「事故にしたいって・・・本当にそれでいいの?」
アンダーソン氏は勿論、ヘラもハニの口から出た言葉に驚いた。
事故で済ませるには犠牲が大きいし、ましてや人違いで指されて命を落としたダニエルが浮かばれない。
「どうして、事故に?」
アンダーソン氏は、思ってもいなかったハニの言葉に聞いた。
「人違いだったから・・・きっとダニエルだと最初から判っていたら刺したりしなかったし、ダニエルも刺されることはなかったから・・・・」
そうではない事はハニは勿論、アンダーソン氏もヘラも分かっている。
ダニエルはスンジョの代わりに刺された。
髪の色を黒く染めて、長めの髪をスッキリと短く切り、スンジョが着ていそうな服装で恋慕の丘にいた事を。


「恨んでいないの?」
「恨んでいない?そう見えるの?凄く悔しくて哀しくて・・・恨んでダニエルが戻って来るのなら恨みたい。子供たちはまだ小さくて、スンハは父親がベッドの上で苦しんでいるのを見ている。あの子は目にしたものをそう簡単に忘れる事が出来ない子。ビクトルは・・・ビクトルは本当にまだ小さくて、初めて話した言葉が・・・・アッパ・・・でも大きくなって父親の記憶があの子には無いの。恨んでも戻る事がないのなら、恨まないで起きた事を早く忘れたい・・・・」
アンダーソン氏にとっても、ハニと同じ考えだ。
探していた息子に再会できて、たった6年しか父親として接する事は出来なかったが、相手を恨んで息子が戻って来る事はない。
妻のジニと出会ったころに戻れる事が出来るのなら、あの頃に戻ってジニとダニエルを連れてイギリスに帰る。
そうすれば、こんな事は起きなかったのだから。

「判りました。事故にしても、刺した事には違いないし、ダニエルの命を奪った事実は消えない。裁判になると思うけど、ハニは出て来られる?代理で弁護士にすべてを依頼してもいいのよ。」
「ハニ、ユン弁護士にお願いしよう。彼女は、アンダーソン財団がこの国で仕事をする時は、いつもお願いしているし、大学時代の友人ならその方が気心は知れている。」
断る理由はなかった。
ヘラが弁護士として、ハニの代理人として頼む事は、多少気まずい感もあるが自分で言い弁護士を見つける事が出来ない。
出来ないのなら、アンダーソン氏が信頼しているヘラに頼むのが一番いいのかもしれない。
「ユン弁護士、お願いします。お義父さんが信頼している方なので、この先よろしくお願いします。」
過去の経緯を考えると、辛い事を沢山思い出すが、今目の前にいるヘラは弁護士として仕事をしている。

何もわからない事ばかりで、机の上に並べられる書類の説明をされても頭に入って来ない。
出されるまま、言われるままハニは署名押印をした。

「じゃあ、私はすぐに仕事に取り掛かるわ。私の名刺を渡しておくから、何かあったら連絡をして。ハニは、この書類に書いてある番号に掛ければいいのね?」
「ええ・・・・」
礼拝堂のドアが開き、ダニエルを埋葬する時間になったと、キョンエ園の職員が三人に声を掛けると、村の人やグォンが中に入って来た。