走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

親子の関係

2015年08月02日 | 仕事
タイラーは私と同い年。ほぼ成年した3人の子供の父親だ。子供たちに最後に会ったのは十数年前のこと。最近FBでメッセージを送るが返事は全くないと。
子供に捨てられたどうしようもない父親と自分のことを呼ぶ。

タイラーはアルコール依存症があった。酒に溺れ仕事もままならず家族に迷惑をかけた。離婚に至った。ようやく断酒の必要性を感じて治療施設に入所。断酒に成功した。13ヶ月後のことだ。断酒をすれば家族に会える。それだけが望みだった。しかしそれは見事に否定された。そうなると酒の生活に逆戻り。もう家族に会ってもらえないならと西へ西へと仕事を失うたびに引越しを重ねた。大型トラックの長距離運転が最後の仕事だった。それも飲酒運転で免許取り上げとなり、ホームレス、そして私と出会った。命を絶とうとしたことも2回。途中で怖くなり未遂に終わる。

今は禁酒生活2ヶ月目に入った。パートでスーパーで働いている。最低賃金だ。以前からある鬱の治療も再開した。依存症のカウンセラーに定期的に会えるように手配している。しかし彼の顔は浮かない。子供たちのことを考えるからだ。最低賃金だから子供たちに仕送りをしたくても出来ない。なんて情けない父親なんだ、と。

タイラーの子供たちの反応は珍しくない。私の周りにも似たような理由で親と一切連絡を取っていない、関わりを持ちたくない、何処にいるのかも知らないと断言する人たちがいる。

しかし人間希望を持って生きていきたい。十数年捻れてしまった関係がそう簡単にほぐれるとは思わない。2倍3倍の月日がかかるのかもしれない。しかしいつか成し遂げられるという希望を否定することはできないと思う。大きな希望ではなく小さな希望からコツコツと、振り向けばきっと立派な道が出来ているから。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。