Fish On The Boat

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『虚人のすすめ』

2017-07-05 00:00:25 | 読書。
読書。
『虚人のすすめ』 康芳夫
を読んだ。

肩書が「国際暗黒プロデューサー」ですから、
初めて彼を知った僕なんかにすれば、
彼はとても色モノ感の強いひとに思えます。
で、本書を読んでいると、
「業界のなかに安住するな」みたいな語句が飛んできます。
つまりは、あえて色モノ的に見えさえするポジションに
好んで立つひとなのか(たぶん、そうです)。

本書は、彼のこれまでの興行師としての成果、内容、
そこにたどり着くまでの話を聞くようなところが多いです。
それは、日常のルールや常識といったものを
重要視して生活しているひとにしてみると、
まるで、日常の奇譚、日常の冒険譚とでもとらえちゃうような、
破天荒で眩しく、虚実がいりまじっているのではないか、と
感じられすらする内容になっているように思えます。

多くの人にとっては夢想するだけでも珍しいような
非日常のものごとを、現実に浮かびあがらせてしまう、
実現してしまうのが、伝説レベルの興行師の仕事です。

鋭い思いつきを元にして、
でもどっちに転ぶかわからない状況でも勝負するときはし、
うまくいけば大金を手にし、銀座なんかでぱあっと使い、
また次の、世間をあっと言わせるようなイベントの開催に、
頭や感性を使う。
失敗すれば、夜逃げしたこともあるといいます。

日本初のインディ500の開催、
モハメド・アリの世界戦の日本開催、
ネス湖のネッシー探検隊、
アラビア魔術団の日本全国での興行、
人間とチンパンジーのハイブリッドかと謳われた、オリバー君の来日、
大物歌手トム・ジョーンズの日本公演、
などなど、これらを著者は立案し遂行しました。

一時代を盛り上げ、楽しませたのは間違いないですね。
フィクションみたいなものも混じっていますから、
マジメなひとからすると、
こんなの詐術だ、ということにもなるでしょうね。

虚人というのは、「実業」に対する「虚業」という言葉から
著者が発展させた言葉だそうです。
虚業は、ジャーナリスト・大宅壮一が言いだした言葉。
投機的金融経済、それに群がるマスコミ、広告代理店、
時代の徒花のような芸能人や文化人を、揶揄を込めて、
虚業、および、虚業家と呼んだということでした。

著者は、虚業家とはまた別種である虚人の生き方こそ、
現代のようなノールールにどんどん向かっていく世界で生きていくための
生き方なんじゃないかとしています。
「虚」とはゼロということで、
その「虚」のゼロとしての本質に無自覚であるのが虚業家で、
ゼロであることがなんらかの按配で露呈されたときに、
パニックをおこさない、つまりゼロに自覚的であるのが虚人であるとしている。

さらに、酔狂ともいえるロマンや夢を持つことが大事なのだ、
それこそが虚人だ、と言っています。

ゼロであること知っていながら、
そこに「無」ではなく「有」を出現させ、熱狂をつくる。
国際暗黒プロデューサー・康芳夫さんの根本姿勢ってそこなんですね。

本書は仕事の休み時間に読むことが多かったです。
そうやって外に持ち出して読んでいるときと、
自分の部屋で読んでいるときとでは、
なにか、理解の仕方がちょっと違いました。
外で読んでいるときは、すんなりおもしろく読めるのですが、
部屋でやや内向的な気分で読んでいると、
うっすら拒絶反応を感じるんですよ。
書いてあることは納得してわかるのだけれど、
なんとも得体のしれない不信感みたいなものも、
自分の背後にたちのぼるのがわかる。
そこらへんは、修羅場をかいくぐり闇を知る著者に対する、
読者であるぼくの警戒心なのかもしれないです。

まあでも、それはそうと、
おもしろく、そしてさらっと読めてしまって、
考えさせられるものもちょっとある感じの本でした。
常識にがんじがらめになっているひとには、
あたまの刺激的な凝りほぐしになることうけあいです。

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