*** june typhoon tokyo ***

Tristan@代官山LOOP


 “オランダのインコグニート”との異名も、ライヴバンドとしての矜持あってこそ。

 英チャート1位を数多く獲得し、“オランダのインコグニート”との呼び声も高く、実際インコグニートの総帥ブルーイも「オランダの最高峰」と称賛しているというソウル・フュージョン・バンド、トリスタンの初来日公演。横浜・モーションブルーでの公演は完売、その後名古屋、大阪と続くジャパンツアーの初日が東京・代官山LOOPという密接度の高いライヴハウスで行なわれると耳にして、急遽その日の予定を変更して夜の渋谷を縫うようにして駆けつけた。

 会場に入るとフロアには椅子が並べてあり、これまで代官山LOOPで座席があるライヴに出くわしたことがなかったので正直面を食らったが、それでも約5、60ある席はほとんど埋まり、サイドや後方には立ち見客の姿も。アシッド・ジャズやファンク、AORあたり好事家とおぼしき人たちが集い、ステージから放たれる心地よいグルーヴと潔いリズムに耳や身体を寄せていた。



 ステージは、センターにヴォーカルのイヴリン・カランシー、左にギターのガイ・ニッケルス、中央奥にドラムのセバスチャン・コーネリセン、右手奥にベースのフラン・ヴォーリンク、右手にキーボードのコーエン・モレナーという布陣。キーボードのモレナーがインコグニートで言えばブルーイ的な立ち位置を務める。サウンドは確かにインコグニートやブラン・ニュー・ヘヴィーズ、タワー・オブ・パワーやTOTOあたりを彷彿とさせるアシッド・ジャズやフュージョン・ファンクを奏でていて、前述した“オランダのインコグニート”の惹句に違わない“正統な後継者”とも呼んでもいいサウンド・スタイル。ただ、そう言うとインコグニートの亜流かと訝しがる人もいるだろうが、そこは彼らなりの確固たるアイデンティティが備わっている。

 ホーン・セクションがないため、ホーンやフルートなどの音はマスターのモレナーの電子キーボードが担うのだが、彼のテクニックが秀逸。ちょっと太めのオジサン(失礼)が妙技を繰り出すというのもブルーイとの親近感が窺えるが、細やかかつスピーディな指裁きで色彩鮮やかな上モノを鍵盤で弾いていく佇まいは、エネルギッシュでありスタイリッシュ。滑らかな鍵盤が先導して、スリリングなアンサンブルを奏でるにつれ、フロアのヴォルテージも上昇していく。



 インコグニートやブラン・ニュー・ヘヴィーズとのキャラクターの違いを端的に表わしているのが、ガイ・ニッケルスの奏でる爽快感と広大さが伝わるギターをはじめ、どちらかというと高中正義やカシオペア、T・スクエアあたりのフュージョン色が強い音を鳴らしているというところ。ジャズ・ファンク的なアプローチを擁しながらもそれを強く前面に押し出すのではなく、あくまで全体の統一感をとりながらアシッド・ジャズ路線を軸に展開している印象だ。

 また、ヴォーカルのカランシーは声量と声圧で圧倒的にインパクトを与えるブラック・ミュージック・スタイルではなく、ソウル・ジャズ・シンガー的な佇まい。そこも大きな違いで、どちらかというとソウル/R&B歌手というよりもジャズ・ポピュラーを中心に歌っている感じで、たとえば、ハウス・ミュージックでも客演をこなしたジャズ系のパティ・オースティンと、ドナ・サマー、イヴリン・“シャンペン”・キングといったディスコ系歌手とをマッチングさせたようなヴォーカルワークが特徴といえる。何より明快と陽気が伝わるパッションに溢れたヴォーカルが魅力で、オランダ出身といってもキュラソー島などにルーツがあるのではと思わせるカリビアンな要素も見え隠れ。実際バックビートのレゲエ調ミディアムを曲構成に加えていたりと、ミディアム・バラードであれ、スリリングなアッパーであれ、ポジティヴなムードを下地にしたところは、彼らならではのサウンドカラー。その意味で、英国をはじめとする欧州など海外でも確固たる評判を得ているのは、彼らが決して“イミテーション”といった類ではないクオリティを擁していることとトリスタンとしての独創性をしっかりと有しているに他ならないからだろう。



 この日は20時開演から「ライフスタイル」までの45分を終えると、一度15分の休憩へ。その後二部をもう45分ほど演奏するという二部制でのステージ。二部途中からはカランシーの煽りもあってフロアの客も待ってましたとばかりにスタンドアップで応戦。徹頭徹尾爽快な放ち続けたグルーヴに多くの観客が包まれ、虜になっていた。

 欲を言えばホーン・セクションとバックコーラスがいたら一層楽しめたと思うが、それでも各メンバーが技巧を繰り出して奏でる曲の完成度や気の入れようから察するに、単なるアシッド・ジャズ・フォロワーではなく、高い技術をもったライヴバンドとしての自信が垣間見れたステージだった。最近『ライヴ・イン・コンサート』というライヴ・アルバムをリリースした彼らだが、それもライヴバンドとしての自信があってこそだと思う。次回の来日時には是非ホーンおよびバックシンガーを帯同してもらって、さらに音圧と高めた演奏を披露してもらいたい。


◇◇◇

<MEMBER>
Evelyn Kallansee(vo)
Guy Nikkels(g)
Frans Vollink(b)
Coen Molenaar(key)
Sebastiaan Cornelissen(ds)




◇◇◇


















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