三千世界の烏を殺し、武士は朝駆け夜討ちかけ
ピクシブで掲載されているドリフターズのSSです。
短編ネタで1万2千字程の容量なので見ごたえは十分あるかと思います。
大体の内容は廃城の三人組。
織田信長、島津豊久、那須与一の三人が夜なべに手料理しつつ自分達の来歴について語り合うものです。
与一の九郎判官への愚痴から戦闘民族の豊久ご先祖話、等など史実を織り交ぜつつ雑談します。
「大将がなんか聞きたそうにしてんぞ、与一」
「おや、なんでしょう豊久殿」
豊久は虚を突かれた格好で「う、馬」妙につっかえてしまい、与一が小首を傾げる。
「馬?」
「一の谷で、馬ば落といたじゃろ」
とたんにすうっと与一の顔色が冷えた。
「ああ、ええ、馬ですか、馬を落としたか、ですか。
落としましたよ、落とされましたとも。私の鵜黒をあの性悪判官様は谷へ思いっきり叩き落としてくだされましたとも!」
大いに反応したのは信長だった。
「えっ、ありゃおめーの馬だったか」
「だったんですよ。あのですね」
源平合戦一の谷で馬とくれば、鵯越の逆落としなど説くまでもない話だが、
その前段、九郎義経は山中で道を失った揚句に険所に出くわして、直進下る筋を探すために、空馬を二頭放って追い落とす。
その一頭がたまさか与一の馬だったとは、どの軍記でも伝えぬ逸話だが、――
ずいっとひざで押し出して、与一は珍しく声を張る。
「この際はっきりさせておきますが、あの大将はね、人として最悪の部類なんです。
というか人の法から外れきってるんです。本当に、私はもうどれだけ陰に日向に苛められたか……っ」
与一の怨嗟はどろどろと続く。
「鎧は召し上げられるわ刀は勝手に横流しされるわ、
柿は踏みつぶされるわ餅は取られるわ、鏑矢は抜かれる矢羽は毟られる、
轡は外され胸懸は切られ、揚句の果てが海原で七段先の扇を射落とせとの無茶ぶり……全身全霊で苛められましたとも……!」
「子供かよ。いやさしかでも、最後のでおめーは名を遺したわけだし」
「それがなんだというんです! 信の仰る通りあの人はもうほんと子供なんですよ!
いい年してやることなすことがまるっきり子供なんです! 逆落としだって八艘跳びだって、常識ないからできたことですよ根っこはぜんぶ悪戯か嫌がらせです!」
「あー、まあな。そらそうだ、戦ってなあ大方そんなもんよ、俺もさして変わらんだろ」
「では信も私に扇を射よと仰せですか!」
「なんでそうなる」