蜂の旅人 [DVD]/マルチェロ・マストロヤンニ,ナディア・ムルウジ,セルイエ・レンギアニ
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北ギリシャの小さな町で教師として働くスピロ。娘が結婚し、息子も大学へ進学し、スピロは、突然、仕事を辞めます。スピロは、父や祖父のように養蜂家としてギリシャ中を旅しようと家を出ます。途中で、身寄りのない少女と出会い...。

スピロは呟きます。「家族とは離散するものなのか。」一人の男と一人の女がめぐり逢い、新しい生命を産み、育み、やがて、羽ばたき、新たな家族を作っていく。そして、仲麗しき夫婦であっても、死によって引き裂かれる運命からは逃れられません。出会いはやがて別れに繋がり、誕生は死に繋がり、何かが始まれば必ずいつかは終わります。けれど、だから、出会わなければよいとか、生まれなければよいとか、始まらなければよいいうものではないでしょう。終りがあることを受け入れながら、永遠ではない今を大切にしていく。何かが終わっても、記憶は残り、想い出となって紡がれていき、新たな日々の支えとなるはず...。

スピロのこれまでに何があったのか、家族との関係の中で何が起こったのか、その辺りにはほとんど触れられず、旅の結末が当初からの計画だったのか、途中で生まれたアイディアだったのかも微妙なところ。途中で出会う少女も、スピロの老いとの対照にはなっていますが、それぞれが相手に何らかの影響を与えるとか、この出会いによって自分の何かが変わるとか、そんな感じも薄く、作品としても面白さに繋がっていない感じです。スピロを巡るエピソードは、ほとんどが彼の過去と関連するもの。新しい生活を始めたはずなのに、結局、過去に向いて生きるしかない。"養蜂の旅"も新しい生活のようで、彼の過去と繋がるもの。少女との出会いで、彼は、自分には未来ではなく過去しかないことに気付かされた...というのは、作品から与えられる情報からだけでは妄想が入り過ぎ...ということになるのかもしれません。

人生の終盤を迎えたところで、父親として、夫として、社会人としての"仕事"にひと段落つけることができ、新しい生活を始めようと思ったけれど、そんなに何かが大きく変えられるものでもなく...といったところでしょうか。なかなか思うようには生きられないということなのかもしれません。全体としては、苦しさが残る作品です。スピロを包み込む思うに任せぬ人生を生きる苦しさ...それこそが本作の主題なのかもしれません。

さすがに映像はきれいだし、スピロの孤独や苦しさは伝わってくるし、悪い作品ではないと思うのですが、全体に、物語の描写が観念的過ぎるというか、意味ありげな描写に流れてしまった感じがあって、物語の世界にあまり入り込めないものを感じてしまいました。


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