70-200を付けたCanonを右手に床に片膝を付く。
じっとその時を待つ。
まだだ。
俺の出番はまだだ。
15階の会議室。
床から天井まで1枚ガラス、敷き詰められた厚い絨毯。
撮影対象者へのディレクターのブリーフィングが終われば撮影開始。
ガラスの向こうの日本橋のビル群をボカして背景にしよう。
室内との露出の差が約2段半。ストロボの光量を上げて・・
チャージが遅い。すぱんすぱん撮れないな。
俺の背後の棚が「かたかたかたかた・・・」
(ん? 地震?)
左側に居るクライアント広報のおねいさんを見上げる。
目が合うと、
こくり。(解っておる。慌てるでない)
と、うなずく。
俺も片膝で見上げた姿勢のまま、うなずき返す。
撮影終了。
「さっきのKenさん、似合ってましたね」とおねいさん。
え?
「しゃがんだままおじぎして」
「時代劇みたい」
御意。って?
「それそれ」
・・・・・。
「てか」
?。
「Kenさん、俳優さんみたいですよね」
はぁ?(なんかそれこないだもゆわれたぞ)
「忍者とか」(忍者は頭巾(ずきん)で目しか出てませんが?)
「おんみつ(隠密)とか」(良くそんなん知ってんな)
「風車の弥七とか飛猿とか?」とディレクターさん(水戸黄門、お好きなんですか?)
若い頃、友達のお母さんに「昭和の男前」って言われてました。
「あっははははー」
「それそれそれー」
・・・・・。
(人の顔をネタにすんじゃねえ。どーせ顔もアナログですよ)
(だし、皆さんと御一緒させていただいて、まだ3日目なんですが・・)
お昼を用意してくださった。
仕出しのお弁当。
しっかし義理固いクライアントさんだ。
いっただっきますっ。
鯵フライのお弁当。
・・・・・。
鯵フライはサクサクでいいんだけどさ。
これさ。
牡蠣フライと同じ油で揚げたな。
牡蠣は食えんのだ。
うー。
口の中があー。
苦いいー。
気持ち悪くなっちった。
窓の外は昼から雨。
午前中の撮影と背景のテイストが変わってしまう。
こういうの。
嫌だなぁ。
仕方無いんだけどさ。
予定より1時間早く撮影終了。
首都高乗って帰っちゃお。
浜町から乗って・・
嗚呼。
嗚呼。
俺としたことが。
箱崎でトンチンカンな方向へ入っちまった。
どこの田舎もんだよっ。
しかも、
気が付けば、無意識に常磐道を目指してる。
まだだ。
まだ帰れない。
望郷の念、断ち難く。てか?
膀胱の念、勃ち難く。おしっこはマメに行っとこね。俺、近いからね。
明日も撮影だ。