走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

薬物中毒 その3

2016年09月28日 | 仕事
昨日、麻薬で起きるオーバードースは大量に摂取した麻薬による副作用で呼吸抑制が起こりそれが死亡に至る、と書いた。これを聞いて麻薬を服用している人は驚いて、もう増量しないでとか中止するように言わないと!と思ったかもしれない。

勘違いしないように説明を。

麻薬は痛み止めとして開発された。なぜ痛みに効くか?痛みのプロセスにオピオイドレセプターと言うところがあって、そこに麻薬が張り付いて痛みを止めるのだ(超簡潔に短く言うと)。

癌や術後で痛みを感じている人は、このオピオイドレセプターがいくつもあるのだ。わかりやすくするためにこの痛い場所のオピオイドレセプターの事を野球のミットとしましょう。そして麻薬は野球のボール。5つのミットがあるところに5つのボールが飛んでくる。ボールは1つのミットに一個づつ。あまりはない。患者は痛みがコントロールされ日常生活やリハビリをすることが出来る。

しかし5つのミットに8個のボールが飛んでくる。3つ余ってしまう。その3つはどこへ行く?オピオイドレセプターは痛みのプロセスだけではない。身体中、特に神経そして脳に沢山ある。そして呼吸中枢も脳にある。そこにもレセプターがある。同じミットだけど痛みに関与していないミットだ。余ったボールは痛みに関与していないミットにくっつくのだ。呼吸中枢だ。それが呼吸数が低下して止まってしまう理由なのだ。

痛みの原因がある限り、それに見合った麻薬を摂取している間は呼吸抑制は起こらない。癌や術後の疼痛には医療者が観察をして微調整をする。それは量が痛みのレベルに見合うようにだ。

では痛みのためではなく、いい気分になりたいからなど他の理由で摂取している人はどうだろう?こう言う人達は痛みのミットがない。なのでボールは神経や脳のミットに直行する。そこにのボールが張り付いて、フワーとした感覚とかリラックス出来る感覚を楽しむのだ。昨日書いたようにこう言う目的で使用していると、次第にリワード(目的としている反応)が薄れていく。これが、もっともっとと量を増やしていく原因なのだ。耐性だ。

癌性の疼痛は癌の進行に伴い痛みのミットが増えていく、それが麻薬を増量しなければならない理由だ。しかし依存の人は耐性が始まり麻薬が増えていく。この2つの状況は根本的に違うのだ。癌性や術後の疼痛は麻薬を使用できる立派な理由がある。

続く。



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