cover NHKの某トーク番組にて、正統派女優成海璃子がマスト・アイテムとして取り上げ、このアナログ盤ジャケットを全国のお茶の間に届けたということで、ごくごく一部では盛り上がった、1986年リリース文字通りのセカンド・アルバム。
 当時の日本のロック/ポップス状況はバンド・ブーム前夜にあたり、ソニー系のアーティストがメディアにガンガン露出していた頃である。ごくごく小さなパイの取り合いをエピック/CBSの両巨頭がほぼ独占、TMネットワークやハウンド・ドッグ、レベッカの天下だった。
 
 そういったメジャー・シーンとは別に、そこからこぼれ落ちたインディーズ・シーンの水面下の動きも同時に活発化しており、丹念に拾い上げると面白い作品の宝庫である。アルバム・トータルの評価としては微妙だけど、ワン・アイディアがもの凄い吸引力を持っている曲、じゃがたらやスターリンなど、今でも伝説として語り継がれるステージ上の奇行など(誇大表現のエピソードもあるらしいけど)、それはもう多種多様。
 単なる「インディーズ・シーン」という現象だけではひと括りにできるものではない。多くの人に聴かれることを前提としない、メジャー・レーベルでキレイに加工成型された音楽とは全然違うサウンドが、それこそレアの状態で無造作に投げ出されているのである。彼らにとって作品とは、もはや表現するモノではない。自分でも制御不可能の末に吐き出されてしまうモノなのだ。

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 で、ローザ、もともとは1983年頃の結成、バンド名が同名のポーランドの革命家から由来していることから察せられるように、ニュー・ウェイヴ・ムーヴメントを通過儀礼とせず、どちらかといえば70年代のアングラ・シーンの血を色濃く引きずっている人たちである。京都の有名なライブハウス「拾得」でヴォーカルのどんととギターの玉城宏志が出会ったのが結成のきっかけ、という時点で、他の同時代バンドとスタートが違っている。

 1980年代前半というのは社会状況としてはまだ不安定な時代、文化的にもまだ70年代の延長線上といった雰囲気が漂っていた頃である。当時の大きな流行として、はっぴいえんど~YMO周辺のアーティストの躍進や、渋谷パルコ・西武を軸としたサブカル文化の勃興などが挙げられるけど、そのどれもが70年代からアンダーグラウンドで活動していたアーティストらによるものである。
 70年代特有のどんより重苦しい陰は長く尾を引き、バンド・ブーム到来によって終止符が打たれるという構図。
 
 ローザが活動し始めた頃の京都周辺は、特に60~70年代の学生運動の鬱屈を長く引きずっていた時代である。京大西部講堂を中心とした独特の閉鎖的文化が形成されており、政治的にも思想的にも音楽的にも、一触即発とも言える、何やら不穏な空気が蔓延していた。バリケード封鎖やらオルグやら中核派やら共産主義やら火炎瓶やら、今ではあまり馴染みのないキーワードが普通に飛び交っていた時代らしいのだけど、さすがに俺も後追いの知識ばかりなので、詳しいところはよくわからん。

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 ソフトでキャッチーなシティ・ポップを演奏すると、速攻ステージから引きずり降ろされる、アバンギャルド臭ムンムンなハードコア系やら、時代が止まったかのようなブルース・ロックが幅を利かせていた、当時の京都の音楽シーン。その中で揉まれて頭角を現してきたのがローザなのだけど、そういった特異な状況下でも、彼らの音楽はオリジナリティが強すぎて異端だった。そしてどんとのキャラクターもまた、「何でもあり」なはずのアングラ・シーンでさえ浮いていたのだから、孤高の存在となるのは致し方なかった。だってこんなポテンシャルのバンド、誰も対バンしたがらないでしょ。

 京都の、特に70年代のアーティストで俺が思いつくのが村八分と外道なのだけど、どちらもちゃんと聴いたことがない。で、初めてyoutubeで見てみたところ、なんていうか独特の世界。StonesやZepelin をベースとしたシンプルなブルース・ロックなのだけど、タイトルも歌詞もサウンドもオンリーワンの世界、それにも増して両方ともフロントマンがぶっ飛んじゃっており、コアなファン以外にはなかなか近寄りがたい世界が展開されている。あ、でも外道の「ゲドゲドゲード」と延々続くライブは問答無用にカッコイイ。
 ちなみに京都のバンドあるあるとして、ベタなブルース・ロック以外のバンドは、そのあまりにも強烈な個性のあまり、フォロワー的後継者がほぼ絶無だということ。もしかするとアングラ・シーンで存在しているのかもしれないけど、表舞台に立てた者はほぼいない。

 で、ローザ。
 ブルース・ロック一辺倒ではなく過去の音楽が様々にミックスされている点は、外道とほぼ同じルートを辿っているのだけど、やはり天性のポップなキャラクターの持ち主であるどんとのパーソナリティが、中央進出に大きく作用している。また、玉城宏志(G)、三原重夫(Dr)など、解散後も様々なバンドで活躍する腕利きが揃っていたため、京都という狭いキャパの中では納まり切れないポテンシャルが強みだったのだろう。

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 俺がこのアルバムを知ったのは高2のリアルタイム、いつもの通りロキノンのレビューだった。その後NHK-FMで”さいあいあい”を聴いて、「なんじゃこれっ」と吃驚してしまったのを覚えている。インディーズ・シーンに興味はあったけど、ラジオでチラッと耳にしたスターリンには馴染めず、しばらく興味が薄れていたところを、一発で心を持って行かれたのがローザだった。
 かしこまった斜め上のメッセージだけがロックではない、と学んだ瞬間でもある。
 わかりやすい言葉だけどどこかズレている。明らかにロックではあるのだけれど、どのジャンルにも収まりが悪い、カテゴライズしにくいのがローザ・ルクセンブルグである。


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ローザ・ルクセンブルグ
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1. さいあいあい
 アルバム・リリースと同時にシングル・カットされた、のっけからハイ・テンションのロック・ナンバー。終始曲を引っ張るベース・ラインから、どんとの掛け声と同時に70年代を彷彿とさせるギターを玉城が弾きまくる。中盤のスペイシーなエフェクターがまた絶品。
 作詞作曲どんとによるナンバーだが、歌詞はまったくもって無内容の極み。あまりに内容がなさ過ぎて、ほんと勢いとテンションだけで一気に聴かせてしまう怒涛の3分間。ここを受け入れられるかどうかで決まってしまう、まさにローザが確立した唯一無二のオリジナル・サウンド。ちなみにコーラスとして、当時レーベル・メイトだったepoが参加。まぁほとんどわかんないけど。

2. あらはちょちんちょちん
 これもどんとによる詞曲で、ちょっとブギウギ風のブルース・ナンバー。こちらも1.同様、独特の言語感覚で埋め尽くされているため、内容を追うものではない。
 冒頭のドラムの鳴り方がゲート・エコーバリバリで80年代ということを思い起こさせるけど、それ以外は普通に70年代のオーソドックスなサウンド。それでも独自性を感じさせるのは、やはりどんとの個性あふれるヴォーカルなのだろう。
 


3. フォークの神様
 GSテイストの入った歌謡ロック。ロック一辺倒ではなく、きちんと幼少時からのルーツも取り込んでいるのが、ローザ、とくにどんとのサウンドの特性である。
 もしこのバンドにどんとがいなかったら?多分玉城主導のバンドとなって、Zeppelinベースの重苦しいへヴィ・サウンドが延々と展開され、世に出ることはなかっただろう。何しろ解散後一発目のソロ・ライブで「組曲Led Zeppelin」を披露して、渋谷陽一から絶賛された男である。彼単体では、メジャー・シーンに出るにはちょっと弱いのだ。
 だからといって、どんとがソロまたは別バンドでやっていたら?多分ただの変人バンドで終わっていただろう。
 BeatlesやStones、同時代ではBOOWYなどの例にあるように、やはりメンバーとの奇跡的な出会いというのは重要である。

4. デリックさん物語
 永井利充(B)詞曲・ヴォーカルによる、ファンク・ビートとZeppelinサウンドにサイケデリック・テイストをごちゃ混ぜにしたナンバー。デリックさんは多分近所に住むヒッピー崩れだと思われるが、特に京都周辺にはこういった人が多く生息していたのだろう。
 どんと色が薄いので、純粋にバンド・サウンドの地力の強さがわかる。でもやっぱり、どんとからインスパイアされて、こういった曲が作れたんだろうな、きっと。

5. かかしの王様ボン
 どんと作詞玉城作曲による、ちょっとメランコリックなロッカ・バラード。間奏のギターがやはりJimmy Pageのオマージュ。純粋にメロディを追えば、充分キャッチーな曲なので、意外と現代でもいけるんじゃネ?って気がする。
 この独特の言語感覚を21世紀で通用するように表現できるアーティストと言えば…、ダメだ、思いつかない。シャレでいいから、SEKAI NO OWARIあたりがやってくんないかな?

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6. さわるだけのおっぱい
 「ボインやで~」からインスパイアされたのか、それともアンサー・ソング的扱いなのか。終盤、ブレイクにて大人数コーラスでタイトルを楽しそうに連呼している様子が目に浮かぶよう。ここでA面終わりの大団円。

7. シビーシビー
 ここからB面。大名曲である。いまだにシビーが何なのかは不明だけど、長い日本のロックの歴史の中で、これほどスウィートでメロウなロック・ナンバーを、俺はまだ知らない。
 リリースされてから30年近く経つというのに、いまだにこの曲の虜になっているファンは多い。これと対抗できるのは”ファンキー・モンキー・ベイビー“くらいだろう。いやマジで。

 シビーシビー お星になったのね
 お別れのキッスの代わりに 甘い甘い雨
 贈り物 空の向こうから 指輪をくれたよ

 こうやって文字に起こしてしまうと魅力が失われてしまう。歌詞とメロディ、どんとの声とローザのサウンドが合わさってこそ、たちまち甘酸っぱいポップなロック・ナンバーに様変わりするのだ。

8. テレビ28
 玉城詞曲による、4.同様ファンクをベースとして、縦横無尽に飛び回るギターを主体としたロック・ナンバー。リーダーである彼としては、サウンドをこの方向性で推し進めたかったのだろうけど、どんとの路線とのズレが大きくなり始め、バンドが制御不能に近くなっていた頃でもある。
 現代風刺を織り交ぜたロック・ナンバーとして、バンド・サウンドはすごく良いのだけれど、フック・ラインがないので、アルバムの中でも聞き流してしまうことが多い。

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9. まったくいかしたやつらだぜ
 5.同様、どんと作詞玉城作曲による、思いっきりZeppelinにリスペクトしたリフとブルース・ロックとのハイブリット。どんとの歌詞にしては珍しく具体性があり、パパラッチ(当時はフライデーやフラッシュなどの写真週刊誌による芸能スクープ、行き過ぎた取材報道が社会問題化していた)を題材としているのだけど、まぁおちょくった内容。
 でもどんとの場合、こういったアッパー系のナンバーの歌詞はテンション一発、もっと無内容の方が合ってる。

10. 橋の下
 ローザのバラード系では最高峰に位置する、そして80年代以降の日本のロック・ナンバーとしても確実に上位に入る、どんと作詞玉城作曲による一世一代の名曲。多分、玉城はこの曲を”Stairway to Heaven”的位置づけで作ったのだろうと思われる。曲構成や展開なんてそっくりだし。
 歌詞についてはどんと、「当時京都市内で知らぬ者はないと言われた伝説の浮浪者ジュリーを歌った」説と、「上京してから住んでいた埼玉の川を描写した」説があるのだけど、多分どっちもアリだと思われる。ていうか、どっちでもいい。
 他のどんと詞同様、こちらもシンプルな内容なのだけど、アッパー系と違って擬音が少ないため、普通に「詩」として捉え、様々な解釈が可能。
 俺的にはこの曲が大好きなため、ほんとは全部転載したいくらい。まぁ見て聴いてほしい。
 


11. 眠る君の足もとで
 当時としては珍しくアフロ・ビートをベースとして、メランコリックな童謡調の歌詞をストレートに歌うどんと。こういった側面もあるのか、と感心してしまう、ちょっと珍しい曲調。コーランっぽいコーラスが次第にミニマルなズレを生じ、次第に重層的になっていく構造など、明らかにニュー・ウェイヴの手法である。
 



 この後、メンバー間の音楽性の相違、特にのちにBO GUMBOS結成に動くどんと、Zeppelinベースのロックを追求したい玉城との確執が大きかったので、解散はやむを得ない流れだったと思われる。
 ちょうどそのメイン2人のベクトルがギリギリ同じ方向を向いていたのが、このアルバムまでだった。それくらい捨て曲のない、俺的には日本のロックとしては完璧なアルバムだと思っている。
 そりゃ成海璃子も納得だ。


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