最初はネタバレなしで書きます
幼いころ、「人は死んだらどうなってしまうのだろう?」という悩みに取りつかれた時期がありました。曾祖母のお葬式に出たとき、火葬場で骨だけになってしまった姿が頭から離れず、自分もいつかあのように無の存在となってしまう恐怖に打ちのめされました。もちろん両親も死を体験したことがあるわけではないので、僕の不安を打ち消せるわけもなく、ただただ困らせてしまったことを覚えています。
あのとき、この映画があったらどうなっていたのだろうと考えずにはいられませんでした。子ども心に、この作品で描かれている世界はフィクションであるとわかったことでしょう。でも、分かったうえで救われた気分になっていたのではないかと思うのです。あの世界を信じて生きてみようと、幼き僕は心にそっと誓ったのではないかと。
そう思えるぐらい、リメンバー・ミーを貫く死生観は素敵なものでした。生者は死者を敬い、死者は生者を想う。シンプルだけど温かいルール。死者の国はとても楽しそうで、死者たちはポジティブに暮らしていました。
そして現世で悪いことをした人間は、死者の国で報いを受ける。宗教の教えの中で天国や死後の世界が題材にあがる理由が初めて分かった気がしました。善く生きることで死後の世界の安寧を得られる。悪事を働いてはならない。なかなか実感の湧きにくい教えを、全く説教臭さを感じさせずにリメンバー・ミーは表現してみせました。
ネタバレを解禁する前にもうひとつ、このご時世にメキシコにスポットライトを当てるディズニーの懐の深さにも賛辞を贈りたいです。アメリカにおけるヒスパニック人口の拡大と、メキシコとの国境線に建設される壁。時流を捉えて、的確なタイミングで彼らの文化に光を当てています。ディズニーにかかれば、子供向け映画ですら単なる娯楽という枠をやすやすと超えてしまうのだなと思いました。ブラックパンサーもただエキサイティングなだけではない、メッセージのある映画に仕上がっていましたね。
ここから多少のネタバレを含みます
面白くて理解しやすいストーリー
ストーリー展開の巧みさも光る作品でした。物語として純粋に面白かったです。最初から最後まで無駄なシーンなんて1つもなく、結末までとても自然に繋がっていました。ヘクターの言っていることは実は最初からほとんどが真実で、もう1度見直してみたくなります。それでいて、複雑ではありません。誰でもすんなりと理解することができて、登場人物の心の動きまで素直に読み取ることができるでしょう。
ズートピアを見たときにも同じような感想を抱きました。このシンプルさはなかなか簡単に作ることのできないものなのだと思います。
リメンバー・ミーという楽曲に込められている想いが見方によって変わるのも面白かったです。英語の”remember”は日本語で言うところの「思い出す」と「覚えている」の両方の意味を表せる言葉。作曲された当初は、故郷を離れるヘクターが「自分のことを覚えていてね」というメッセージを込めた歌でしたが、ラストシーンでは「思い出して」という意味が持ちあがってくる。
温かい涙が止まらないハートフルさ
クライマックスのハートフルさは素晴らしかったです。こんなに温かい気持ちで涙があふれてきたのはいつ以来だろうと。
ミゲルがママ・ココに歌いかけるシーン。非常に温かい光に満ち溢れた部屋での1コマは、グラフィックだけをみれば泣ける要素なんてほとんどありません。少年がしわくちゃの老婆に向けて歌っているだけ。でも、涙が止まらない。
ヘクターが死者の国からの出国ゲートで検査を受けているシーンも、一見するとコミカルなシーンなのに、彼の心の内を想うとまた泣けてしまう。ラストは場面が切り替わっでも涙が止まらない展開でした。
ミゲルの才能について
ミゲルのミュージシャンとしての技量について意図的にぼかされているような印象を受けたのも気になっているところです。
血筋による才能であることを強調することはできたでしょう。でもそれをしてしまうと、世の中持って生まれた才能のある人間が強いという価値観に繋がる。逆に血のにじむような努力をしたということを強調すると、今度はスポ根映画のようになってしまう。表現のバランスに苦心したのではないかと勘ぐっている部分です。
ミュージカル映画として語りたくなる人もいることでしょう。グラフィックの美しさについて一言述べたくなる人もいると思います。ガイコツたちのコミカルな動きも良かったですね。多面的で重層的な作品になっていて、どの面を見ても一級品に仕上がっている、アベレージの高い映画だなと思いました。
キャラは弱いのかもしれない。しかし。
その一方で、キャラクターの弱さという点が気になりました。プリンセスは出てきませんし、かわいい動物やクリーチャーが活躍する話でもありません。普通の人間の男の子と、ガイコツたちのお話。商品化などの二次展開のイメージがあまり湧きません。
しかし、ディズニーの内部でどのような議論があったのかは知る由もありませんが、彼らはこの作品にGOサインを出したのです。このキャラクターじゃないと成り立たない。グッズ展開等が難しくても、作品として世に問う価値がある出来に仕上がっていると判断したのでしょう。現にこの映画は世界中の多くの人を魅了しているわけです。すばらしいと思います。
ゲーム会社で働いている人間として、この姿勢には畏敬の念を抱かざるを得ません。魅力的なキャラクターは映画やゲームを構成するとても重要な要素。ウケるキャラを作ることに力点をおいた結果、よくわからない世界観になっている作品をたくさん見てきました。改めて、世界で最も偉大なエンターテインメントのプロフェッショナル集団であることを見せつけられた気分です。
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