フリードマン・ルールを批判する――流動性の罠、長期フィリップス曲線 | 進撃の庶民 ~反新自由主義・反グローバリズム

今年度に入って、望月夜様の寄稿コラムを毎週火曜日にお届できるようにっております!!!


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noteにて、「経済学・経済論」執筆中!

「なぜ日本は財政破綻しないのか?」

「自由貿易の栄光と黄昏」

「なぜ異次元緩和は失敗に終わったのか」

「「お金」「通貨」はどこからやってくるのか?」などなど……

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今回も、前回に引き続き、新しい古典派、主流派経済学へ対抗するコンセプトのコラムになる。

今回扱うフリードマン・ルールは、以前別のコラムでちらと触れたことがあるのだが、今一度解説しよう。

参考リンク:第十一回「貨幣と金融政策

フリードマン・ルールというのは、大ざっぱに言えば、名目金利が0%であることが望ましいとするルールである。
もし名目金利が正なら、貨幣(金利0%)と債券(正金利)との間で資産保有選択や資産売買が必要になる。
こうした保有選択や売買にかかるコストを最小化するのは、名目金利が0%になる政策ルールである。(貨幣がありふれており、債券への貸出に何のプレミアムも生じない状態)

価格硬直性を導入しないプレーンなモデルにおいて、フリードマン・ルールの最適性は極めて頑健である。
したがって主流派経済学では、金利がゼロである経済それ自体が不況であるという認識をしばしば持たない。

また、経済成長率が正であれば、実質金利も正になるので、実質金利が正・名目金利が0の経済とは、すなわちインフレ率がマイナスのデフレ経済になる。主流派経済学では、デフレ経済が理論上最適経済であることになってしまうのである。

これに対する批判はいくつかある。

価格硬直性を前提とした場合、名目金利をゼロに維持する政策は、流動性の罠に嵌る問題を抱えてしまう。
もし自然金利がゼロ未満になってしまったとき、名目金利にはゼロ下限があるため、利下げによる回復が不可能になる。
名目金利がゼロだからといって、最適な「デフレ率」が実現しているとは限らず、それを下回る「デフレ率」に至っている場合があるし、そうなってしまった場合、金利のゼロ下限によって経済を救済不可能になってしまう。

したがって、名目金利が十分に正になるようなインフレ率を維持し、自然金利の沈降に対して利下げで対応できるようにしておくべきだ、というのがクルーグマン型の流動性の罠論であり、インフレ調整論である。

参考:現代経済学の枠組みにおける不況論(クルーグマンのIt's Baaack論文解説)


もう一つは、長期フィリップス曲線に関する分析結果による批判である。

参考:アカロフ、「近似合理的な賃金設定と価格設定、長期のフィリップス曲線」

このジョージ・アカロフによる分析では、経済主体が限定合理的(近似合理的)であり、完全合理的な場合よりも限定的な情報利用をするという現実的な想定をした場合のモデリングを行い、それによって、失業率を最低にする特定の正のインフレ率があるということを導出している。

従来の自然失業率仮説では、経済は一意の自然失業率を持っており、どのようなインフレ率を採用してもそこに長期的に収斂することになっていたが、アカロフのモデリングでは、経済は一定の自然失業率"幅"を持っており、しかも特定のインフレ率においてその幅のうちの最低値を選択することが出来ることを示した。

つまり、現実として、長期フィリップス曲線は垂直ではない(長期的にもインフレ率と失業率は中立にならない)ということがわかったのである。アカロフは、このモデリングが現実のデータにも整合することを示している。

こうしたメカニズムがある場合、フリードマン・ルール(デフレが最適なルール)を採用すると、経済は不要な高失業状態に陥ってしまうことになる。


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