無人地帯 No Man’s Zone [DVD]/出演者不明
¥5,184
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津波と原発事故発生の翌日には避難が命じられ、無人の土地にされた20km圏内。それでも大地の営み変わらず、2011年も春の訪れとともに桜が咲き誇っています。四季の美しい故郷に住むことができないという厳しい現実に直面させられた人々。原発から40km離れている飯舘村の大地もひどく汚染され、村民たちが故郷を離れなければならない時が迫っていて...。

破壊された街が延々と映し出されます。そして、目立った破壊はないのに、人間の気配のない映像。地震や津波が奪っていったもの。原発事故により奪われたもの。

自然は人間を育む力でもありますが、一方で、人の生活や命を脅かす脅威でもあります。生命の命を支える水は雨が降らなければ得られませんが、台風や大雨による水害は自然の力は、田や畑の作物を壊滅させ、家や財産を流し、人々を飲み込みます。太陽の光がなければ私たちが活きるための糧となる食物は育ちませんが、干ばつは大きな被害をもたらします。2011年の東日本大震災も、私たちに自然の驚異を見せつけました。

その時、私は職場でテレビの映像を観ていました。大きな揺れの後、地震の情報を得るために、職場の人たちとニュースを観ていました。大きな津波が陸地に近付き、街を飲み込む場面を観ていました。その圧倒的な破壊力にテレビのこちら側からなす術もなくただ茫然と観ていた記憶があります。あの時の衝撃はなかなか忘れられるものではありません。

一方、全く損傷を受けていないように見受けられる原発近くの家並み。原発近辺は、地震の揺れによる甚大な被害はあまりなかったワケで、沿岸部の津波に襲われた地域を除けば、基本的に、無傷の状態で人々の住まいが残っているのですが、それでも住むことができない、それどころか、立ち入ることさえ許されないという現実。

破壊されて奪われることも酷いですが、破壊を免れたぬも関わらずそこに住めない酷さも胸に迫ってきます。

花が美しく咲き誇り、鳥が鳴き、動物が走り回り、澄んだ水が流れ...。人がいないということ、人が手を入れていた場所が荒れているということ以外、何も変わらない風景が広がります。そこがどこかを知らずに映像を観る分には、心癒される長閑な美しい自然です。そこが、"放射能で汚染され人が住めない地域"だとはとても信じられません。

本作は単に原発やそこに頼ってきた私たち、事故に対して何も有効な対策を打てずにいる私たちを断罪しようとしているのではありません。避難を余儀なくされた人たちにも、原発があることで仕事を得て、それにより生活の糧を得てきた人もいるのです。この件に関して善と悪を単純に分けることも難しいでしょうし、何が悪かったのか、誰が責任を負うべきなのかを追求し、断罪しただけで何かが変わるわけではないのです。本作の視点は、現実をきちんと見ながらも、誰かに責任を押し付けて全てを終わらせることを拒んでいるのでしょう。

それよりも、私たちが、この現実をどう受け止め、この先、どう対処していくかが問題なのです。が...、私たちは、この問題から目を背けようとしているのではないか、福島の現実をなかったことにしようとしているのではないか、そこのところを訴えている作品なのだと思います。そして、それだけでなく、映像を撮る制作側の問題をもきちんと見据えているところに好感を持てました。

やや、感傷的な方向に傾きすぎた感じのところもありましたが、心に沁みてくるようなナレーションと現実を淡々と映し出す感じの映像が合っていて、静かだけれど力強い作品になっていると思います。この地震のことを、原発事故のことを忘れないために、未来への選択を真摯に考えるために、一度は観ておくべき作品だと思います。


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