「これでいいんだ」と少年は
自分に言い聞かせ続けていた
真っ暗な谷底で
激しい雨に打たれながら
次に少女に会う日は
少年の命が終わる日
少年の命が終わって
少女と父の人生が始まる日
仮に未来を予知できていたなら
皆で幸せになれたのだろうか
いや、それしきのことでは
<宿命>は変わらない
「だからこれでいいんだ」と少年は
自分に言い聞かせ続けていた
少年の犠牲によって
父と少女の命と未来が保証されるなら
生に対する未練がないわけではない
だけど1人は死ななければならないなら
それは自分だと少年は決めたのだ
少年の心は
少しずつ軋んでいった
「これでいいんだ」と
呪文のように唱えながら
まだ<宿命>を知らなかった頃
"研究所"に隔離されながらも
少女と一緒に笑いあっていた
けれど少年は一足早く
<宿命>について知ってしまい
"研究所"に少女を独り残して
脱走して行方をくらませた
「全部僕が悪いんだ」
と少年は呟いた。
この軋む心はきっと罰。
脱走の時に少女を
残していった少年への罰
だからこそ少年は
1人しか生き残れないのなら
自分の命を捧げると決めた
それはささやかな罪滅ぼしだった
「全部僕が悪いんだ」
「だからこれでいいんだ」
「これでいいんだ」
「これでいいんだ」