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女性ジャーナリスト暗殺の波紋 報道の自由を守る国境を越えた闘い【NHKWEB特集】 2018.5.12

2018-05-12 22:56:26 | 報道 NHK 民放
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NHKWEB特集

女性ジャーナリスト暗殺の波紋 報道の自由を守る国境を越えた闘い

長年、言論や報道の自由を重んじるとされてきたヨーロッパ。しかし今、EU=ヨーロッパ連合の加盟国のマルタやスロバキアでジャーナリストが相次いで暗殺される事件が起き、その根幹が揺らいでいます。
去年10月、調査報道にあたっていた女性ジャーナリストが殺害されたマルタでは今、欧米各国のメディアが協力して、暗殺事件の真相に迫ろうと、プロジェクトを立ち上げました。
そこで見えてきたのは、事件の真相究明に迫るために、これまでの常識を超えた手法で取材を進めるジャーナリストたちの姿でした。
(国際部記者 古山彰子/大阪放送局カメラマン 安居智也)

世界を震撼させた暗殺事件

ニュース画像事件現場

人口40万余り、淡路島の半分ほどの小さな島国で、EUの中で最も小さな加盟国のマルタ。事件が起きたのは、去年の10月16日でした。

ジャーナリストのダフネ・カルアナガリチアさん(当時53)が運転していた車が遠隔操作の爆弾で爆破されたのです。

ダフネさんは30年にわたって調査報道に取り組み、政府と犯罪組織との関係なども取材してきました。現職のムスカット首相の妻が海外に資産を隠していると報じ、暗殺される直前まで自身のブログで政権幹部や与党への批判を展開していました。

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私たちは事件から半年にあたる先月16日、首都バレッタで開かれた追悼集会を取材しました。集会にはおよそ1000人の市民が集まり、多くの市民から「ダフネさんの記事をいつも読んでいた。彼女は私たちに真実を伝えてくれていた」という声が聞かれ、ダフネさんがいかに人々から信頼されていたかが、伝わってきました。

最後まで取材の手を緩めず

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ダフネさんの1歳年下の妹のコリン・ベラさんが、私たちのカメラの前で取材に応じてくれました。

コリンさんによりますと、ダフネさんは飼い犬を殺されたり、記事の掲載をやめるよう脅すメールを送られたりと、数々の脅迫を受けていたといいます。

現職のムスカット首相を含む複数の政治家から訴訟を起こされ、銀行口座を凍結されたこともありました。

それでも、取材の手を緩めることはなかったといいます。
「権力者に責任を問う。疑問の声を上げ、私たちの権利を求める。だまされないように声を上げる。それが、姉のやってきたことです」

事件の真相は闇の中

ニュース画像3人の被告を伝える新聞

暗殺事件から2か月後の去年12月、警察は、実行犯だとして10人の男を逮捕。その後、3人が起訴されます。

裁判では証拠を整理する手続きが進められていますが、3人とも事件への関与を否定し、ダフネさんとの接点すらみつかっていません。3人が何者かに依頼されてダフネさんを暗殺したのではないかという見方が広がっているものの、背後関係は闇に包まれたままです。


ニュース画像ロベルト・デブリンカット編集長

しかし、政権に近いメディアは真相の究明に消極的です。政権与党につながりが深い新聞社の編集長は、私たちの取材に対して、警察が速やかに容疑者を検挙したことを評価し、政府の対応を擁護していました。
事件から半年に合わせて行われたミサや追悼集会についても一切報道を控えていました。

「彼らはダフネさんの月命日に毎月同じ事を繰り返しているだけです。それのどこがニュースなのでしょうか。何もニュース性を感じません」 (デブリンカット編集長)

ニュース画像ジャーナリスト ファビオ・ジャンゴリーニ氏

マルタ在住のフリー・ジャーナリストは、犯罪組織が絡む可能性のある事件ゆえ、取材や報道が難しいと指摘します。

「政府に近いメディアが報じるのは、首相府が発表する情報だけです。私たちも取材に全力を尽くしていますが、事件に関して信頼できる情報源を見つけるのは容易ではありません。マルタという小さな国で、真相を追求し報じることを恐れているジャーナリストも多いと思います」(ジャンゴリーニ氏)

真相究明へ 欧米各国の記者が結集

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地元の捜査機関やメディアによる真相究明が進まない中、密かに活動を続けてきたのが「ダフネ・プロジェクト」です。

イギリスのガーディアン紙やフランスのルモンド紙、それにアメリカのニューヨークタイムズ紙など、欧米の名だたる18の報道機関の45人の記者が結集し、ダフネさんの暗殺事件の真相究明に乗り出したのです。

報道機関は通常、「スクープ」を目指して競うように取材します。しかし今回、プロジェクトに参加した各社は、報道の自由を脅かす事件の真相究明に向けて、互いに協力することに決めました。

記者たちは5か月にわたって、ダフネさんが残した資料を徹底的に分析し、関係者への取材も積み重ねてきました。

ニュース画像ローラン・リシャール氏

ダフネ・プロジェクトを立ち上げたフランス人ジャーナリスト、ローラン・リシャールさんはこう語りました。
「私たちはダフネさんが手がけていた調査報道を完成させたかったのです。ヨーロッパの世論にとっても大切なことであり、メディアの敵に対する警告でもあります。だから、私たちは、ダフネさんの事件取材に関してあえて競争をやめ、協力して取材にあたることに決めました」


ニュース画像カルロ・ボニーニ氏

また、イタリア・ラレプブリカ紙の記者カルロ・ボニーニさんはこう話しました。
「亡くなったジャーナリストのダフネさんに敬意を表するいちばんの方法は、彼女の続けてきた仕事を引き継ぐことです。ジャーナリストを殺害することはできても、その情報や伝えたかった記事までもかき消すことはできません。ヨーロッパ中のメディアが集まれば、関係者も証言しやすくなるのです」

たどりついた新事実とは

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私たちがマルタで取材にあたっていた先月17日、ダフネ・プロジェクトは初めてのスクープを報じました。

事件のあと、ムスカット政権のカルドーナ経済相が、実行犯とされる男の1人と、首都近郊の港町のバーで同席していたという新証言を得たのです。事件の関係者と政権幹部との接点が初めて浮かび上がりました。


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この疑惑が報じられると、マルタの多くの市民が首都の警察署に詰めかけ、経済相も捜査するよう訴えました。

ダフネ・プロジェクトのリシャールさんはこう指摘します。

「カルドーナ経済相がダフネさんの殺害を指示したとは、誰も言っていません。ただ、ダフネさんの車を爆破するためのボタンを押した男と会っていた事実は、重大な情報だと考えます。だからこそ、なぜ警察が経済相を取り調べなかったのか、批判的に見ざるをえないのです」

暗殺の直前 ブログに「状況は絶望的」

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調査報道に命をかけたダフネさん。暗殺される6日前、インタビューを受けた際にこんなことばを残していました。

「調査報道はとても難しくなってきている。最大の懸念は私の身の上に起きることを人々が見て、報道を続けようと思わなくなることだ」

また暗殺されるわずか数十分前には、自身のブログにこう書き込んでいました。

「悪党はどこにでもいる。状況は絶望的だ」

取材を終えて

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ジャーナリストの国際団体「国境なき記者団」が毎年まとめている「世界の報道の自由度ランキング」。世界180の国と地域の報道の自由度を分析したものです。ことしの報告書が先月25日に発表されました。

ダフネさんが暗殺されたマルタは、前の年から順位を18位下げて65位になりました。

一方で、日本は67位。G7=主要先進国の中では最下位にとどまり、暗殺事件が起きたマルタよりも低く評価されていました。

「国境なき記者団」はその理由について、「記者クラブ制などの古い慣例や外国メディアに対する閉鎖性、特定秘密保護法に関する議論が十分なされていないこと」などを挙げています。

今回の取材をとおして、調査報道に命をかけたダフネさんの信念と、その死を闇に葬ってはならないと立ち上がる欧米のジャーナリストたちの情熱に圧倒されました。

ヨーロッパが重んじる民主主義、人権、法の支配などの基本的価値観を共有するとしてきた日本。報道の自由や権力との向き合い方をめぐる議論が絶えない今だからこそ、私たち自身にも重い問いが投げかけられていると感じました。

古山彰子
国際部記者
古山 彰子

ダフネさんの慰霊碑には、今も花束を手向けに訪れる市民の姿が絶えません。レンズ越しに見える彼らの表情は、悲しみや怒りに満ちて見えました。

真実を知りたいという人々の思いは、事件当初から少しも変わっていないのです。そんな中、欧米のメディアが集結してダフネ・プロジェクトが発足、競争を超えて真相の究明を目指す取材活動が続いています。

圧力に屈せず真実を伝えたいというジャーナリズムの根本的な精神は私たちも見習わなければなりません。ダフネさんの死をきっかけに、ヨーロッパで見つめ直されるジャーナリズムのあり方。報道とは何なのか、公正な放送とは何なのか、そして映像を通して視聴者に何を伝えなければならないのか。

ダフネさんが生前どんな思いで記事を書いていたのかに思いを馳せながら進めた取材は、自分自身の報道姿勢を見つめ直す時間ともなりました。

 
 
 
 
 
 


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