新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

私のアベノミクス論

2014-11-23 15:04:23 | コラム
第三の矢を放つのは財界というか産業界の責務ではないのか:

間違っていたらご免なさいとの覚悟をして論じていく。

解散・総選挙となってアベノミクスの効用というか、効果というか、至らなさまでが野党を始めあちこちで云々されるようになった。私は基本的に景気回復というものが、政府の政策如何だけで為されるものではないと信じている。故に、アベノミクスだけを論じているのは片手落ちであるだけではなく、責任転嫁であるとすら考えている。現在の円安による物価上昇やGDPのマイナス成長は、アベノミクスだけがもたらしたものとは考えていないのだが。

株価の上昇や業界や業種や会社によっては昇給していることは、確かにアベノミクスの2本の矢の成果だろうが、それほどまでに政府とその政策頼みで良いものなのかと大いに疑問に感じている。安倍総理が会社の経営まで携わっているのではない。経営者の責任であろう。不況だから、デフレだから業績改善がはかばかしくないから昇給どころではないなどと言っている経営者が、その責任を果たしているのだろうか。そうではないだろう。

円安になっただけで輸出依存度が高い企業が成績が良くなり、菅直人の負の置き土産で原発が止まったままなので、化石燃料や天然ガスの輸入で利益が挙がっている業界もあるのは確かだ。しかし、如何なる環境下でも業績改善の為の最善の努力と工夫があって然るべきだろう。現在の経営者たちの努力と工夫が不足している気がしてならないのは、眼鏡違いだろうか。手っ取り早い例では、デジカメの時代となったこの世の中でも、富士フイルムは経営体質の転換で切り抜けていたではないか。

例によってアメリカの例を挙げてみたい。アメリカの紙パルプ産業界はインターネットに早くから圧されて、印刷用紙の需要衰退が懸念されていた。そこで、世界最大のInternational Paper(IP)を始めとして最大の競争相手だったWeyerhaeuser(Weyco)等は、2005~2007年に大規模なリストラに着手し始めた。両社とも先ず印刷用紙事業の整理から入った。Weycoは上質紙(所謂模造紙)事業を分離独立させ、IPはコーテッド紙事業をあっさりと売却処分した。

IPはこれだけに止まらず、経営体質の転換と称する大リストラで「成長が望めないアメリカ市場には投資しない」と表明し、中国、インド、ブラジル、ロシア等の所謂”BRICs”に投資を開始し、特に中国では現地企業との合弁を含めて積極的に工場を新設し始めたのだった。現在のところはこの政策は功を奏して、経営体質の転換以前の売上高2兆6,000億円を維持できているのは、賞賛に値するとの説がある。

このようなリストラはアメリカでは現在でも続いており、所謂総合的な製紙会社がほとんど消滅した形である。このような手法は労働市場が流動的であり、経営者の思いきった判断でM&Aや事業の分離・独立が出来るアメリカだからであるとは言える。だが、二者択一的に物事を判断することが許される文化と思考体系の違いも手伝っているだろう。我が国にはこのような手法が許される土壌が育っていないものまた事実ではないか。

だからと言って、このまま拱手傍観していればアメリカが如何にオバマ大統領の経済政策が不備だったとは言え、景気が徐々に回復軌道に乗ってドル高/円安が進めば、円安インフレ傾向が進み、世界の他の地域での不況の為に輸出が捗らない状況を打破出来ずに終わる危険性がある気がしてならない。経営者と経営中枢にある管理職たちの奮起が必要である。この状況下では誰がやっても同じだという言い訳はもう通用しない気がしてならない。

確かに過剰な設備を抱えている業界は多いし、輸入品との競合も激化する一方だろうし、TPPの恐怖を論じている多くの議員たちの票田となっている分野もある。だからと言って、奮起して昇給させて個人消費を喚起して業績を改善させて昇給分を取り返そうという類いの気迫を見せる経営者は少ないようだし、蓄積はあっても新規設備か合理化や近代化への投資が進んでいない感は否めないのだ。

紙パルプ産業界だけを見れば、中国を始めとするインドネシア、韓国、タイ、ブラジル等の新興勢力は新興なるが故に最も近代的で生産効率が高い生産設備を導入している。そして、古き良きコスト高のマシンで対抗せざるを得ない欧米と我が国の業界を圧倒しているのが現在の状況である。価格競争では勝てる訳がないのだ。しかも内需がの規模が小さい以上、輸出に集約してくるのは当然で、世界市場を混乱させた時期があった。

言いたいことは、かかる状況を打破し、不況にせよデフレにせよ脱出していく努力と工夫が必要ではないのだろうか。我が国には世界のどの国にもないような質の高い労働力があるし、ノーベル賞を受賞し続けるような世界的な頭脳の持ち主を輩出しているではないか。頭脳的な人的資源は豊富である。これを適切に活かして景気回復に努力していく必要があるのではないかと思うのだが、如何なものだろう。

私はアメリカの景気が回復したからと言って、あの労働力の質では何れほころびを生じると危惧している。そこには我が国のチャンスがあるだろう。そこを意識しているのだろうか、未だにTPPを強硬に推進している、基本的に輸出国でもないにも拘わらず。

だが、不吉な材料も出てきた。エアーバッグのタカタがどうやら世界的に問題を起こしているのは憂慮すべき材料だ。あのアメリカの公聴会で清水という専務はこともあろうに”Deeply sorry.”と全面的に責任を認める表現を使ってしまった。しかも、苦しい言い訳で「生産したのはアメリカとメキシコ(だったか?)の工場」と逃げていた。こんな事をしていれば、我が国の評価が下がる。政府も解決に乗り出さねばならない案件ではないのか、技術の日本を守る為にも。


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