「植草一秀の『知られざる真実』」
2017/04/09
後半国会重要議案の「種子・水・教育」改悪案
第1712号
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米中首脳会談が行われたタイミングで、米国はシリアへのトマホーク攻撃を実施した。
シリアが化学兵器を使用したとの疑いに基く行動だが、事実関係は客観的には確認されていない。
トランプ政権は入国規制の大統領令が裁判所判断によって阻まれ、オバマケア見直し法案の議会提出の延期に追い込まれるなど、厳しい現実に直面している。
現状を打開するためにもっとも手っ取り早い方法は、対外的に「強い姿勢」を示すことである。
政権の常套手段に従ったものと言える。
米軍の方針に異を唱えてきたマイケル・フリン大統領補佐官=安全保障が更迭され、元陸軍中将のハーバード・マクマスター氏が大統領補佐官に就任した。
また、国家安全保障会議=NSCからトランプ大統領の再興参謀であるスティーブン・バノン上級顧問が外されたとも伝えられている。
トランプ政権は親ロシアの外交姿勢を鮮明にしてきたが、共和党主流派はロシア敵対姿勢を崩しておらず、トランプ大統領が共和党主流派に妥協する姿勢が垣間見える。
議会上院は4月7日の本会議で、トランプ大統領が連邦最高裁判事に指名した保守派判事ニール・ゴーサッチ氏を54対45の賛成多数で承認した。
この採決に先立って議会上院は、民主党の議事妨害を打ち切るために60議席の賛成が必要としていた議会規則を単純過半数(51議席)に変更して採決に踏み切った。
これまでは、多数党による強行採決を不適切だとして、可決のハードルを高く設定し、単純過半数への規則変更を「核オプション」と呼んで、これを「禁じ手」としてきたが、今回はこの「禁じ手」を用いたことになる。
一連の経過は、トランプ大統領が政策遂行に際して最大の障害となる、議会共和党との宥和、妥協を図る動きと読み取れる。
ゴーサッチ氏の最高裁判事就任により、トランプ大統領による大統領令発動は大きな障害が取り除かれる。
政権運営を円滑化するために、妥協できる部分は妥協するという、現実的な選択をトランプ氏が進めていることが窺われる。
中国の習近平主席は秋に重要人事を決定する共産党大会を控えており、米中首脳会談を成功裏に終了する必要性に迫られていた。
米国によるシリア攻撃に対して、これを牽制するスタンスを示してきた中国が、今回の米国の措置については、化学兵器による子どもの虐殺などを踏まえて、米国による行動に理解を示した。
トランプ大統領は中国の理解を獲得するタイミングを逃さずに軍事オプションを用いたと理解することもできる。
トランプ大統領が「特異」な大統領から、「通常の」大統領に軌道修正を余儀なく迫られている側面を見落とせない。
今回の米中首脳会談開催に際しては、習近平氏の空港到着にはティラーソン国務相が出迎えた。
また、習近平夫妻とトランプ大統領夫妻の夕食会は、トランプ氏の別荘であるマールアラーゴで開催された。
2月に安倍首相が訪米した際にも、トランプ大統領はマールアラーゴでの夕食会を設営したが、安倍首相に対する対応と習近平氏に対するトランプ大統領の対応には大きな落差がある。
日本のメディアはまったく伝えないが、外交儀礼上は極めて重要な差異が存在することは認識しておく必要がある。
米国は日本を属国としてしか認識していないと見て間違いない。
安倍政権は昨年秋冬の臨時国会でTPP承認案および関連法案を強行可決した。
TPPで日本政府は全面譲歩。
得るものなく、すべてを喪う外交交渉を展開した。
例えば、日本が求める米国への自動車輸出の関税率引き下げは、
普通乗用車の現行2.5%の関税率が14年間は一切引き下げられないことになった。
米国自動車市場で売れ筋のSUV(スポーツユーティリティーヴィークル)を主体とする「トラック」のカテゴリーの現行25%の関税率は、
29年間、関税率が一切引き下げられないことが決定された。
得るものが何もないとは、まさにこれを指す。
他方、日本政府が「聖域」として守るとしてきた重要5品目のひとつである畜産品の関税率はどうなったか。
牛肉では、現行38.5%の関税率が発効と同時に27.5%に引き下げられ、10年目に20%、16年目には9%に引き下げられる。
豚肉では、現行キロ当たり482円の関税が発効と同時に125円に引き下げられ、10年目から50円に引き下げられる。
まさに、喪うだけで得るものが何もない。
これがTPPの現実である。
安倍政権は国民の富、国民のいのちとくらしを危機に晒す政権であると言わざるを得ない。
拙著『「国富」喪失』(詩想社新書)
https://goo.gl/s3NidA
に、この現実を詳述し、これを打破するための方策を記述したので、ぜひご高覧賜りたい。
このTPPに代わる「日米経済対話」が4月17日から始まる。
厳しい監視を怠れない。
この国会には、
農業改変関連8法案
水道法改定
家庭教育支援法案
が提出される。
私たちの未来を支える三つの重要項目を挙げれば
種子
水
教育
ということになる。
この三つを「守らず」に、すべて「破壊する」
改悪が推進されていると言わざるを得ない。
農業改変8法案のなかに、
主要農作物種子法廃止案
が含まれる。
これまで、コメ、麦、大豆の主要農作物については、
その種子開発を公的に管理し、農家に安価で提供されてきた。
これが日本農業を支えてきたと言っても過言ではない。
これを廃止して、種子の供給を民間に委ねるという方針が示されている。
種子が民間に委ねられれば、種子の価格が高騰することが予想される。
そして、その種子の供給が、やがては、外国資本に支配される事態が到来する可能性が高い。
さらに、その供給される種子に遺伝子組み換え種子が含まれてくる可能性も高いのである。
米国は国家戦略として農業、食料を最重要の戦略物資と位置付けている。
食料を支配することは国家を支配することである。
この観点から、食料の自給、農業の振興を国家の経済的安全保障政策として位置付けている。
日本政府は日本農業を守らずに外国資本の要求を丸のみにし、聖域と呼ばれる農業生産分野の関税率の引き下げ撤廃の方向に進んでいるが、このことだけでも日本農業は壊滅的な打撃を受けることになる。
メキシコ農業は北米自由貿易協定(NAFTA)によって崩壊した。
メキシコではNAFTAにより、「主食であるトルティーヤ(とうもろこしの粉で焼いたパン)が安く食べられるようになる」などの期待が持たれたが、現実はまったく異なるものになった。
NAFTA発効後、米国からメキシコへの穀物輸出が激増した。
米国が安い価格で穀物輸出を行えるのは政府が輸出奨励のために巨大な補助金を付与しているからである。
安価な穀物がメキシコ市場に流入したことにより、メキシコの農家は崩壊してしまった。
メキシコの農家は失業者に転落し、この失業者が大量に米国への不法移民者として流出したのである。
メキシコの農業生産能力が激減し、メキシコ人の主食が米国の生産者に委ねられるようになったが、今度は逆に米国が供給する穀物価格が跳ね上がった。
米国ではエネルギー原料としてのとうもろこしが見直され、とうもろこしの供給が減少、価格が跳ね上がる事態が生じたのである。
同時に、米国から供給されるとうもろこしの大半が遺伝子組み換えに切り替えられた。
これと並行して、メキシコの生産者も遺伝子組み換え種子に依存する状況になった。
強力な殺虫作用を持つ除草剤を使用しても穀物生産に影響の出ない遺伝子組み換え種子がメキシコに持ち込まれた。
メキシコの農業従事者が、ひとたび、このモンサント社が供給する遺伝子組み換え種子による生産に依存し始めると、この構造から抜けることができなくなる。
強力な除草剤グリホサート=ラウンドアップを使用した土地においては通常の種子は使用不能となる。
遺伝子組み換え種子は知的所有権保護によって守られており、農家は高額の種子の購入を義務づけられることになる。
多国籍企業=強欲巨大資本は、この構図の再現を日本でも狙っていると推察される。
その端緒を担うのが、主要農作物種子法廃止なのである。
日本農業から一般農家を締め出す。
日本農業を担う主体を大資本に切り替える。
そして、その大資本はもちろん、国際的な大資本の傘下に組み込まれた大資本ということになる。
大資本の利益極大化が「農業改変」の目的なのである。
そして、日本が保持する最大の天然資源が
「水」
である。
この「水」の利権に巨大資本が目を付けている。
その「水利権」を外資に上納するための方策が
「水道法改定」
であり、
「水道事業の民営化」
である。
「家庭教育支援法案」の問題はさらに根が深い。
国家が家庭教育の領域にまで介入しようとするものである。
日本国憲法が保障する「思想及び良心の自由」を侵害するものであることは明白だ。
「国家のための国民」を養成するために、家庭そのものを国家の監視対象にするのである。
このまま進めば、日本そのものが壊されてしまう。
その前に、現在の政権を壊さなければならない。
一番大事なことは政権の刷新なのである。
そのための行動を広げてゆかねばならない。
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