映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

NHK・ドラマ10「お母さん、娘をやめていいですか?」(全8回)を見終えて ~その②~

2017-03-14 | ドラマ
 そののつづきです。 


◆それでも美月は恵まれている。

 このドラマを見ていて、そうはいっても、美月の置かれた環境はまだまだギリギリではないな、と思う点がいくつかありました。

 それはまあ、松島のような人間力の高い男性が現れてくれたことや、浩司が家庭を顧みない父親とは言っても全面的に美月の味方になってくれたことや、、、挙げれば他にもありますけれども、娘の立場を経験した者からして何が一番羨ましいかって、それは文恵さん(麻生祐未)の存在ですねぇ。

 文恵さんってのは、顕子の学生時代からの親友。でもって、顕子が現在通う人形教室の講師で、人形作家の自立した女性。離婚歴があって、元夫が顕子の好きな男性だったらしい、、、。でも、文恵さんと元夫はうまく行かずに別れた、ってことの様です。

 この文恵さんが、顕子の異常な美月への執着ぶりを冷静に見極めており、顕子に時々「行き過ぎである」と忠告してくれる存在なのです。もちろん、そんなことで目の覚める顕子ではないけれども、家族以外の他人である第三者が、しかも身近に存在する人が、“母親の異常性を理解している”、、、このことは、娘の立場になってみると、非常に重要です。

 現実では、世間の見方というのは大抵の場合、「親は子の幸せを願わないわけがない」なんですよ。つまり、世間というのは、まあ、十中八九は母親の味方をしてしまうのね。娘も(当然ながら)そういう一般論的価値観に毒されているので、世間にそう言われると「やっぱり自分がおかしいのか、、、」と、自己嫌悪と罪悪感に襲われて絶望するのです。母親との確執を抱えた娘でこういう絶望を味わったことのない人は、恐らく皆無でしょう。皆が、一度は味わう“目の前が真っ暗になる感じ”なのですよ。

 しかし、文恵さんのような存在が、外側に1人でもいてくれるというのは、娘にとってこれほど心強いことはありません。「お母さんの方がおかしい」と言ってくれる人がいる。それが、文恵さん、たった1人でも、もう百人力のような気持ちになります。

 これはね、彼氏とか恋人とかじゃダメなのよ。ドラマの中でも、松島は非常に重要な役どころですが、いかんせん、恋人ってのは娘と目線が同じです。少なくとも、娘から見て、世間を代弁してくれる存在とはちょっと違う。文恵さんは、人生の修羅場をかいくぐってきたオトナな女性。美月よりも、松島よりも、遙かに先を行く人生の先輩です。しかも物心両面で完璧に自立している。そんな達人が「あんたのお母さんはヘン」と言ってくれるんです。この重みは、松島にも代わることはできないのです。

 私も、若い頃、「あなたのお母さん、おかしい」と、面と向かって言ってくれた人が2人いました。ですが、2人とも男性で、なおかつ同年代。彼らは、私にとって尊敬する人たちでしたから、そう言われることで「やっぱりおかしいのか……!?」とまでは意識が到達しましたが、「そうか、あの母親は、やっぱりおかしいんだ!!」という確信にまでは至りませんでした。それは、先に書いたような理由だからだと、ずっと後になって分かったことなのです。

 まあ、文恵さんの存在があったからと言って、美月の葛藤が消えるわけでは当然ないのですけれどね。でも、文恵さんの存在がなければ、美月だけではなく、早瀬家自体がもっと煮詰まっていた可能性は高いと思うのですよねぇ。

 なぜなら、これはドラマだからなんだけれども、この文恵さん、適度に早瀬家に介入してくれるんですよ。時には、浩司を職場に訪ねて、美月の窮地を救います。夫に直接もの申してくれる第三者がいるなんて、これは、顕子にとっても素晴らしく幸せな環境だと思いますね。実際、こんな文恵さんみたいな人、まずいないでしょうね。

 だからこそ、文恵さんのような存在が身近にいてくれたらどんなに良いか、、、。このドラマを見てそう思った娘たちはたくさんいると思います。娘をとっくにやめた私も思ったのですから。


◆美月は賢い。

 美月は、25歳にもなって母親のことを「ママ」と呼んで憚らず、身の回りの世話も母親にしてもらって、正直、大丈夫か? と言いたくなるような娘なんだけれども、でも、芯の部分では非常に賢い女性だと、ドラマが回を追うごとに思いました。もちろん、美月の成長譚なのですから、そういうものかも知れませんが、彼女は、あの若さで、もの凄い洞察力を持った人です。

 第7回のラストで、「自由にしなさい。その代わり、松島さんとは別れなさい。だって、独立するんでしょ? 独立するのに男の人に頼るなんておかしいじゃない!!」と絶叫する顕子を見て、美月はこう言うのです。

 「ママ……、私に嫉妬してるの? いつもそうだった。言うとおりにしていれば、ママは嬉しそうだったけど、私が自分で幸せになろうとするのはイヤなんでしょ?」

 正直、この台詞を聞いて、この若さでここに気付くなんて、(そりゃドラマの中の世界だけど)美月は賢い!!と、驚嘆してしまいました。これ、なかなか気付けないのですよ、普通の娘は。

 まあ、このやりとりから言って、見ている人にも分かりやすい流れだとは思います。この流れなら「嫉妬する母親」というのも、見ている方も受け入れやすい。でもね、現実では、たとえこういう分かりやすい流れでも、なかなか「嫉妬」という言葉は、娘の脳裏に浮かばないのですよ。

 なぜか。

 娘は、母親を女としては(全く)見ていないからです。母親も、娘を女として自覚的に見てはいないでしょう。でも、無自覚で、母親は娘を女として見ていることはママあると思います。

 この「嫉妬」というキーワードにたどり着くまでに、娘は大抵の場合、かなりの葛藤を経験するはず。私の場合、そこに気付いて、ようやくイロイロな呪縛が解けていった気がしますね。そうだったのか、、、と目からうろこな感じで。

 そう、美月の言ったことはドンピシャリの正解なのです。これは、以前の記事にも書いたけれど、母親は、娘に嫉妬するのです。ドラマの流れだと、男がらみの嫉妬、と解される可能性もありますし、実際そういう部分もあるでしょうが、どちらかというと、そういう色恋ではなく、「同性としての娘の生き方への嫉妬」ですね。自分が手にできなかったものを手に入れる娘を見るのが、死ぬほどイヤなのです。

 そんな母親いるか? と思うor思えるあなたは、きっと、比較的問題の少ない家庭に育った人か、あるいは、問題に気付いていない人か、どちらかでしょう。私も、40歳近くになるまで気付いていなかったので、、、。

 母親が、自らの嫉妬心に気付くこと、認めることは、多分、そうはないでしょう。そんなの、母親としてのプライドが許さないはずです。私の母親にそんなこと言ったら、母親は激高し、怒りのあまり憤死するかも知れません。それくらい、母親にとって受け入れがたい事実でしょう。

 嫉妬してしまうのは、自らの人生が満たされていないからなんですよねぇ。それは、環境のせいも多少はあるけど、申し訳ないが、やはり自分の努力不足もかなりある。夫と向き合おうとしない、自分の人生に向き合おうとしない、娘に愛情を注ぎ込んでると自己陶酔に陥って自らの客観的姿を見ようとしない、、、。そういうことを全部ひっくるめて、娘ごときに「私に嫉妬してるんでしょ」などと言われた日にゃ、、、。

 顕子は、どうして働かなかったんでしょうねぇ、、、。経済的に自立できていたら、もっと違う人生が開けたかも知れない。あんなに娘のことばっかり考える時間もなかったはず。要はヒマなんですよねぇ、顕子さんは。

 その他でも、美月は、短絡的な行動をとることなく、どんなときも、自分できちんと考え、困難にも立ち向かう強さも持っています。演じた波瑠さんの持つ雰囲気もあるでしょうけど、いつもどこか凛とした姿勢を持っている美月は魅力的です。こんな素晴らしい娘を育てたんだから、顕子さん、あなた、自信持って良いんですよ、本当は。



(そのにつづく)





コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 汚れたミルク/あるセールス... | トップ | 葛城事件(2016年) »

コメントを投稿

ドラマ」カテゴリの最新記事