新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

4月15日 その2 アメリカの対中国貿易赤字に思う

2018-04-15 15:07:44 | コラム
Out of control とトランプ大統領は言う:

中国は「貿易戦争は好まないが、やらねばならなければやる」と、トランプ大統領が口火を切った格好の鉄鋼とアルミへの関税問題に端を発した貿易戦争への対応策を表明して見せた。その前にトランプ大統領は「対中国の貿易赤字赤字は耐えがたい域に達しており制御不能(out of control と聞こえた)だ」と断じた。Twitterではなく音声でだった。

簡単に言えば「アメリカの貿易赤字はトランプ大統領以前の歴代の大統領の政権下で発生したもので、トランプ大統領には何らの責任はないと私は思っている。いや、今更 control 出来る代物ではないと歴史的にも、経験上も見做している。私は就任後15ヶ月も経たこの時期にトランプ大統領画素の赤字に至った歴史をご承知ではないとは想像しがたいのだ。全てを把握されないで out of control と言われのだったら大変なことだと思っている。

私は何度も申し
上げてきたことで、1972年8月から1994年1月末までアメリカの紙パルプ林産物産業界の上位5社に入る2社で、彼らの思想・信条・哲学を把握して、それに従ってアメリカの為に対日輸出に励んできた。その22年有余の経験の中で「アメリカは根本的に輸出国ではなく、国内需要に依存した国だ」と「自国の事情で産業を空洞化したし、非耐久消費材を輸入に依存せざるを得ない態勢にした」と学んできた。

その背景にはアメリカ式資本主義の下に「四半期毎の決算」を制度化し(と言って良いのか?)短期の利益を追求した為に設備投資と合理化が立ち後れた事が挙がられると思う。事実、紙パルプ産業界では21世紀に入って廃棄した1950年代に導入したマシンをインドの製紙会社に転売したという、とても笑えない事実があった。事ほど左様に製紙会社では利益が上がらずに設備投資に遅滞があったと言えるのだ。これなどはほんの一例だが、設備の合理化では中国やアジアの新興勢力に追い抜かれていたのは事実だ。

更に、空洞化の原因には「強くなる一方の労働組合(我が国の社内の組合ではなく、業界横断の職能別組合である点をお忘れなきよう)の賃上げ攻勢に耐えきれず、安い労務費を求めて、南アメリカや中国や東南アジアの諸国に生産拠点を移していった実態」がある。但し、紙パルプや石油化学工場のような装置産業は国内に止まっていた。オバマ大統領はこの空洞化の問題に着目し、出た行った業種に「母国に帰れ」と呼びかけたが応じた企業は希だった。それは戻っても立地条件や労務費等に何らの明るい見通しがなかったからだと聞いてはいるが。

その恐らく40年ほどの間に中国を主体とするアジアの新興勢力と南にはメキシコとブラジル等の勢力が、後発なるが故に世界最新の最新鋭の生産設備を導入して我が国はアメリカが通ってきた近代化の段階を踏んでの成長ではなく、一気呵成に世界最大・最新の設備を擁する一大輸出国となってしまったのだ。しかも、中国のような膨大な(安価な)若年労働力層を有する国では、非耐久消費材の大量生産体制も維持して繊維製品と雑貨を大量にアメリカに供給し続けた。全て、トランプ政権誕生以前のことだ。

ここで問題になることは最新鋭の世界最大級の生産設備を導入した新興勢力はその生産能力が内需を遙かに超えた大きさであり、輸出に活路を求める以外に生産を継続する手段がなかったのである。中国の製紙産業を例に挙げれば、急速な設備拡張の結果その生産能力はアメリカをも遙かに凌駕して、年産量は1億トンを超える世界最大の製紙国になってしまった。これは内需から見れば1,000万トン以上も過剰なのである。

因みに、アメリカは7千万トンほどで2位に転落した。これでは中国は輸出攻勢に出たのは当然だ。しかも、中国はパルプの生産能力が追い付かず、故紙の国内発生では需要を賄うほど集荷できずに、パルプとともにアメリカからの輸入に依存していた時期があった。そにも拘わらず、オバマ政権下のアメリカでは国内のメーカーの請願もあって、中国やインドネシア等の新興勢力からの印刷用紙の輸入を高率の反ダンピングと相殺関税をかけて閉め出すほど貿易政策を採っていたのだった。即ち、ほぼ貿易政策はトランプ政権以前に始まっていたのだった。

私は事ここに至れば、トランプ大統領が「アメリカファースト」の看板の下に明瞭に保護貿易政策に打って出たのは不思議でも何でもないと思っている。赤字削減などは会社経営の経験があれば、誰でも目指すところだろう。だが、私がトランプ大統領がもしも何か見落としておられる点があれば、それは「アメリカの労働力の質の問題」と「折角世界最高の人材を集めてR&Dに多額の投資をして開発した世界最新鋭のアイディアの商業生産化の技術が余りにも拙劣である点」だと認識している。

その問題点をアジアの新興勢力はICT化がアメリカを遙かに抜き去った最新鋭の合理的な設備を活かして解消し、高能率で高品質な製品を経済的な価格で世界の市場に送り込んできたのだから、アメリカの世界市場での競合能力が低下していったもまた仕方がなかったと言えると思う。この現象もまたトランプ政権以前のことである。私は同情するとは言わないが、21世の今となっては一大統領の任期中に逆転まで持って行くのは至難の業だと見ている。

要点は「トランプ大統領が何処までアメリカの労働組合の在り方と労働力の欠陥を認識され、改善すべしと取り組まれているか」である。その改善されるべき質を占める労働者の層が、トランプ大統領の最大の支持基盤なのである。

ここで一気呵成に結論めいたことを言えば、「だからと言って、いきなり高率の関税を賦課するといったような貿易戦争になりかねないような荒技に打って出るのが最善の策なのだろうかという疑問である。アメリカ式の「これを言うことで失うものはない。後は相手国の譲歩を待つだけだ」との作戦なのかどうかなどは、私には解らない。残された問題点は「習近平主席は何処まで世界の貿易と自国を含めたその歴史を認識して、事に当たったいるのか」にかかってくると思っている。

私は安倍総理が現在のアメリカと中国の間に勃発しかかっているかに見える貿易戦争の直ぐ脇に立たれて、如何にして我が国の利益と権益を守りきるように17日からのトランプ大統領との会談を進めてこられるかに期待するものだ。



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