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キティタイムマガジン

2017-02-20 | 小説/エッセー

昔の作品が出てきた。これ、2012年に書いた話です。

 

アメリカでは3月初旬からサマータイムが始まった。それに伴い、ヒューマンワールドでは時計の針を一時間だけ進めなければならない。もう少し、詳しく説明すると、今まで朝の六時に起きていた人は、サマータイムにチェンジしたときから、既に時刻は7時になっているわけで、大慌てでベッドを抜け出し、遅刻ギリギリで会社に飛び込むことになる。また、今まで5時に仕事が終わっていた人は、「やっと帰れるか、今日は定時に帰れるぞ、うちに帰ってビールでも飲むか」と思って時計を見たときには既に一時間も残業していたということになる。早い話が、サマータイムが始まると、大勢のアメリカ人の頭がこんがらがるのである。
 ところが、世の中がどれほど変化しようがいつも「我が道をいく」という生き物がいる。
それが家の猫である。
 槍が降ろうが鉄砲の弾が飛んでこようが、「ヘ」とも思わない。最近では稲光には多少は反応するようになったが、雷がなっても「だからそれが何なのさ?」という顔で、相も変わらず、2階の窓から涼しい顔で世の中を眺めている。この「鈍感さ」は「図々しい」と呼べばいいのか、それとも「たくましい」というべきか。飼い主としては、この猫の性分にあやかりたいと思うときもある。
 アメリカで猫と暮らすようになってから、新しい発見をした。猫という生き物は、世間のことに無関心のように見えて、実は人間以上に世の動きを機敏にキャッチしているのである。従って、世間がサマータイムで混乱を起こしていても、うちの猫の生活には何のトラブルももたらさない。
 我が家には猫が3匹いるが私たち夫婦は、彼らのことをキティーマフィアと呼んでいる。サマータイムであろうとなかろうと、毎晩夜中の2時になると、キティーマフィアの中でも一番マッチョなオス猫が夫を起こしに来る。最初は優しく顔をこすりつけ、それでも起きないと耳元で猫なで声、それでもダメなときは、夫の顔を猫パンチ。それが効かないとわかると、足元に噛み付く。
「初めやさしく、最後は脅せ!」
これはマフィアの常套手段で、ヒューマンワールドでもよく使われる方法である。
 一体何が目的で夜中の2時に起こすのか、猫に聞いたことがある。
「おめえらが、夕食にツナをたんまりくれねぇからよ。腹が減るんだよ。もう翌日になったんだ。2時はオレ様たちの第一回目のブレックファーストタイムだ。覚えとけ!」
 とまぁ、こういう理由で、毎朝2時になると、寝惚け眼で寒いキッチンへ行って、猫のためにツナ缶を開けるのが夫の朝の日課になってしまった。

キティーマフィアの腹が満たされ、しばらくは脅される心配はないことがわかると、夫はベッドに戻ってくる。そして、いつも言うことは、
「どうして時間がわかるんだ。あいつらは、サマータイムが始まったことを知ってるのか?どうして2時だってわかったんだ。時計の針を一時間進めたを見てたのか? どうしてだ?」

  これは私たち夫婦にとって、いや、猫族と暮らす全ての人々にとって永遠の謎かもしれない。一度、猫に聞いてみたが、口を耳まで釣り上げて細い目で睨むだけで何も答えなかった。もしかしたら,彼らは私たちの目には見えない高級で精巧な金色のロレックスを持っているのかもしれない。


(the end)

 


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