ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

おめでとう(花束) 霧笛125号掲載

2018-04-21 15:01:52 | 2015年4月以降の詩

とあるテレビのドキュメント番組を眺めていた

このところ

なぜかテレビを見る気になれず

テレビ番組の内容がどうこうというよりは

こちらが外界に関与して行く気になれずに少々ひきこもり気味に無用な刺激をシャットアウトしてというような塩梅で

自らはあえてスイッチを入れることもないが

たまたま妻が架けたテレビそのまま消さずに

七十二時間ある場所を定点観測するというドキュメントが流れていた

 

自分から何か働きかけることはしたくない

なにか身に降りかかることはしかたなく処理して行くくらいの勢い(弱い勢い)

 

ああ

妻と二人揃ってインフルエンザB型にり患したのではある

先に私がどこからか拾ってきて

たぶん私が妻に移して

ふたりでありあわせの夕食を取りながら

東京の片隅の立ち喰いおでん屋(併せて立飲み有)の店先に繰り広げられる情景をぼんやりと眺めている

 

六十七歳の女性が仕事帰り二人前のおでんを買い求め四十歳過ぎの息子がほとんどひきこもりで家で待っている 母親が二つの職場掛け持ちで稼ぎひきこもりの息子の分とふたり分の夕食のおかずに買い求め 息子もいちどは就職したが職場にうまく折り合えずいまはほとんど家にひきこもりひきこもり 電話を入れて今日は家でつくらないでおでん買って帰るからねと伝えて母さん済まないねと言われましたと笑って帰っていく

 

三十二歳の女子三人の仲良しふたりは既婚ひとりは今年の目標結婚近くの中学校卒業の同級生 既婚女子はそろそろ子づくり子どもがほしいそろそろ作らなきゃ作らなきゃ どんな子どもが欲しいどんな子でもいい元気に育ってくれればいいでも人並みに暮らしてほしい人並みの子になって欲しい 子づくり子づくり子づくりはははははははは仲良しは楽しい何を言っても楽しい笑える笑える

 

夜明けからしばらくたった開店時刻の二十歳代の水商売風の男女仕事上がり風で男は黒いジャケットに黒いネクタイ女は派手なアイラインやシャドウで仲良くおでんをつつきながらにこやかにほほ笑んで私たち結婚するんです

私たち間もなく結婚するんです

 

おめでとうおめでとうおめでとう

花束の嵐

おめでとうおめでとう

 

ああそうだ

三十歳代の落ち着いた夫婦連れもいた

奥さんが子ども時分からこの店に通っていた

奥さんのお母さんがよく連れてきてくれた

お母さんは奥さんが十七歳のころ亡くなった

それからほぼ同じ長さの時が流れ

ずいぶん久しぶりに夫とこの店を訪れた

雰囲気も味もそのころと変わらないと

少し顔を上げて遠くを見るように

 

変わらない変わらない変わらない

何にも変わらない

 


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