「疲れたでしょ?遠慮しないで家の中に入って・・・・リャンさんも遠い所、ずっと運転をされて来たのでしょ?」
何度もソウルに来て、スンジョと話をしていたのは知っていたが、グミと面識があるとは思っていなかった。

「リャンさん・・・・」
「どうしたのよハニちゃん・・リャンさんとはギドンさんのお店でスンジョから紹介をしてもらったわ。今日ハニちゃんが家に帰って来るように、リャンさんからハニちゃんの事を聞いたから何も心配をしないで。」
変わらないグミの温かい言葉と笑顔が、逆にハニを緊張させた。
玄関のドアを開けると流れて来る空気も変わっていなかったのに、ハニの緊張はさらに強くなった。

「お帰り。」
ハニが玄関の中に入ると、スリッパを並べてしゃがんでいる人が立ち上がった。
その人物は少し感じが違うが、16歳の高校を入学した頃を思い出す。
「ウンジョよ。パラン高校の一年になったの。」
スンジョと間違えそうになるくらいによく似ていたが、少しあの頃のスンジョより身長が低かったのが感じが違って見えたのかもしれない。
「もぅ、ハニちゃんったら何を遠慮しているの?入って・・・リャンさんも・・・」
「ギドンさん、ハニちゃんが帰って来ましたよ。」
ハニは恐る恐る、父の方を見た。
ギドンの目に涙がにじんでいた。
リャンに背中を押されて、ハニはギドンの傍まで歩いて行くとりょてを膝がしらに当てて頭を深く下げた。

「パパ・・・・黙っていなくなってごめんなさい・・・」
「まったくだ!この親不孝娘!どんなにパパが心配したか・・・・顔を上げて、その親不孝な娘の頬を叩か抓ってやる。」
「ギドンさん、ハニちゃんが帰って来たのだから・・・」
ハニはグミが慌てて止めようとしている言葉を聞きながら、顔を上げてギドンの方を向いた。
ギドンの仕事で荒れている手が、ハニの頬に触れた。
子供の頃から、困らせた時によく抓られた。
その痛さは、体にしみこんでいて忘れていない。
目を閉じてそれを待っていると、ギドンの手が頬をするりと通り過ぎて首の後ろに回り、もう片方の手がハニの背中に当てられた。

「パパが悪かった・・・ハニの気持ちに気づかず・・・ショックでハニをちゃんと確認できないで、他の人をハニと思って・・探してあげられず悪かった・・・・」
「パパ・・・・」
ギドンが声を押し殺して泣いていた。
たった一人の娘で最愛の妻の忘れ形見。
この世に、大切な物を二つ亡くしてしまいどれほどこの5年近く辛かったか。
その場にいた人たちには、ギドンの気持ちは分かるが深い寂しさは分からないだろう。

ソファーに座り、自分を見ている人たちの顔を見るが、一番会いたい人の姿はそこにはなかった。




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