Fish On The Boat

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『跳びはねる思考』

2018-07-07 00:39:17 | 読書。
読書。
『跳びはねる思考』 東田直樹
を読んだ。

著者は自閉症者です。
テレビで著者の特集を見たことがあるのですけれども、
発語のみによる会話が難しく、
文字盤を使う「文字盤ポインティング」という方法で会話していました。
そのような、他者とコミュニケーションをとることが難しい自閉症者が、
自らを自らの言葉で表現し伝えるのが本書です。

自閉症の人たちは一般的に社会に適応できないと言われていますし、
障害者でもあるわけで、いったいどういうことを考え、
どういうことを感じて生活しているのかがほとんどわからなかったりします。
僕もこれまで身近に自閉症の人がいたことがなく、
まるでどういう障害の人たちかまったくわかりませんでした。
ともすれば、知的障害をもつ人たちのように、
こちらの言葉がなかなか理解できず、
ごく初歩的な言語化しかできない人たちなのかなともみていました。
でも本書を読むと、そんなふうなイメージで見ていた自分が恥ずかしくなります。
しっかりした、そして詩的で、柔らかな哲学的な言葉で満ちているからです。

そこでは、著者の感覚が、
普通の人が社会性を獲得するために
無意識的に捨てなければならないものがあることをわからせるものがあります。

たとえば、
著者には、周囲の風景、
そのなかにいる人間も木も草も石もなにもかもが等しい価値を持ち、
著者はそのなかの興味をひかれたものと、
言語にたよらずに気持ちを通わせ始めるそうです。
だから、急に言葉をかけられても、人間からの言葉だからといって
急激に注意をもっていかれるものではなかったりするようです。
それは、考えようによってはすごく自然なスタンスのようにも見えます。

また、そういった自閉症者独特の世界観をあらわしているところもあれば、
「絆」や「よりどころ」などなどへの考察を述べているところもあります。
そうして、こうやって一冊の本を仕上げたことで、
社会性が無いとされている自閉症者が、社会へ見事に参加していることになりました。
これは、とても素晴らしいことだと思いますし、
著者個人だけへの理解に限らず、
他の自閉症者の人たちへの理解を助ける意味でもあって、
ゆえに他の自閉症者が生きやすくなり、
他の自閉症者からのなんらかの発信が、
いくらか容易になるかもしれない可能性を強くしました。

まあ、以上のような感じだときばってとらえちゃいますが、
なんのことはなく、肩の力を抜いて著者の話に驚いたりを楽しんだり切なくなったり、
そしてともに考える読書体験になる本です。
人間理解の範囲が広まることと思います。


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