鍋家に着くと香ばしかった。

ピピッ。

ピピッ。

台所で警告音も鳴ってる。

ガスコンロを見ると、
中身が真っ黒の手鍋。

点火スイッチが入ってる。
が、最近の賢いコンロは
自動に消えていて、
それを知らせる警告音だった。

時刻は夜中の1時近く。

母は熟睡している。

夕飯後から数時間、
この状態だったらしい。

お茶や歯磨きで何度も
通りがかったろうに。

黒焦げになった物体の
容量から想像するに、
おそらくは朝の味噌汁の
残りが傷まないよう、
火にかけたのだろう。

弟一家が来ているので、
夕飯は彼らと食べたはず。
すぐ近くの実家の方で。

戻ってきて、
味噌汁が気になったか。

明けて、次の朝。
母に焦げた鍋を告げる。

「何を火にかけてたのかしらねえ」

母は忘れていた。

「あんたが結婚前に買った鍋、
 何度も空焚きしてるのに、
 全然穴が開かなくて
 丈夫よねえ!」

昔の鍋はすぐダメになったのよ。
そんな話を聞きつつ、
最新のコンロと丈夫な鍋に感謝。

買った時は高いだの
贅沢だの嫌味を言われたが、
20年経ってもまだまだ現役だ。

母もまだまだ現役で
いられますように。

つづく。



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