1月10日、福田さんは89歳の誕生日を迎えられました。
福田さんは、昨年から当園で生活いただいているので、当園で迎える初めての誕生日でした。
本当なら、「おめでとうございます」と心から言えるのに、この日は「ごめんなさい」という気持ちが先でした。
福田さんはこのお正月に右手首を骨折されました。トイレに座っていたところから自分で立ち上がろうとしましたが、身体が十分に支えられずに前方に崩れ、右手を突いたんです。
福田さんは右利きです。転倒後、軽度の腫れは認めましたが、箸を持ちご飯を食べることもでき、普段とさほど変わった様子は見受けられなかったため、ご家族に事故の事実と身体の様子を報告して様子を見ていました。
すると、段々と箸が持てなくなり、腫れに付随して内出血を認めるようになりました。すぐに専門医を受診し検査をした結果、右手首に骨折を認めることが判明ました。
せっかく元気になっておられたのに、言葉もたくさん出るようになって、笑えるよになって、立つ力も強くなっていたのに、右手首を骨折してしまったんです。
トイレに座っておられる時には、前傾姿勢が保てて身体も安定すように、前に専用の台を設置していました。当園は、職員がトイレの中に入ってご本人の排泄中に見守ることはしていません。理由は、自分だったら居て欲しくないからです。定期的に声を掛けさせていただり、注意をしていましたが、事故は起きました。
この対応だけでは足りなかったということです。職員は話し合い、同じ事故を起こすことがないように考え約束しました。
ご家族のご自宅を訪問させていただき、謝罪の気持ちをお伝えしました。謝罪して福田さんの右手が治るわけではありませんが、私達が出来ることを考えて、施設としての責任が少しでも果たせるように行動しました。
本当は、元気に89歳の誕生日が迎えられるはずだったんです。
だけど、89歳の誕生日を迎えた福田さんの右手は、シーネで固定され包帯が巻かれていたんです。
本当に申し訳ございませんでした。ご本人に対してもご家族のみなさんに対しても、本当にごめんなさい。
どのような状態や経過や理由があっても、当園の生活の中で起きた事故は当園の責任です。
誠意をもって詳しい説明と謝罪を行い、
迅速で適切な医療を提供し、
再発防止と身体と気持ちが弱らない取り組みを行い、
経過や様子についてご家族に細かく説明する。
施設としてやるべきことは他にもありますが、人として当たり前なことを丁寧にすることが一番大切なことだと思っています。
誕生日のお祝い当日は、福田さんの担当の松田介護士がご家族と相談して、ご家族も一緒にお祝いをすることが出来ました。
ご家族には、「おめでとうございます」の前に「「ごめんさい」という気持ちをお伝えしました。
福田さんは認知症なので、自分の思いを全て言葉で表現することが難しいです。だけどこの日、福田さんは嬉しそうに笑っておられました。きっと、一番大切な存在の家族に自分の誕生日を祝ってもらったからですよね。
老人ホームに来たくて来ている人はいません。
ご家族も、預けたくて預けている人はいません。
このことを忘れることなく、私達が為すべきことを考え実践しなければなりません。
一日も早く、福田さんの右手の包帯が取れますように。そして、また来年も家族一緒に90歳の誕生日をお祝いが出来ますように。ご家族のみなさん、ありがとうございました。