高麗屋三代同時襲名。
37年前にも行われたが、まさかまた観られるとは思わなかった。
今回の大向こうは40年前のような賑わいがあった。
拍手なんかしなくてもいいほど、ここというタイミングで降り注ぐような大向こう。
(違う方向からちょっとヘンな声もかかっていたが)
若い頃の私にとって、松本幸四郎は初代白鷗だった。
染五郎は九代幸四郎で二代目白鷗。
37年前に襲名があったときには、頭の中の切り替えがなかなかできなかった。
今回の口上のとき、十代目幸四郎の顔を見たとき、
もう(心の中で)「染ちゃん」とは呼べないんだなと思うと一抹の淋しさを感じた。
私にとっての夜の部の目玉は・・・
『勧進帳』
新・幸四郎が染五郎のとき、初めて弁慶をやったときは、
正直ニンではないし、やりたいからやるっていっても・・・だった。
今回は富樫を吉右衛門がやるということで、私の中では富樫目当てだった。
義経と四天王が花道に並び、最後に弁慶が登場したとき、
そこに「染ちゃん」はいなかった。
新・幸四郎としか言いようのない弁慶がいた。
吉右衛門の富樫はもうもう最高だった。
そして、その富樫に引っ張ってもらっているところはあるとは思う。
けれど、新・幸四郎の弁慶は素晴らしかった!
細かいことを言えばキリがないが、そういうことは置いておいて、
「これが十代目幸四郎の弁慶だ」と思った。
弁慶をやったときに、十代目幸四郎が誕生した気がした。
私は藤間家の弁慶をけっこう観てきた。
八代目幸四郎、二代目松緑、初代辰之助、二代目吉右衛門(いちおう元藤間)、そして九代目。
それぞれの弁慶だった、好みの問題ってだけだった。
そして、今回十代目幸四郎の弁慶は、誰の真似でもなく(もちろん教わった先輩の色はあるが)、
十代目独自の弁慶が、これからどんどん出来上がっていく気がした。
「染ちゃん」の中には、十代目松本幸四郎になる栄養素がいっぱ貯めこまれていたのだな。
それがちょうどよい時期に孵化して、松本幸四郎として新たな姿になった。
そんな気持ちにさせてくれた。