吟じます | 風神 あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」

10日の日曜日は小雨が降ったけど、17日の日曜はうす曇りで読書日和だった。

夜の晩酌はいつの通りの定量で止めて、4時頃にベッドに入って7時前には起きた。

テレビを点けてチャンネルを回すと『はやく起きた朝は』(フジテレビ毎週日曜6:30 - 7:00)をやっていた。
『おそく起きた朝は』からすると20数年の長寿番組になっている。




パソコンを開いて、豆乳を飲んで煙草を吸って早々と出かけた。
公園に着いたのは9時前だったからかなり早いお出かけだった。

缶コーヒーをぐびりと飲んで、文庫本を開いた。
すると、なにやらザワザワとする人の気配が。

その方を見ると、男性はスーツにネクタイ、それも仕事用ではなく明るめの色のちょっとおしゃれなスーツ。

女性陣はこれまたおしゃれな恰好。年齢はどうだろう……男性は60代から70代ぐらいで、女性は50代、60代ぐらいだろうか、その人たちが6人ぐらい横一列に並んだ。なんだろうな?

僕はまた文庫本に目を落とした。すると、プーっと音がする?
この音、どこかで聞いた覚えがある。

すると、合唱が始まってしまった。
読書を始めるや否やのことだ。それに近い。まいったなこりゃ。

活字を追いかけても頭に入ってこない。諦めた僕はその歌を聴いた。
なんだっけ、これ、なんだっけ……。

あ、詩吟か?

そうだそうだ、僕の友達でもある詩吟の先生も、あのプーっと音のするものを持っていた。
そうだそうだ、公園の横に建つこの会館を利用するって言ってた。なにか大会があるのだろう。

来てるかどうか誰かに聞いてみようとも思ったけど、本名を思い出せないからどうしようもない。ネット上のHNを尋ねたって誰も知らないだろう。



そして、終わった。
さて、ゆっくりと読書を。

また、プーっと音が。こんどは50代ぐらいの女性がおばあちゃん先生の前に立った。
おやおや、遠目でもなかなかお美しい女性ではないか。

ちょっと目が合って、その女性は恥ずかしそうな気配を漂わせた。
それはそうだろう。大勢ならいざ知らず、一人で吟じるのだ。
それも、公園で。詩吟を聴きに来たわけでもない人たちの前でだ。普通の人なら、どう考えても絶対恥ずかしいだろう。

僕は見ないふりをして、文庫本に目を落とした。
女性が吟じ始めた。

いくたびかぁ~~~~しんさんをへてぇ~~~ころろざしはじめてぇ~~~~

な、なんと、大西郷の詩ではないか!
詩吟で扱われているとは知らなかった。

幾たびか辛酸を歴(へ)て志始めて堅し
丈夫は玉砕すとも甎全(せんぜん)を恥ず
一家の遺事人知るや否や
兒孫の為に美田を買わず


色んな解釈のされ方をしているようだけど、辛酸を経てとは西郷隆盛本人の島流しなども入っているのだろう。

「丈夫は玉砕すとも甎全(せんぜん)を恥ず」に関しては一般論的な解釈が目立つ。
「立派な男というものは、たとえ玉となってくだけ散るようなことになっても、かわらとなって生きながらえるのを恥とするものである」みたいな。

けれど、尊王攘夷から倒幕へと舵を切る中、その先頭を走った男たちは死んでしまった。
勇ましき武士(もののふ)たちはみんなこの世を去ってしまった。生き永らえた私は、それを恥じている。
とストレートに解釈する方が正しいと僕は思っている。

そして、なかなかできることではないから「兒孫の為に美田を買わず」これが一番美しく響く。

今なんだか突然、ナッツ姫と水かけ姫を思い出してしまった。あの、なにごとか怒鳴りながら書類をぶちまける二人のお母さんも。

兒孫の為に美田を買わず
ロクなもんじゃないけど、難しいことなのだろうね。

思う存分読書した僕は、真昼間から飲み始めた。


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