Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『きいろいゾウ』

2018-07-19 20:27:20 | 読書。
読書。
『きいろいゾウ』 西加奈子
を読んだ。

夫の名前がムコで、妻の名前がツマという夫婦。
都会から田舎に移り住み、
その季節の移ろいの中での暮らしぶりを綴っていく小説。
やがて岐路に立つ、ムコとツマ。

著者・西加奈子さんの考える
「これがたぶん、いやきっと正しい生活」っていうのは、
僕にも「賛成!」と諸手をあげられるようなイメージです。
彼女の真正面性って本当に真正面だと僕は思う。
人それぞれに共通する「真正面への向き方」がここにあると思った。
複雑さを捨てて因数分解して出た「真正面へ向く姿勢」がある。
そういう精神が根底にあって描かれた世界のように僕は感じました。

ツマの文体、ムコの文体、
そしてクライマックスで盛り上がったときのそれぞれの文体とその密度。
書き分けと濃淡と。
総じて繊細ながらもあっけらかんとして、
そして著者の、
「エンタメとして、書き手の真剣さを感じさせないために用いた技巧や気遣いの中での、
読者の前から消し去って見せないでいる真剣さ」を感じました。

また、ちょっとネタバレになるかもしれないですが、
ツマさんの心が危うい感じになっていって、
でもクライマックスで起こる奇跡にシームレスに通ずるようにそれが繋がっていて、
あたかもそれは「もろ刃の刃」の負の面から見せられて、
そこから表にひる返して正の部分で終わるような感じがあって、
それでいてその紙一重さが出てるのがなお好かったです。

なかなかの長さの小説ですが、
読んでいると凝りがほぐれるようなところがありました。
好かったです。


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