映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

未来を花束にして(2015年)

2017-02-21 | ヘレナ・ボナム=カーター(H・B・C)



 洗濯女の娘は、また、洗濯女として生きるしか道はなし。

 ……という時代だった、1912年のイギリス・ロンドン。モード・ワッツ(キャリー・マリガン)は、7歳から洗濯工場で働き始め、21歳の現在は、同じ工場で働く夫サニー(ベン・ウィショー)と幼い息子ジョージの3人で、貧しいながらも幸せを感じられる生活をどうにか送っていた。

 ある日、工場主に言いつけられた届け物をするために街中へ出たモードは、女性参政権運動をしているWSPU(女性社会政治同盟)のメンバーが石を店のショーウィンドウに投げ付けるという運動の現場に出くわした。逃げ帰るようにその場を離れたモードだったが、それを機に、“サフラジェット”への仲間へと誘(いざな)われるように入って行くことに、、、。

 イギリスで女性参政権が条件付きながらも法制化される契機となるに至った“サフラジェット”の行動を描く。ちなみに、原題はまさしく“SUFFRAGETTE”=20世紀初頭にミリタンシーと呼ばれる女性参政権活動家を指す蔑称としてデイリー・メイル紙が名づけたもの。
 
 
☆゜'・:*:.。。.:*:・'゜☆゜'・:*:.。。.:*:・'☆゜'・:*:.。。.:*:・'゜☆゜'・:*:.。。.:*:・'☆゜'・:*:.。。.:*:・'゜


 HBCの出演作はティム・バートンもの以外は一応劇場で見る主義なので、やっとこさ行ってまいりました。豪華キャストなのに、劇場はガラガラ、、、。このダッサい邦題のせいだね、多分。


◆気付いちゃったら戻れない。

 まあ、、、正直な感想としましては、80年代以降に社会人になる年代に日本人の女として生まれて来たことは、極めてラッキーだったのだなぁ、ということです。

 そりゃ、もっと良い環境はあるかも知れないけれど、少なくとも、生まれた家庭の階級で生きる道が(良くも悪くも)ほぼ一つの道に限定されることはないわけで、格差はあれど、選択肢は複数提示されているのが私が過ごしてきた20代以降の社会だったから。

 洗濯工場の労働環境は、そらもう、劣悪そのもの。作中でもセリフにあるけど、洗濯女は寿命が短いと。あの環境ならば、納得です。その上、今で言う、セクハラ、パワハラが横行し、それに女たちが耐えるのが当たり前な環境。私が社会人になったバブル崩壊直後でさえ、セクハラ、パワハラはしぶとくかつ強固にはびこっていたのですから、本作の時代ならばそれは想像を絶するレベルのものだったに相違ない。

 モードも、サフラジェットの運動に接触しなければ、自分の置かれた環境を変えられるかもしれない、などという考えそのものが浮かばなかったと思う。現状はツラい、嫌だと思いつつも、これが当たり前と思ってしまっている人間に、「今の状況はおかしい!」という声を上げることはそもそも不可能。でも、一度、そこに気付いてしまったら、もう引き返せないのだよね。知らなかった頃には戻れないのさ。

 モードも、夫も仕事も子どもも失っても、運動から身を引くことはしなかった。それはもう、必然なのです。


◆クソ真面目映画

 本作は、とても真面目な映画です。女性たちが権利を勝ち取るために闘った歴史を、真正面から忠実に映像化しようという思いが伝わってきます。

 よく言われることだけど、今、我々が手にしている権利は、当たり前のように昔からあったものではないのだ、ということを主張している映画です。

 でもまあ、正直言って、私はそういうところは割とどーでも良いというか、そんなの「今さら」だし、当たり前すぎて鬱陶しいだけ。見る前から、TVでもちょっと取り上げられたりしていたのを見ていたこともあるけど、そんな感じなのは十分予想できたし。モードの生きる環境がサイアクなものだとは思っても、最初に書いたとおり、あの時代に生まれなくて良かった、としか思えない。もっと言っちゃえば「あー、はいはい」という感じ。

 それよりも、むしろ、「人権蹂躙」ってのは、普通にそこらへんに転がっているんだなぁ、、、ということを頭の中では巡っていました。本作で描かれるほどあからさまなセクハラやパワハラは少なくなっているかもしれないけれど、一向になくならない、ってことは、結局、人間という生き物はエゴイストなんだよなぁ、とか。自分がされたら嫌なことでも、平気で他人にはできちゃう。自分さえ良ければ良い、ってやつ。私自身の中にも、当然そういうのはあるし。もちろん、剥き出しにしないだけで。

 だからこそ、まあ、こういう類の映画などで、継続的に啓発していかないとダメ、ってことなんでしょーか、、、。

 それくらい、本作は、真面目すぎる映画で、裏を返せば面白味があんましないですね。こういう作品だからって、別にユーモアとか入れたって良いと思うんだけど、クスッと笑えるシーンが1コもないってのが凄すぎる。中学の社会の授業とかで見せてもノープロブレムです。というより、文科省推薦でも良いんじゃない? それくらい、教科書的な映画です。

 リアリティを追求しているので、画面も全般に暗め。女性たちの着ている衣装もモノトーン系のものばかりで暗いしね。でもこれが、当時の風俗に近いんだろうなあと感じました。


◆そうは言っても、見どころは多い。

 とはいえ、見どころがゼンゼンないかというと、もちろんそんなことはないんですよ。

 本作の白眉は、後半ではなく、前半の、モードが図らずも下院の公聴会で証言をするシーンでしょう。「あなたにとって選挙権とは?」と聞かれ、彼女は「ないと思っていたので、意見もありません」と答えると、失笑が漏れる。「では、なぜここに?」とさらに聞かれたモードは「もしかしたら……他の生き方があるのでは、と」と答える。そこで場内は一転静まり返る、、、。

 このシーンだけで、本作は見る価値があると思います。そう、「他の生き方がある」と知ってしまったモードの顔は、凛々しいのです。

 あと、思わず涙がこぼれたのは、サニーがジョージを養子に出してモードと別れるシーン、、、。運動に身を投じる妻を恥じたサニーはモードを家に入れないようになり、ジョージとも会わせなくなる。ジョージの面倒をサニーは一人で見きれなくなって、中産階級風の夫婦に養子に出してしまうんだけど、ジョージが「ママ……」と呼ぶと、モードが「あなたのママの名前はモード・ワッツ。忘れないで。大きくなったら探しに来て!」と涙ながらに言い聞かせる、、、。一緒に見に行った子持ちの映画友は「あの歳じゃ、多分忘れちゃうな、、、」と寂しそうに言っておりました。切ないシーンです。

 その後、サフラジェットのメンバーたちが、郵便ポストに爆発物を放り込んだり、電線を切断したり、空き家に爆弾を投げ込んだり、という過激な行動に出るところもなかなかスリリングですが、投獄されたモードがハンストし、餓死しないように強制食餌させられるシーンもおぞましいです。

 そして、あのダービーでの事件。史実を知っていても、映像で見せられるとショッキングです。

 というわけで、終始緊張感が貫かれた作品ですので、息つく暇はありません。「あー、はいはい」等と内心で思いつつも、スクリーンから目が離せません。


◆その他もろもろ

 まあ、私の主たる目的は、HBCだったので、そこそこ出番もあり、アラフィフになっても相変わらずキュートなヘレナを鑑賞できて、そういう意味ではまあまあ満足できました。何で彼女はあんなに可愛いのかしらん。品があるし、やっぱし好きだわ~~。

 そうそう、本作の中で、サフラジェットの運動を弾圧していた当時の首相ハーバート・ヘンリー・アスキス伯爵は、ヘレナの曾おじいさんなんだけれど、それゆえに、彼女にイーディス(中産階級の活動家)の役を依頼するのはスタッフも覚悟が要ったとパンフに書かれていました。冒頭で「アスキス首相」と誰かのセリフにありました。

 彼女のお祖母さんが、アスキス伯爵の娘だそうで。お祖母さんは、自立した女性で差別された経験がないので、サフラジェットの活動に共感できなかった、とヘレナは言っている、、、。ふうむ、そういうものなのかなぁ。まあ、ドラマ「ダウントン・アビー」を見ていると、貴族階級の人々って、労働者階級の人の鬱屈した気持ちとか、ゼンゼン理解できないし、しようともしていないのがよく分かるから、ヘレナの言葉もそのまんまなんでしょうなぁ、多分。

 サフラジェットを率いたWSPUの設立者であるエメリン・パンクハーストを演じたのは、あのメリル・ストリープさまでございますよ。もう、ハッキリ言って見飽きた、、、。彼女のファンの方、すみません。でも、あれにもこれにも出過ぎでしょう。素晴らしい俳優だということは分かりますが、、、。まあ、出番はほんの5分くらいですけどね。でもポスターにはしっかり一翼を担っていらっしゃるんだから、さすがはメリルさま。、、、嘆息。

 サニーを演じたベン・ウィショーは、出番が少なく、ちょっと寂しかったですねぇ。モードを理解できない夫なんだけど、そんなサニーを責めることはできません。なにせ、あの時代なんですから、むしろ多数派の男性像だと思います。というか、そういう気質の男性を演じているベン・ウィショーってのが、ある意味、新鮮かも知れません。モードとジョージを引き離すシーンでは、ろくでなし! って感じでしたけど。

 モードを演じたキャリー・マリガンは素晴らしい好演です。『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』では、ゼンゼン違うキャラを演じていたので、同じ人とは思えないくらい。童顔なので、21歳の役でも違和感なしでした。ますます活躍しそうですなぁ。

 パンフの最後のページに、メインスタッフ一同の集合写真があるんだけど、これがすっごいステキな写真!! キャリー・マリガンはもちろん、ヘレナもステキ。うう~ん、これ、ポスターにしてほしいわぁ。





ヘレナが好きなことを改めて自覚いたしました。




 ★★ランキング参加中★★

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 人質(1999年) | トップ | たかが世界の終わり(2016年) »

コメントを投稿

ヘレナ・ボナム=カーター(H・B・C)」カテゴリの最新記事