日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

河のほとりで (39)

2023年01月30日 03時39分43秒 | Weblog

 人の動きがけだるく感じる、日曜日の昼頃。 残暑の暑い陽ざしの照映える舗道を、健太と昭二の二人は駅前のホテルに向かって歩いていた。
 健太は、白の半袖シャツに黒色のズボンを履いてサンダル履きのラフな格好をしていたが、昭二は、めったに着たことがないグレーの薄手の背広に涼しげな水玉模様のネクタイを締めて革靴を履き、健太と並んで愉快そうにお喋りしながら歩んでいた。
 健太は歩きながら昭二に対し得意満面な顔をして大助からの電話連絡で、やっとの思いで姉貴の珠子を誘い出すことに成功し、午後1時頃ホテルニ行くとの返事を貰ったことを教えたので、昭二は普段にもまして朗らかであった。

 二人は、ホテルの5階にある広い食堂の窓際に席を見つけて周囲を見渡したが、客の入りが半分位で、少し離れた席には外国人の女性3人が賑やかにお喋りして食事を楽しんでいた。 フロアーの隅では黒のドレスで身を装った若い女性が、食欲をそそる様な柔らかい曲をピアノ演奏しており、昭二が憧れの珠子に語りかけるのには、落ち着いた雰囲気が店内に漂っていた。
 健ちゃんは、椅子に座るや先輩らしく真面目な顔で昭ちゃんに対し
 「お前は、肝っ玉の小さいところがあるので、今のうちに少しワインを飲んて気持ちを大きくしておけ」
 「俺は、ビールをご馳走になるから」
と言って早速注文をし、運ばれて来るや二人は勢い良く呑み始めた。
 健ちゃんは、呑みながらも昭ちゃんに、自分が経験した女性に対する口説き方を懸命にアドバイスしていた。

 二人がアルコールで気分が乗ってきたころ、約束通りの時間に、大助が浮かぬ顔をして珠子を連れてやって来た。
 健ちゃんと昭二の二人は、大助の浮かぬ顔を見て、珠子を誘いだすために口説くのに相当苦労したんだろうな。と、少し可哀想におもった。 
 珠子は休日のため、薄水色のワンピース姿で胸に桃色のリボンつけていたが、背丈は人並みだが痩身で面長の肌が白いところが、体形的に如何にも大助と姉弟であることが一見して判り、高校生3年生にしては大人びいた落ち着いた雰囲気を漂わせており、彼女を見た健太と昭二を爽やかな気分にさせた。
 昭ちゃんは、彼女の希望でカルピスとサンドウイッチを、健ちゃんと大助には、約束通り特上の刺身定食を注文したが、ウエートレスが定食を運んでくると健ちゃんは、昭ちゃんを一層勇気ずけるためにオンザロックとビールを追加注文して、皆が、町内レクリエーションに催すソフトボールの話などをまじえ、あれこれと話が弾んで食事を楽しんだ。

 昭ちゃんは、オンザロックが効いてきたのか、何時になく冗舌になり、珠子さんに対し
  「健ちゃんは、体が大きいため運動神経が鈍く、それに店の営業の仕方も僕が、時々、教えてやっているんです」
と言い出し、聞いている健ちゃんは<オイオイ 少し話が行き過ぎでないか、大事なときに脱線しやがって・・>と思ったが、事前にコーチしたのは自分だし、オンザロックを余計に飲ませすぎたかなと思い反論するのを我慢していた。

 そのうちに、昭ちゃんが事前の約束とおり健ちゃんにウインクしてみせたが、彼は、この楽しい雰囲気から家には帰りたくなく、それに、虫の居所が変わったのか良く考えてみると、珠子さんを昭ちゃんに一人占めにされるのも癪に障り、昭ちゃんのウインクを無視して刺身を肴に飲み続けていたところ、昭ちゃんは業を煮やして今度は、テーブルの下で健太の足を蹴飛ばしてきたので、彼も昭ちゃんの足首を踏みつけてやったら、昭ちゃんは、続けざまにウインクを連発して、怒りを押し殺して睨み返して来た。

 二人が攻防を繰り返しているときに、突然、昭ちゃんが「アッ!」と呟いて掌で右目を抑えたので、ビックリした珠子さんが
 「どうしたんですの?」「目に飲み物でも入ったの・・・?」
と、心配そうに昭ちゃんの顔を覗きこんで尋ねた。 
 昭ちゃんは、うろたえながらも
 「いいえ、ここんとこの筋肉が痙攣を起こして、動きが止まらなくなったんです」
と瞼に手を当てて答えると、健ちゃんが「どれどれ」と言って立ち上がり、彼の手をどけさせてみると、右の瞼が、ヒクヒクとウインクを繰り返しており、健ちゃんも怪訝に思い
 「昭ちゃん無理するからだよ」「水で冷やしてみたら・・」
と言うと、珠子さんが大急ぎでカウンターから冷えたお絞りを借りてきて、彼の目に当てて冷やした。
 そんな優しい仕草も、健ちゃんに嫉妬の気持ちを駆り立たせた。
 運悪く、丁度その時、反対側の席に中年の派手な着物を着た3人連れの女性客が座り、その中の一人が、昭ちゃんのウインクに気ずき、自分にしてくれていると勘違いしてニヤット笑ってウインクを返してきたので、昭ちゃんは「チェッ!」と舌打ちして椅子をくるっと回して入り口の方に向いてしまった。
 すると今度は、昭ちゃんと健ちゃんの声に刺激されたのか、鳥篭のオームが「コンニチハ・・ ドウシマシタ・・」と、とぼけた口調で喋りだした。 
 彼は、いまいましげに籠の中の鳥を睨みつけ
 「コノヤロウ 焼き鳥にして食ってしまうぞ!」
と思わず叫んでしまった。
 大助は、最初のうちは自分の役目は終わったと食事に余念がなかったが、昭ちゃんの異変に食事の箸を休めて様子を見ていたが、頭の中では苦労してデートの機会を作ってやったのに、これではだいなしだわ。と、彼等の調子に乗った態度を忌々しく思い、あとで自分達の計画がバレテ姉貴が機嫌を壊さねばよいがと、自分にとばっちりが来ることを恐れ心配になってしまった。

 健ちゃんは、珠子さんに対し落ち着いた声で
 「若しかしたら、昭ちゃんはビタミン不足かも知れませんね」
と知ったか振りを装い説明して、昭ちゃんに
 「オイッ! 八百屋だからっていって 普段、野菜や果物ばかり食って入るんじゃないのか」
 「俺の店の肉をもっとたべるんだなッ!」
と、からかい気味に話すと、珠子さんが昭二をかばう様に
 「そんなことないと思いますゎ」「健ちゃんの友情が不足してるんでないかしら」
と皮肉を言うと、健ちゃんは慌て気味に
 「ソッ、そんなことないですよ。ま、まだ食事が終わった訳でもないし、突然奇妙な病気を起こすなんて、友情の不足は、コイツの方ですよ」
と釈明に努め大助を見つめて救いを求めた。大助は箸を置くこともなく無関心に
 「ドウヤラ マタ シクジッタミタイダナ」
と呟いて、食べることに余念がなかった。
 珠子は、突然のハプニングに言葉を失い少し間をおいて
 「貴方達お二人は仲が良すぎて、男性の友情って素晴らしく、わたしには本当に難しい問題ですネ」
と思いつきの返事をして、ナプキンで口元を拭ってクスクスと笑った。
 健ちゃんは、珠子に返す言葉も無く、大助の応援も期待出来そうに無いので、昭ちゃんの運の無さに呆れて渋い顔で刺身定食をヤケグイしていた。
 
 
 

 
  

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