アマチュア吹奏楽団の演奏会は、その団体の考え方によって様々な“やりよう”があります。
まずは、最初の段階。
自分たちのやりたい曲をやる…、いわゆる自己満足完結型。
簡単に言えば、観客を自分たちの充実感の道具として利用するということでしょうか。
次に観客に聴かせたい曲でプログラムを組む、ただ、それは決して自分たちがやりたい曲とは“イコール”にはならない。
いわゆる観客を“意識した”選曲です。
後者の方が志が高い様にも思えますが、一概にそれがベストだとも言えません。
観客の“内容”によっても変わるからです。(例えば、学校や職場のバンドだと如何せん、“身内”が中心の観客であるとか…。)
それはもう、致し方のないとしか言いようがありません。
ところが、ここに○○高校吹奏楽部のOBでも父兄でもなく、△△市民吹奏楽団に属しておらず、関係者でもなく、ただただ、吹奏楽が好きで仕事の合間をぬって年間約40公演に行く一人の“オヤジ”がおります。
何の縁故もない吹奏楽団、吹奏楽部の演奏会に、いつも、たった一人で乗り込んで行く“オヤジ”です。
ある時は、いたたまれないくらいのアウェー感に浸りながらでも“音楽”を聴いてしまいます。
そんな“オヤジ”が最近、思うのです、“テーマ”のある演奏会って面白いなと。
もちろん、いかにアマチュアと言えども観客に聴いてもらうわけですから、まずは技術を向上させなくてはなりません。
ですが、悲しいかなアマチュア演奏家には時間の制約があります。
限られた時間の中でいかに演奏会において観客に訴えかけるか、それが問題ですね。
それには他の団体との“差別化”を図るのが手っ取り早い。
流行りの曲や今の時期だと課題曲の演奏、こればっかりが目立ちます。(課題曲を演奏して審査される身のアマチュア吹奏楽団がコンクール前の定演で“課題曲全曲披露”とかしても…。多少、疑問に思ってしまいます…。自分たちのコンクールで演奏する課題曲だけだったら、わかるのです。人前で演奏するという“意味”がある。)
何となく、そんな事を思っていたある日、一つのコンサートに出会いました。
東京の一般吹奏楽団、ヒネモス・ウインド・オーケストラ。
今年の4月19日に行なわれた演奏会は、「ニッポンの吹奏楽」と題して、現代日本の吹奏楽界に影響を与えた作品の特集をすると言う企画。
アマチュアですから、限界のある部分もありますが、とても楽しめた演奏会でした。
私は、大満足でありました。(但し、吹奏楽にあまり触れたことのない観客の方には微妙な感情が生まれるでしょうが…。)
そして今回の「ミュゼ・ダール吹奏楽団」。
たしか、どちらかの演奏会で頂いたチラシで知ったと思いますが、内容を確認した瞬間、即決で行くことに決めた次第。
しかも、演奏会のナビゲーターとして、NHK-FM「吹奏楽のひびき」のMCとしても人気の高い作曲家の中橋愛生先生が参加して下さるとのこと。
第18回定期演奏会のテーマは、『吹奏楽コンクールを彩った作品たち~懐かしくも新しい本当の姿』とサブタイトルがついています。
今回の演奏会での選曲は、「全日本吹奏楽コンクール全国大会」で演奏されたものであり、そして、その中でも中橋先生が『「作品自体」と「吹奏楽コンクール全国大会という場」との間に《何らかの距離》がある』と感じた楽曲なのだそうです。
何だか聞いているだけでワクワクしてきそうです…。
ミュゼ・ダール吹奏楽団は1999年4月に豊島区を活動拠点として、17名で創団しました。
それから、定期演奏会やその他のコンサート、コンクールやアンサンブルコンテストにも出場し、多岐にわたる活動をしている吹奏楽団です。
特に『豊島区での地域活動の功績が認められ』、2009年12月に「豊島区文化功労表彰」を受賞されたとのこと。
最近では、コンクールでも都大会出場の常連となり、安定した成績を残されています。
ちなみに「ミュゼ・ダール(Musée d’Art)」とは、『フランス語で“芸術の殿堂”を意味して』いるそうです。
2015年6月6日、土曜日。
ほぼ1年振りの「杉並公会堂」です。(昨年の5月16日に“Blitz Philharmonic winds”の定期演奏会で“初”来館しています。)
2006年の完成ですから、まだ10年も経ってないホールなんですね。
確か非常に音響も良かったような気がします。
まもなく、17:30。
開演のようです。
《吹奏楽コンクールを彩った作品たち~懐かしくも新しい本当の姿~》
ナビゲーター/中橋 愛生
【Opening】
ダンス・セレスティアーレ Op.28/ロバート・シェルドン
【1st Stage】
ザノニ Op.40/ポール・クレストン
クィーンシティ組曲/チャールズ・カーター
Ⅰ.ファンファーレとプロセッショナル
Ⅱ.グラス・ルーツ
Ⅲ.ハーヴェスト・ジュビリー
瞑と舞/池上 敏
アンティフォナーレ~金管六重奏とバンドのための/ヴァーツラフ・ネリベル
【2nd Stage】
セント・アンソニー・ヴァリエーションズ《原典版》/ウィリアム・H・ヒル
吹奏楽のための風景詩「陽が昇るとき」/高 昌帥
Ⅰ.衝動
Ⅱ.情緒
Ⅲ.祈り
Ⅳ.陽光
さて、今回の演奏会は、中橋先生がナビゲーターをやって下さるようですが、同時にプログラムの曲の“解説”も中橋先生が書いておられます。
とても懇切丁寧で詳細な内容になっております。
曲の構成や作曲の経緯に関する部分では、私はあまりにも知識がなく、中橋先生の文章に頼らざるを得ないことをご容赦下さい。
演奏会が始まりました。
まずはオープニング曲ということでシェルドンの「ダンス・セレスティアーレ」から。
私にとってシェルドンと言うと毎年、春日部共栄高校吹奏楽部の定期演奏会で聴く「飛行の幻想」を思いだします。(春日部共栄では、毎年、春の定期演奏会で吹奏楽部に入部した新1年生だけで「飛行の幻想」を演奏するのが恒例行事となっています。)
演奏会に行っても時折、名前を聞く作曲家ですね。
曲が始まりました。
よく、響きます。
とっても、いいホールです。
演奏も出だしから、スマートなカンジ。
いかにもアメリカの作曲家らしい曲調は、安心します。
ただ、ダイナミクスにもう少しメリハリがあると私の好みに近かったかも。
ちなみに、この曲は全国大会では、1990年度第38回大会、一般の部で九州支部の春日市民吹奏楽団が演奏した1回だけのようです。
第1部、最初の曲は、ポール・クレストンの「ザノニ」です。
この日の演奏会は、私個人的な観点から申し上げますと、この曲を聴きに来たと言っても過言ではないかも知れません。
あまり詳しく言いますと“個人情報”に触れますので(笑)、ご容赦願いたいのですが、実は私、この曲を自由曲として2度程、コンクールに出たことがあります。(支部大会まで進みました。)
だから、非常に思い入れが強い曲です。
プログラムの解説を拝見しますと今年がちょうど、クレストンの没後30年とのこと。
ン十年前は、この曲のタイトルの意味も分からず演奏しておりましたが、「ザノニ」とはイギリスの小説のタイトルから、採られたようですね。(クレストン自身は否定しているそうな。)
この曲の演奏というと、まず思いだされるのが1972年度、第20回全国大会、大学の部、関西学院大学の『名演』です。
これは今でも“音源”を持っていて頻繁に聴いているのですが、実に見事で、現代に持ってきてもトップクラスの演奏だと個人的に確信しています。(というか、この演奏を聴いて、お手本にしていたのですよ。)
冒頭、もう少し、アタックを効かせて欲しかった。
全体的にソロパートの方が浮足立っていたような。
途中のテンポが少し早くなるところ(確か2/4拍子?間違っていたらゴメンナサイ。)から、少し舞曲的な感じもするので、出来れば“華麗な”テイストもあれば良かったかな。
そして、最後の物悲しいユニゾンのメロディラインは、もう少し朗々と歌って欲しかった。
色々、書いてしまいましたが決してミュゼ・ダールの演奏にケチをつけているのではありません。
あまりに個人的な想いの詰まった曲なので、私の“固定化した曲のイメージ”があるのです。
だから、“それとは違う”演奏だと…。
ミュゼ・ダールは客観的に見て、都会的でスマートな演奏だと思いました。(ちなみに私は、「ザノニ」をドロドロした暗くて重厚な曲だと思っています。)
若い頃の事を思い出して、少々、熱くなってしまった…。
そう言えば、関学の演奏もコンクールと言う時間制限のため、トランペット・ソロの“カット”をしてあるのですが、音源として“完全版”がないことを中橋先生もプログラムに書いておられました。
しかし、ここで、朗報。
舞台上でナビゲーターをしておられた中橋先生が良い情報を教えて下さいました!
何でも東京佼成ウインドオーケストラ(TKWO)が「ザノニ」を含むアルバムをCD化するとのこと。
非常に楽しみです!!
続いては、カーターの「クィーンシティ組曲」。
1970年の作品と言いますから、半世紀近い前に作曲されたものです。
全国大会では、1971年の神奈川大学(第19回・銀)と1975年の金沢吹奏楽研究会(第23回・銅)が自由曲として演奏されています。
私の学生時代にありがちだったアメリカ人作曲家の作品という趣の懐かしい感じの曲です。(もちろん、良い意味で、です。)
ミュゼ・ダールの演奏も好感の持てるものでした。(この曲から“エンジンが掛かって”きましたね。)
1曲目のファンファーレ的な部分から、金管楽器がとても良く音が出ていて気持ちが良かった。(特にトランペット。)
2曲目も細部まで気を使った丁寧な演奏に仕上がっていたように感じました。
全体的にみると大きな山場のない曲で単調になりがちだと思うのですが、そこは技術と表現力で観客に訴えかけていたように思います。
特にバンド全体に対する低音楽器の“支え”は曲を構成する上において非常に重要な位置にあるものだと実感した次第。
それにしても…。
私、この曲を最近、生演奏かCDで聴いたことがあるような気がするのですが…。
どこだっただろう?
歳は取りたくないものです…。
第1部、3曲目は、池上敏先生の「瞑と舞」。
この曲は、“中学の部”を中心に今まで5回、全国大会で演奏されています。(第25回[1977]徳島市立富田中、第29回[1981]旭川市立神居中、第34回[1986]伊丹市立東中、第46回[1998]NTT東京吹奏楽団、第51回[2003]松山市立雄新中)
私にとって、“リアルタイム”に存在してた曲で学生時代に「カッコイイなあ」と思っていた印象が強い。
この日の演奏。
パーフェクトというわけではなかったが、この曲の持つ“本質”…、すなわち、“土俗性”“神秘性”を如何なく発揮した好演でした。
「動」から「静」へ移る時の音の処理の仕方が気になる部分もありましたが、表現力の高さは素晴らしかった。
中橋先生による“祝電紹介”のあと(そこまでやるとは、ご苦労様でした(笑))、2012年に“復刻版”の楽譜が出版されて以来、割と演奏会やコンクール自由曲として聴く機会が多くなったネリベルの「アンティフォナーレ」。
今回の演奏会では曲名の一部にある「~金管六重奏とバンドのための」と書いてあるところに目を惹かれました。
「アンティフォナーレ」って“バンダ”を使う曲だったんですね…。
調べてみると、全国大会で演奏されたのは、あわせて6回。(福岡大学[第21回,1973]、近畿大学[第30回,1982]、小牧市立小牧中学校[第34回,1986]、北海道教育大学旭川分校[第37回,1989]、大曲吹奏楽団[第48回,2000]、福岡工業大学[第56回,2008])
中世のローマカトリック教会の2つ以上の群が交互に演奏するという手法「アンティフォニー」を取り入れた楽曲です。
演奏の方は、どんどん華やかになってきました!
ネリベルらしい独特の“間(ま)”も、うまく表現出来ています。
私は、この曲で初めて“バンダ”を使った演奏を聴いたように思いますが、何か今までとは違った曲に聴こえましたね。
より厚みが出て、より宗教色が濃くなった。(この曲の本来の“雰囲気”が増したということです。)
第1部の最後に相応しい華麗な演奏でした。
第1部、 最初の曲はウィリアム・ヒルの「セント・アンソニー・ヴァリエーションズ」。
しかも、演奏されるのが珍しい《原典版》だと言う。(この曲をヒルが作曲したのが1979年。この《原典版》の出版は何故か2012年まで待たなければならなかった…。)
全国大会では1981年(第29回)に文教大学が演奏したのが始めで、昨年2014年(第62回)、職場一般の部のNTT西日本中国吹奏楽クラブまで、19回の演奏が行われています。
ただし、“曲の内容”は違う。
もともと、この曲は『聖アンソニーのコラール』という『17世紀に歌われていたキリスト教の巡礼歌』に『基づく「序奏と主題、4つの変奏」という流れの変奏曲』です。
まず、全国大会で初めての演奏である文教大学は、同大学教授の『作曲家、柳田孝義が新たに書き下ろしたもの』でありました。
ヒルの書いた《原典版》が重々しく終わる“エンディング”であったのに比べ、文教大学のものは『主題のコラールが原型のまま華々しく回帰する劇的なもの』だったそうです。
そして、『その4年後の1985年』天理高校が全国大会で演奏したのも、ヒルの《原典版》とは違い、『ピアニスト・中屋幸男が作成した版』でした。
その内容は、『文教大学に倣って主題の再現を結尾に置きつつ途中を縮小したもの』で、これが、いわゆる《天理版》です。
この《天理版》は『ヒル許諾のもと』に出版されるに至りました。(何と『後年、ヒル自身が《天理版》を用いて指揮した演奏の録音も遺されている』そうです。)
なお、コンクール自由曲として演奏された「セント・アンソニー・ヴァリエーションズ」は、文教大学を除いて全て《天理版》なのだそうです。(全国大会、支部大会の123回全て。)
この日の《原典版》は初めて聴かせて頂くので、どのようなものか非常に楽しみでした…。
最初の金管のファンファーレ、とても美しい!
ソロパートも第1部と比較して、見違えるように音が響いていたし、感情豊かなパフォーマンスでした。
ただ、合奏部分でメロディラインの表現力は素晴らしく、十分すぎるほど華やかではあったのですが、個人的な好みとしては、もう少し、“粘着質”的な感じがあればと……。(“浦和のオヤジ”は、どちらかと言うと“クサい”のが好きなのです…。)
《原典版》について。
やはり、打楽器中心の最後の終わり方は、《天理版》を聴きなれた私にとってみれば、やっぱり、重厚ではありますが、“違和感”を感じざるを得ませんでした…。
さて、時間が経つのは早いもので、いよいよ“トリ”の曲です。
高昌帥先生の「陽が昇るとき」。
けっこう流行りの曲です。
コンクールや演奏会で割と頻繁に聴かせて頂いているような気がします。
何よりも、とってもステキな曲です。
私は個人的に大好きですね。
私が初めて、この曲を“生演奏”で聴いたのが(記憶が正しければ)、2012年8月12日に川崎市教育文化会館で行なわれた第61回神奈川県吹奏楽コンクール県大会、職場一般の部で「大磯ウインドアンサンブル」が演奏したものだったと思います。
そして、その翌年、福岡サンパレスホールで行なわれた職場一般の部全国大会(第61回)の「大津シンフォニックバンド」の演奏は、とても良かった。
その後も、たくさんのバンドの演奏を聴かせて頂きましたが、いつ聴いても心が洗われるような名曲ですね。
プログラムの中橋先生の“解説”によりますと『実はこの曲、全部で4つの楽章(詩、と表記される)から成る演奏時間33分の大作なのだが、そのそれぞれの詩は元々は個別の楽曲で、委嘱元も異なる』のだそうです。
私は知らなかったので、とても興味深く感じました…。
参考のために以下にプログラムに書いてあった内容で“委嘱先”と“作曲年”を記しておきます。
〈第1詩〉「衝動」…創価学会関西吹奏楽団、2004年
〈第2詩〉「情緒」(旧「諧謔のとき」)…ウインドアンサンブル「一期一会」、2004年
〈第3詩〉「祈り」(旧「祈りのとき」)…関西大学応援団吹奏楽部、2002年
〈第4詩〉「陽光」(旧「陽が昇るとき」)…宝塚市吹奏楽団、2002年
ミュゼ・ダールの「陽が昇るとき」、とても気持ちが良かったです。
もちろん、ミスがなかったとは申しませんが、サウンドに厚みを感じ、この壮大な「風景詩」を見事に描いていたように思います。
そして、何よりも音楽に“流れ”がありました。
だから、長時間の演奏でも退屈しないし、かえって時間が短く感じる。
気合いの入った演奏でした!!
アンコール曲は上記のとおりです。
それにしても、アンコール曲も“コンクール自由曲”であった曲を持ってくところは、なかなか粋ですね。
ちなみにアンコール1曲めの「行進曲“木陰の散歩道”」は1962年(第10回大会)で愛知大学吹奏楽部が、2曲目の「スピリテッド・アウェイ」は2010年(第58回大会)で伊奈学園OB吹奏楽団が全国大会自由曲として演奏した楽曲です。
ミュゼ・ダール吹奏楽団 第18回定期演奏会。
楽しいひとときでした。
何よりも演奏会に真摯に向き合っている姿が良い。
これから、いかなる成長を遂げて行くのか、楽しみな吹奏楽団が私の中でひとつ増えたようです…。