ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

鎮魂の地図 沖縄戦・一家全滅の屋敷跡を訪ねて 大城弘明 未来社 を読んだ。

あたしは沖縄ファンである。
北と南に分かれてはいるが、どこかしら共通点が多く親近感を感じるのだ。
何度か旅行で訪れて、その日本とは思えないムードを存分に楽しませてもらった。
もちろんひめゆりの塔など戦争の歴史に関する史跡もまわった。
てーげーで底抜けに明るいうちなんちゅーが住む沖縄には明と暗の部分がある。

この写真集は元沖縄タイムスのカメラマンによって撮られたもので、
沖縄各所に点在する、「一家全滅して守るもののいなくなった建物」がおさめられている。
その形態は、ただ石を積んである場合であったり、物置小屋のようであったり、コンクリートで囲ったものであったり、集会所のようであったりさまざまである。

モノクロであるだけに、南国的なものは感じられず、静の印象が強い。

沖縄独特の位牌やお供えなどが置かれているところもある。

たった一枚だけ、30体のしゃれこうべがそのまま残されているガマの写真があるが、
それ以外は直接的に戦争を感じさせるものではない。

ウチにはもっと生々しく沖縄戦の様子をおさめた写真集があるが、それとは異なった角度から
想像力をかきたてかけるものがある。
生活のなかに普通に存在する喪の象徴。
沖縄のひとはいまも喪を生きている。

現代に生きる我々のほとんどが戦争を知らない。
実体験として記憶に留めているであろう、80代以上のひとたちの多くは戦争体験を公に語りたがらない。
戦争を体験していない者は、こうした写真や歴史的文書や史跡などから視覚的に概要を知ることはできる。「ああ大変だったんだな。ひどいな。悲惨だな。」と思うことはできる。

巻末の解説を読んで、あたしは心底驚いたのであるが。
2014年におこなわれた南風原文化センターでの取り組みがすごい。
「沖縄戦当時の異臭を再現し、それを追体験することによって戦争の実態を考えてもらおう」という取り組みである。
壕内での大小便・血・汗・体臭・膿・消毒液・蛆・硝煙・湿気・泥・死臭。
異臭の再現は「香りのデザイン研究所」によって人工的に作成されたという。

嗅覚と記憶が密接に関連づいている、という経験を持つ人は多いだろう。
嗅覚から戦争の実態を「追体験」する。
この意義を考え、なぜいまこのような取り組みをする必要にかられているのか。
やはりそれは危機感、なのだと思った。
アメリカ海兵隊の沖縄戦体験記のなかにこのような記述がある。
「戦争は野蛮で、下劣で、恐るべき無駄である。戦闘は、それに耐えることを余儀なくされた人間に、ぬぐいがたい傷痕を残す」
家族親族ほとんどが戦争によって亡くなった、自分が生き残ったのはたまたまにすぎない、という沖縄戦体験者の文章を読んでいると、アメリカが悪で日本が善ということは全く感じられない。
米兵に優しくされた、と証言する人も多い。
そして終戦前後に日本軍によってなされた住民集団虐殺の事実。
終戦でやけくそになった日本兵が自決の前に住民を殺しまくっていたという。

人間性を究極にうしなわせるのが戦争というものなのだ。

ある国の首長にまずは「追体験の異臭」をかいでもらいたい。
できれば国会議事堂内で議員全員にかいでもらいたい。

戦争はいやだ。
戦争にまきこまれたくない。
加担したくない。
なにより戦争でなんか死にたくない。

戦後70年たったいま、
もういちど
ひとりひとりが戦争というものの意味について真剣に考えるべき時期が、
まさにいまこのときなのだ、と強く感じた。