調味料選びから料理は始まっている
毎日の料理に欠かせない調味料──。その種類は様々で、料理をする人にとっては自分自身のアイデンティティを表すものだろう。「いい人生は、いい調味料によって決まると思う」と語ってくれた木村食堂のキムケン氏に独占インタビューを行なった。
「調味料を選ぶときには、必ず自分自身に『ちゃんと使い切れるのか』ということを問いかけるようにしてるよ。昔は、ちょっと気になった調味料を買ったのはいいものの、使い切れずにカピカピになってしまったこともしばしばだった。それって愛がないよね。だから調味料を手に取ったら、一度目をつぶり、ゆっくりと語り合うことにしてるんだ。『使い切る覚悟はあるのか』と」
よく、お徳用調味料を買って使い切れなかったり賞味期限が切れたりすることもあったというが、今ではそういうことにはならないようにしているという。
「毎日の料理を担当しているから、やはりお徳用の調味料というのは気になるよ。ただ、うちは2人暮らしだからね。お徳用のものを買うのではなく、小さいサイズのものを使い切るようにしているよ。マヨネーズやケチャップ、醤油などは小さめで、だけどちょっといい値段をするものを買うようにしているよ。調味料って一度買ったらしばらく使えるからね。調味料選びから、もうすでに料理は始まってると思ってるよ」
新しい調味料との出会いは、恋に似てる気がする
「日々公開しているレシピには特別な調味料は使わないようにしているけれど、実際の食卓には色々な調味料を使った料理を出しているよ。特にお気に入りなのは『スリラチャの赤備え』というチリソースさ。辛いけど美味い、美味いけど辛い、でも美味いというスペシャルなソースなんだ。辛いもの好きな人には是非試してもらいたいね」
「なかなかスーパーでは見かけないけれど、見つけたら是非手に取ってみて欲しい。ちょっといい値段はするけど、吉野家の牛丼を3回くらい我慢すれば買えるはず。吉野家の牛丼を我慢するのは難しいと思うけど、そのぐらいの価値は間違いなくあるソースだね。このスリラチャとの出会いは──恋に似てたね。カミナリに撃たれたような衝撃だったのを今でも覚えているよ」
ハーブソルトがあれば人生も料理も大体なんとかなる。
「我が家は僕も妻もパスタが好きなので、簡単な朝食や弁当でパスタを作ることが多いんだ。そこで活躍するのがハーブソルトだ。ささっとふりかけてオリーブで和えるだけで、上質でエクセレントな味わいのパスタが出来上がる。中でもお気に入りなのは瀬戸内オリーブソルトなんだけど、ただこれはお土産で貰ったものなので中々手に入れるのは難しい。普段は定番のハーブソルトも使っているよ。もちろんいずれも味はエクセレントさ」
七味より一味、そう言っていた父の言葉がやっとわかった
「もともと唐辛子が好きで、中でも一番好きだったのは長野の八幡屋礒五郎の七味で、数年前、仕事で長野に行くことが多かったので、常に切らさないようにいつも買っていたんだ。しかし最近は七味より一味のシンプルな辛さが好きで、めっきり一味党になったよ。昔は七味の方が色々なフレイバーが楽しめてお得な気持ちがしていたんだけど、30歳を過ぎた頃から、一味の良さがわかってきた。昔父が『唐辛子は一味がいい』と言っていた意味がやっとわかったよ。一番のお気に入りは小笠原諸島で作られている激辛唐辛子だね。びっくりするほど辛いけど、とても美味しいんだ。病みつきになるよ絶対」
「調味料というか、なんだかスパイス紹介になっちゃった気がするけど、シズマガ(本誌シーズニングマガジンの略)読者はスパイス好きが多いって聞いてるから、これはこれでいいんじゃないかな(笑)」