FOMCは「忍耐強く」を削除: 発表後の投機筋のドル売りを実需が飲み込む

3月18日のFOMC(連邦公開市場委員会)で、Fed(連邦準備制度)は、利上げまで忍耐強く(patient)いるとの議事録の文言を削除し、6月の利上げを可能にした。一方で、経済とインフレ率の見通しを下方修正することでハト派的な姿勢も表明した。議事録の文言と発表後の市場の動きのそれぞれをレビューする。より重要なのは市場の動きの方である。

利上げは6月以降だが、時期は未定

文言の解釈にはテクニカルな要素が色々あるが、先ず、「忍耐強く」の語は「2ヶ月後まで利上げはしない」の意味であり、これを削除したということは、6月の利上げがありうるということである。

この表現は、通常であれば遅くとも9月までの利上げを示唆するものであるが、今回Fedは景気と物価の見通しを下方修正しており、「忍耐強く」を取り除いた以外はハト派的な内容となっている。

この議事録に関しては様々な解釈が飛び交っているが、簡単にいえばFedは利上げの時期を決めたくないということである。6月以降ではあるが、それ以上は決めていないのである。今回の議事録では、経済状況によって利上げの時期が変わりうるということを明確に示したと考えるべきだろう。それ以上は示していないのである。

市場は議事録をハト派と判断

市場は今回の議事録をハト派であると判断、発表後に米国株は上昇し、ドルは円、ユーロ、ポンド、そして原油と金に対して下落した。しかし、1日経過した19日、ドルは反発し、昨日分の下落幅を既にほとんど回復している。一方で、S&P先物は高値を維持したままである。

ドルはやはり強く、ドル高の逆流を懸念した投機筋の売りが一時相場を支配したが、1日でドルに資金を逃避させたい参加者の需要に飲み込まれてしまった。

重要なポイントは、ドルがヘッジファンドなど投機筋の予測より強いということである。だとすれば、やはりドルの買いはファンダメンタルズを綿密に計算した投機筋によるトレンドではなく、ユーロ圏などの実需がユーロを売ってドルに資金を逃避させようとしていると見るべきだろう。こういう場面にはドルは過大評価される可能性がある。ドルへの資金逃避については下記の記事を参照されたい。ユーロにはその徴候が明確に現れていたのである。

ドル高に明確な懸念を示したFed

一方で、今回Fedは重要なシグナルを発した。先ず、景気見通しの下方修正において輸出の弱さに言及し、その原因はドル高にあると明言した。更に、利上げをするのは「2%の物価目標に向けて物価が安定的に推移すると合理的に判断できるとき」であると強調しているが、現在の米国のCPI(消費者物価指数)は0.7%であり、この数字はドル高と原油安によって下方圧力を受けている。つまり、景気とインフレ率の両面において、ドル高の悪影響に懸念を表明したのである。

これは以前から懸念していたシナリオである。ドル高の反転リスクは余りにも大きく、上記の記事ではリスクヘッジのためにポンドに徐々に資金を移すことを提案した。

しかし、Fedの明確な意思表示にもかかわらず、ドルは強いままである。資金を持っている以上、投資家は何らかの通貨かを保有しなければならないのであり、多くのファンドマネージャーは悩みながらもドルを保有している。他に持つべき通貨がないからである。しかし、もしFedや米国財務省が見過ごせない水準までドルが上昇した場合、どうなるだろうか? ドルから資金が留出するとき、その資金は何処へ行くのだろうか?

それはポンドなど他の通貨であるかもしれないし、金や原油などコモディティに流れるのかもしれない。現状、ドルの代わりとなる良い候補が余りに少なく、またそれゆえにドルが上昇しているのだが、投資家は常に逃げ道を考えておかなければならないだろう。