議を成立させたような場合とされます(大阪高裁昭和41年9月26日判決、加美和照『新訂会社法 第9版』259頁)。

また、その他に、株主総会において従業員株主を会場前方に座らせ、議長の提案に対して「異議なし」等と発言させた議事進行が一般株主に質問の機会を与えているので決議方法が著しく不公正であったとはいえないとされた事例があります(住友商事事件・大阪地裁平成10年3月18日判決、『金融・商事判例』1041号3頁)。この事例では、裁判所は「法が本来予定した株主総会のあり方に徴しいささか疑問がある」としつつ、一般株主に質問の機会があったことから決議が著しく不公平であったとはいえないとしています。

さらに、原発を有する電力会社が株主総会において従業員株主を前列に座らしてなした総会決議について不法行為が争われた事例においても、裁判所は「被告の右措置は適切なものではなかった」としつつも、原告が総会で動議を提出していることを重視し、不法行為を否定しています(四国電力事件・最高裁平成8年11月12日判決、『会社法判例百選』92頁)。

このように、「総会招集の手続またはその決議の方法が著しく不公正な場合」について、本判決のように従業員株主によるヤラセ発言があった場合や、会場の前列に従業員株主を座らせ「異議なし」等と連呼させるような場合についても、裁判所は一般論としてそれらの総会運営を「適切なものではない」と判示しつつ、一般株主に質問する機会はどの程度あったかなどのそれぞれの要素の程度を勘案して判断を下しているものと思われます(『金融・商事判例』1517号43頁コメント部分)。

その点、本判決も総会運営・決議が著しく不公正であったか否かを考える一つの事例判決であるといえます。

■参考文献
・「金融・商事判例」1517号38頁
・『銀行法務21』818号68頁
・『法学セミナー』2017年10月号119頁
・加美和照『新訂会社法 第9版』259頁
・神田秀樹『会社法 第15版』184頁
・大澤康孝『会社法判例百選』92頁
・『金融・商事判例』1041号3頁

会社法 第19版 (法律学講座双書)



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