「もう切るから。彼、時間には性格だから・・・・・」
ミヒュンはスンジョの車がすぐ横を通った事に気が付かなかった。
携帯をバックの中に入れると、婚約者以外の男性と電話をしていたそぶりも感じさせない表情で、スンジョが迎えに来るのを待った。
長くて手入れが行き届いた髪を、片手で後ろに流した時にスンジョが歩道を歩いてミヒュンに近づいた。

「お待たせしました。路肩に停められなかったので、少し先のスペースに停めて来ました。」
「今は空いてますね。」
少し前まで停まっていた車はスンジョの車でも、そんなことをミヒュンは知る事はなかった。
ミヒュンのキャリーバックを手にすると、スンジョは指を指した。
「雪が降っていて寒いですが少しだけ、歩いて行きましょう。」
スンジョが歩き始めると、ミヒュンはさっと手慣れた感じで空いている方の腕に自分の腕を絡ませた。
「待っていたから寒くて・・・いいですよね?」
「もちろん、婚約者ですから。」
ハニと腕を絡めて歩いた事はなかった。

あの雪の日に宿の庭を歩いた時も、寒いから腕を組んで歩きたいと言ったハニを、うっとうしいと言ってその腕を振り払った。
あの日は今日よりも寒かった。
本当はハニよりも自分の方が腕を組みたかった気持ちは強かったが、変な子供じみたプライドがそれを止めていた。

隣の助手席に座っているミヒュンが話をしていても、耳に入って来てはいるが頭の中にその内容が残らない。
スンジョが来る前に誰かと話をしていた言葉の一部を聞いてしまったからではなく、今から行く場所がハニと行った所でもあるし、そこが自分にとっても大切な思い出の一つからだからなのかもしれない。
あの時の隣にいるハニも、ミヒュンとは違う感じでずっと話をしていた。
止まる事のなかったハニの、くだらない話を表向きはうるさいと怒ってみせても、本当はうるさいのではなく、そういってハニが拗ねるのを楽しんでいたのだった。

雪で帰る事が出来なくなった日の事を、急にスンジョは思い出していた。



「道路が閉鎖された。」
フロントへ行って、道路状況を聞きに行ったスンジョが、荷物をまとめていたハニに最初に言った言葉。
「閉鎖って・・帰れないと言う事?」
「そういう事・・だな。」
さすがに二泊は予想はしていたし、ソファーで眠るのはしんどい。
恋愛感情があるわけでもないが、自分の本心をさらけ出せる同年齢のハニが寝室のベッドで眠っている事を考えて、熟睡出来る俺が出来なかったのだから。

「どうしよう・・・・・」
「庭でも散策するか?」
「はぁ~?こんな時に?」
ハニが聞くのも分からないわけでもなかった、が何も考えが浮かばなかったスンジョの気を紛らわせる唯一のその時の言葉だった。





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