フィリップスコレクションの見どころ ワシントンDCの素晴らしいモダンアートコレクションを誇るミュージアム The Phillips Collection

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先日、美しい桜を見に訪れたワシントンDCでは、今まで訪れたことのない美術館を色々と巡ってみました。その中の一つがこちら、アメリカで最初の近代美術館として誕生したフィリップスコレクション (The Phillips Collection) です。ワシントンDCのナショナルモールから少し北側へ行った、デュポンサークル (Dupon Cicle) というところにある美しい邸宅の美術館です。フィリップスコレクションは、世界の近代美術の流れに大きく影響を与えたコレクターによる素晴らしい美術館であり、ルノアール、ボナール、モネ、マネ、ゴッホなど印象派やポスト印象派の作品から、その後のアブストラクトアートまで有名アーティストの作品を数多く見ることができます。邸宅美術館ならではのゆったりとした品格のある素敵な雰囲気の中、一つ一つの作品に魅入ってしまいました。

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フィリップスコレクション (The Phillips Collection) は、近代美術作品の収集家だったフィリップス夫妻のコレクションをもとに、1921年に誕生した歴史のある近代アートミュージアムです。アメリカで近代美術館 (Modern Art Museum) と言うと、ニューヨーク近代美術館 (MOMA) が思い浮かびますが、モマが設立されたのは1929年、フィリップスコレクション (The Phillips Collection) は、それよりかなり前に設立されたアメリカで最初の近代美術館です。ダンカン・フィリップス (Duncan Phillips) さんとアーティストの妻、マージョリー・フィリップス (Marjorie Phillips) さん夫妻のコレクションをもとにした邸宅ミュージアムで、個人的な趣味がコレクションにより反映されている所が楽しいミュージアムです。特に、ボナール (Pierre Bonnard)、パウル・クレー (Paul Klee)、ロスコ (Mark Rothko) の作品が多く見られます。
ミュージアムは、3フロアに渡り、地下にはライブラリーもあります。主な展示は、2階と3階になります。現在は工事中で閉鎖されていますが、2階からはフィリップス邸へも繋がっていて、完成後は見学することができます。フィリップス邸は、1897年に建てられたワシントンDCらしいジョージアン・リバイバル様式の建物で、国家歴史登録財(National Register of Historic Places)にも指定されています。

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印象派の素晴らしい名作の数々

館内には、たくさんの名作が飾られていますが、その中でも一際目立つ作品が、 ピエール・オーギュスト・ルノワール (Pierre-Auguste Renoir) の1881年の作品、『舟遊びをする人々の昼食』(Luncheon of the Boating Party) です。とても巨大なキャンバスに、繊細な色使いで、生き生きと描かれている、印象派を代表する素晴らしい作品で感動させてくれます。ルノアールの好きな作品は色々ありますが、中でもこの作品はベストの一つかもしれません。フィリップスコレクションを訪れる人々の中にも、この作品を見るために訪れるという人もいます。

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こちらは、初期印象派の代表的なアーティストの一人、エドゥアール・マネ (Edouard Manet) の作品 “Spanish Ballet”。マネは、それまでの宗教画と肖像画中心のアートから、日常の何気ない一場面へとアートの対象を広げたアーティストとして知られています。

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ドガのダンスリハーサル。

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こちらは、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ (Vincent van Gogh) の『道路工夫』The Road Menders、1889年の作品です。フィリップスさんがゴッホの作品の中でベストな作品だというほど気に入っていた作品だそうです。また、ゴッホは自分の作品を何度も同じモチーフで描く人だったようで、この作品と同じモチーフの作品がクリーブランド美術館にあります。同じタイトルの絵で、黄色をベースにしているのは同じなのですが、フィリップスコレクションにある作品の方が優しい色味で、クリーブランド美術館の方の作品は強い色味の作品となっています。

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ポール・セザンヌ (Paul Cézanne) の1895年の作品 “Fields at Bellevue”。

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クロード・モネ (Claude Monet) の作品など印象派、ポスト印象派の名作の数々が並んでいます。

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ピカソの青の時代の作品、青い部屋 (Blue Room)。実はこちらの作品、2017年に非常に話題となった作品で、コーネル大学の研究により、このピカソの絵の裏側に更に絵が隠れていることが発見されました。

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フィリップス夫妻は、かなりボナールが好きだったようで、数多くのボナールの作品が展示されています。こちらは、ボナールの『早春』(Early Spring)。

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カンディンスキーなどの抽象アートコレクション

ワシリー・カンディンスキー (Wassily Kandinsky) の1913年の作品。モネに影響を受け絵を描きはじめたというカンディンスキーですが、アブストラクトアートの流れを作り出したアーティストの一人です。

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こちらも1913年の作品。カンディンスキーと並び、初期のアブストラクトアートの代表的なアーティスト、マーク・フランツ (Mark Franz) の作品です。

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20世紀アートの巨匠

時代と共にコロッと作風を変える変幻自在のアーティスト、パブロ・ピカソ (Pablo Picasso) の1934年の作品 “Reclining Figure”。

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アンリ・マティス (Henri Matisse) の1948年の作品 “Painter’s table”。

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パウル・クレーに影響を受けた10人のアメリカンアーティスト

フィリップスコレクションでは、現在、スイス出身のドイツ人アーティスト、パウル・クレー (Paul Klee) と彼の影響を受けたアメリカ人アーティストの特別展、”TEN AMERICANS After Paul Klee” が開催されています。
数多くのパウル・クレーの作品と共に、20世紀中頃のアメリカンアートの中心となった10人の抽象表現アーティスト(Abstract Expressionist) の作品が並んでいます。パウル・クレーは、カンディンスキーと同じく、ドイツの美術学校、The Bauhaus の先生をしていたアーティストで、お互い大きな影響を与え合っていた存在だと思われます。
左の2作品はパウル・クレー (Paul Klee) によるもので、右の作品は、Kenneth Noland の In the Garden です。

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パウル・クレー (Paul Klee) の作品はまだまだ続きます。“Tropical Blossom,” 1920。

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愛嬌のある作品、She Bellows, We Play。

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どの作品共に色使いがとても綺麗です。象形文字のような作品、Tree Nursery。

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クレーと言えば猫をモチーフとした作品が思い浮かびますが、そんな雰囲気を醸し出す作品、A Bust of Child。

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ポラック (Jackson Pollock) が定番のスタイルを確立する以前、1940年頃描かれた珍しい作品なども見ることができます。

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ADOLPH GOTTLIEB の先見者 (The Seer) や、

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Bradley Walker Tomlin の作品など印象的なアブストラクトアートの作品が数多く展示されています。

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アメリカへ一度も訪れたことのなかったパウル・クレーですが、当時、ナチスによる美術作品の廃棄処分を逃れるために、大量に作品がアメリカに運び込まれたそうです。そんな作品を見て、新しい表現方法に感銘を受けたアメリカのアーティストたちも多かったわけですが、そんな20世紀アメリカンアートへ、パウル・クレーが与えた影響に焦点を当てた特別展がこのフィリップスコレクションで現在開催されている “TEN AMERICANS After Paul Klee” になります。5月6日まで特別展は開催されており、詳細については こちらの映像で詳しく紹介されています。

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生き生きと描かれた古典アート

印象派以降が中心の美術館ですが、中には、時代を遡って17世紀初頭のエルグレコの作品もあります。たしかにこの作品を見ていると、宗教画にもかかわらず写実的を通り越し、生き生きと描かれていて印象派的な側面が感じられる気がします。

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こちらは、19世紀初頭のゴヤの作品です。グレコの作品同様、ペテロ(St. Peter)を描いた宗教画なのですが、全く違う印象を受けます。どちらも通常の宗教画とは一味違った雰囲気を醸し出しています。

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フィリップスコレクションの著名なアメリカンアート

ヨーロッパの印象派作品だけでなく、アメリカ人アーティストによる印象派的な作品も展示されています。こちらは、John Henry Twachtman の1890年の作品 “Summer” です。

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ニューヨークに美術学校(The Chase School)を設立し、先生としても有名なアメリカ人の印象派アーティスト、William Merritt Chase の作品もあります。現在の Parsons The New School for Design へと続いて行く学校だそうです。

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オキーフ(Georgia O’Keeffe)やホッパー(Edward Hopper)ら多くの著名なアメリカ人アーティストの先生だったそうです。こちらは、オキーフ(Georgia O’Keeffe)の作品です。

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こちらは、ニューヨークなど都市部の何気ない一コマを描いた作品で有名なホッパー(Edward Hopper)です。

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この他、写真撮影は禁止となっていますが、ロスコ (Mark Rothko) の作品のみを展示した小さな部屋があり、独特の雰囲気が保たれています。
ロスコは、以前、ニューヨークのギャラリーで特別展が行われていました。ロスコについてはこちらをどうぞ。

チェルシーのギャラリーで驚きのロスコ Rothko の特別展

フィリップス夫妻という素晴らしいコレクターの目を通して集められた、印象派から20世紀中頃までの近代アートの豪華な作品の数々が展示されるとても素晴らしいコレクションの美術館です。アート好き、印象派好きの人は、ワシントンDCを訪れたら是非訪れてみてください。

フィリップスコレクション The Phillips Collection
1600 21st St NW, Washington, DC 20009 地図

フィリップスコレクションの見どころ ワシントンDCの素晴らしいモダンアートコレクションを誇るミュージアム The Phillips Collection was last modified: 4月 21st, 2018 by mikissh