◆ 今回のテーマ:…白の婚礼衣装の意味(5)日本式②
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◆ 白の婚礼衣装の意味(5)日本式②
● ぞっとする美しさ
白無垢は、背筋が冷えるような、ぞっとするような、美しさを感じさせます。
寒気のする、ぞっとする、美しさを、白無垢には見たい…と感じさせます。
清楚なんて他愛ない可愛げを飛び越えた、
この世のものならざるような、ひどく霊的な…
怖いようなオーラ。
白無垢を含めた和装だけが実現可能な、独特の雰囲気だと思います。
もしも、これから花嫁さんになられる方が白無垢をご選択なさって、
「めいっぱい幸せそう、キレイよ〇〇ちゃん」ではなくて、
「今日の〇〇ちゃん、キレイすぎて怖かった、鳥肌立った」
と言われる方に関心をお持ちなら、
衣装をお召しになるときに、心の中に、死生観を伴うイメージを作る、
という手法を採用なさるのも手です。
イメージは表情を変え、身動きを変え、姿かたちを変えますから。
衣装に抱く、ロマンティシズムを高めておく、といえばよいでしょうか。
● 死と再生
婚姻は、とりわけ女性にとっては、いちど死ぬことだ、
婚礼は、とりわけ女性にとっては、死と再生の儀式である、
と言ったら、大げさに過ぎるでしょうか。
大げさですね。今となっては。
現代の結婚式は、ひたすら陽性、プラスイメージで作り上げるのですが、
白無垢には、これがそぐわないんですね。
今あるより大きな幸福を実感して、もっと美しい花嫁として君臨するために、
ここは一つ逆転の発想で、陰性のイメージを持つのも、いいものだと思います。
ロマンティシズムが幸福感を高めるには、大げさなのが有効ですし、
死の想念を伴う以上の、ロマンティシズムって、ないんですよ。
● 武家に嫁ぐ…昔のお嫁さんは大変でした
白無垢は、上級武家における婚礼衣装でした。
武家の婚礼というと、家同士の縁組であり、恋の成就ではありません。
夫や婚家との相性は不明です。夫に愛されないこともよくあります。
婚家の親に気に入られずとも、一心に敬いお仕えしなければなりません。
嫁は、実家と婚家を、政治的・経済的に結び付ける役割を担います。
実家の利益を代表する出先機関でもあり、舵取りのバランスは難儀です。
家の都合による離縁もありうるし、正室も地位安泰とは限りません。
家の存続のため、子(とりわけ男児)をなすことが至上命題ですが、
お産で命を落とすこともあれば、死産となることもまれとはいえず、
乳幼児の死亡率も高い時代です。子ができないこともあり。
女主として、何があろうと対外的には超然と振舞わなければいけません。
(内々にはしおらしいところも見せないといけないでしょうが)
家出したくなるときがあっても、里帰りも容易に叶いません。
他の女性が夫の愛を受けても、感情を荒立てたりしてはなりません。
我が子に先立たれても、泣き通しだったりしてはいけません。
別の女性の子が跡取りとなることなど幾らでもあるし、
なさぬ子の母として役割を務めなければならないこともあります。
お家騒動が起これば、当然渦中に叩き込まれます。
武門であれば、家を守るため、あるいは自らの貞操を守るため、
いざとなれば敵に刃を向けて抗い、これまでとなれば自刃すべき定め。
嫁に求められるのは、滅私ですね。
● 聖なる死に装束
白の意味合いには、時代により場所により、様々のものがあったでしょう。
宮中のしきたり、仏教や神道など宗教的な発想…
とはいえ、武門の誉れはイクサにあり。
滅びの美学が付帯してこそ、ロマンティシズムも高まるというもの…
懐刀を伴う白無垢の、その意味の深淵なるところは、
死に装束そのものであった、と読み取るのはどうでしょうか。
あやうい死と滅びの凶兆さえも同時に宿すからこそ、
その覚悟を帯びたかんばせは麗しく、白装束が霊的な神聖さを湛えます。
黄昏から夜間にかけて深まる闇の中、
ろうそくの明かりの中に、浮かび上がる白装束は、
この世のものならざる霊的な美をかもし出したことでしょう。
それは再生へのプレリュードでもあります。
● 赤、黒と続く、オンナの一生ストーリー
とはいえ、死んでおしまい、では困ります。
無垢にして清らかとは、庇護を要する脆弱さと同義ですから、
やっぱりそのままでは困ります。
家の繁栄、影でカギを握るのは女主なのですから。
成熟した力をつけていってもらわなくてはなりません。
当時の結婚式は何日も続いたので、ずっと真っ白けでいられたら、
場が冷え込んでしまうでしょうし…
白の花嫁は、いわば霊界とのはざまにある状態。
そこからぐいと現世に踏み出して、
生き生きとした、現世的な華やか、にぎやかさ…
生命力を、場にもたらしてくれなくては。
ということで、再生と生命の息吹を表すお色直しが必須です。
王道は、赤を基調とした衣装。
大輪の花。熱き血潮。赤々と灯る炎。
世を照らす太陽。産声を上げる赤子。
…で、ことによると、その後さらに、黒地へのお召し替えが待っています。
もともと白・赤・黒ないしこの取り合わせを特別視することが
宮中等でされていたようですが…
江戸後期から、三襲というのが出てきて、
打掛(掻取)を、白⇒赤⇒黒の順で、着替えるなり、重ねて着るなり
されていたようです。
この黒は、光という光を吸い込んでは、ふっくらとしてくるような、そんな黒。
布を真っ黒に染めるのは、手間も技術も染料もめいっぱい要って、
優れたものは、黒染めだけを扱う専門店への依頼になります。
とんでもなく高価だったわけで、それだけに、
花嫁向けの黒地が出てくるのも、年代は遅めだったようです。
白⇒赤⇒黒
こういう順番で並べると、命や宇宙の循環を見るようです。
そして、端的に、刺激的でダイナミック。
花嫁を眺めるだけでも、一大スペクタクルを味わえたでしょうね。
もしも白無垢を選択して、お色直しをしないのであれば、
赤などの差し色がされているものを選ぶと、よいかも知れませんね。
● 白無垢の奪取
死に装束なんて言ったら、嫌がられてしまいますかしら。
でもご安心。
武士の美学を、現代人が背負う必要性はありません。
というのも、白無垢が一般に普及するようになったのは、
武家から直に、ではないと思われるからです。
間のワンクッションになってくれた人たちがいます。
● 支配階級の衣装を奪取する
白無垢を着るというのは、
かつての支配層が特権的に着ていた衣装、
それゆえに支配力と権勢の印であったものを、
いうなれば奪取した、ということでもあります。
特権的な衣装や生活様式の奪取ないし模倣というのは、
支配体制が組み換わるときに、目立って起こる現象です。
どんなふうに、一般化にこぎつけたのでしょうか。
階級の異なる者の服装をむやみに真似ることは、通常、タブーです。
実際、江戸幕府は、庶民の服装が贅沢になることを嫌って、
たびたび取り締まりを行っていました。
(続く)
◆ お知らせなど
■ 欄外
うっかりヴィクトリア編②を消してしまいました。がーん。
内容を覚えてもいないのですが、何とか書き直そうと思います。
ヴィクトリア女王のウェディングドレスは、NHKでぜひチェックしましょう。
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