「ぐ、は――――――」
足取りは重く、呼吸するたびに喉が焼けるような乾いた感触。
体力は消耗し、疲労で睡魔が絶え間なく襲いかかっている。
このままこの場で睡眠を取ることができればどんなに楽か。
そんな誘惑にシオンは心を動かされるが、それでも体は動き続ける。
何故ならいくら人気がないとはいえ、
彼女の計算によれば再度代行者に捕捉され、
今度こそ生命活動を強制的に停止させるに至るだろう。
ふと、その時シオンは思った。
今の自分はどんな姿になっているのだろうかと。
視線を下に向け、路地裏に散らばっている窓ガラスの破片に映る己の姿を見出す。
そこに映るのはこれまでになく酷い表情であった。
顔は青白く、目元は何日も徹夜してきたように疲労の極みであるのを示し、
おまけに代行者に傷つけられた生傷まであった。
「ふ―――――、なんて無様」
シオンの口から自嘲の言葉が漏れる。
何せこうも酷い状態となったのは全て自分自身が原因なのだから。
「長年の疑問が解決したにも関わらず、それを拒否。
挙句タタリ打倒に必要な協力者とは戦闘状態に入る・・・。
ふふふ、私と言う人間は計算ではなく感情的な人間だったとは初めて知りました」
自虐の台詞がシオン自身から発せられる。
自らを演算装置と見做す高速思考で感情という要素は省かれる。
計算において感情という計算できない要素は必要でなくむしろ邪魔である。
シオン・エルトナム・アトラシアという人間はだれよりもそれを実現してきた人間で、
これからもそうした生き方に疑問を抱いていなかったが・・・。
「異世界人、それもこの世界を俯角することができた人間の介入など計算外にもほどがあります」
壁に背を預け、シオンが嘆息する。
始めは遠野志貴の記憶から読み取ったなかに登場する重要人物、という程度の認識でしかなかった。
だから実際に弓塚さつきと邂逅した時、
『いつものように』エーテライトで情報を抜き取った。