*** june typhoon tokyo ***

Especia@六本木VARIT


 ヴェールを脱ぎ始めた“Especia the Second”。

 ガールズ・グループ“Especia”恒例のモーニング・ライヴ・シリーズ〈Hotel Estrella〉。これまでは洋食や中華を提供してきたが、第4弾は〈みなと亭〉と題して和食を用意。会場はEspeciaの根城になりつつある六本木VARIT。「津軽海峡・冬景色」「酒と泪と男と女」「舟唄」「函館本線」「つぐない」など演歌・歌謡曲がBGMとしてフロアに流れるなか、開演時間より10分ほど遅れてステージが開幕した。

 今回の〈みなと亭〉は心躍る瞬間が次々と現れた、そう感じたぺシスト(Especiaのファン)も多かったのではないだろうか。アンコールでは「Danger」「Rainy Blues」の新曲2曲を披露。ファットなベースの導入から始まり、鷺巣詩郎や島野聡などMISIAワークスを思わせる流麗なストリングスや80年代ディスコ調シンセ・サウンドで展開するファンキーな「Danger」、ベースは効かせているもののフワフワと浮かぶようなチープなシンセとファンシーなアレンジが強調されたラヴリー・ポップ「Rainy Blues」は、それぞれ指向が異なるとはいえ、どちらもこれまでのEspeciaの範疇を踏襲したもの。前体制の作風を愛聴していたファンには食指が動くだろう。個人的には「Rainy Blues」は“黒さ”やうねったグルーヴをあまり感じず、それほど傾聴とはならないが、“箸休め”的なものとしては“アリ”か。その路線に偏重するのは首を傾げるものの、彼女らが封印しかけた少女性を紐解いてグループとしての多面性を顕示すると考えれば、面白い試みと言える。

 ところが、それ以上のトピックが待ち構えていた。思い返してみれば、その予兆は冒頭の「Affair」で魅せた冨永悠香のフェイクだったかもしれない。
 通常は新曲披露でも十分な話題となりうるのだが、このステージでは過去曲ながらも新体制となって初披露となった楽曲が組み込まれていた。「Over Time」「オレンジ・ファストレーン」がそれに当たるのだが、初披露となるだけでなく、これまで主にコーラスを担当していた森絵莉加がリード・ヴォーカルを執るという“サプライズ”。そればかりか、ミア・ナシメントも「シークレット・ジャイヴ」などでリード・パートが増えるなど、全体的に冨永悠香のリード・ヴォーカルを軸にしていた演出にも変化が見られた。

 ただ、まだ森は丁寧にヴォーカル・メロディをなぞることに注力する部分が大きく、また表情豊かに楽曲の尺をフルに歌い切るだけの“体力”は備わってなかったというのが実のところ。「ミッドナイトConfusion」や「We are Especia~泣きながらダンシング~」などでは彼女らしい勢いのある歌唱で魅せていただけに、もしかしたら今回披露した「Over Time」「オレンジ・ファストレーン」の音域が彼女の声域とあまり合っていないのかもしれない。
 また、ミア・ナシメントは前回「Fader」でのハイトーンから始まる冒頭で一気にぺシストの心を掴むような歌唱を披露したが、「シークレット・ジャイヴ」での低いパートはやや辛そうなところも。キャリアも浅く仕方ないところもあるが、まだ楽曲全体を実践で歌い切るには経験値が不足している感は否めない。「Savior」などでのコーラスではクオリティを感じさせるだけに、こちらも森同様に安定して歌い切る(演じ切る)“体力”が必要だ。

 しかしながら、こういったパートやリード・ヴォーカルの変更は、Especiaというグループに大いなる魅力をもたらしそうでもある。冨永がコーラスに回る部分が増えたことでハーモニーの質が向上。冨永自身がリード・ヴォーカルに絡んだり、コーラスでフェイクを重ねたりと、ヴォーカルに華やかな彩色を湛えるようになってきた。もちろん、元来表情の豊かさという意味ではグループ内で高いレヴェルにあった彼女だっただけに、楽曲によって他メンバーにリード・ヴォーカルを委ねることで、一人で背負い過ぎる精神状態からも解放され、余裕が生まれたことから伸びやかなヴォーカルワークも戻って来た。グループとしてもさまざまなヴォーカル構成が可能となり、歌唱演出もヴァラエティに富むようになる。特にハーモニーの頻度が高くなることで、楽曲の奥行きを拡げられるのは、アピールに値するアイテムになるはずだ。以前はハーモニーを組み込んでいたとしても、大胆さはなく音圧もなかったため、それほど目新しい武器となるまでには届かなかったが、ようやく鮮明で豊かな彩りと薫りを満たすハーモニーで楽曲にアクセント(Especiaだけに“スパイス”と言い換えた方がいいか)を付加していけそうな気配だ。

 次第にMCの回数も増え、トークでは関西弁や日常生活の話題が聞かれる場面も。元のMCに戻りつつあることを良しとするかは別として、そのようなトークが出来る心境になってきたことは良い傾向だろう。新体制でこの朝企画シリーズや対バンその他のイヴェントで場数を踏んできた結果が、少しずつ余裕となって表われてきているのかもしれない。

 冒頭で“ヴェールを脱ぎ始めたEspecia”とミステリアスに煽ってはみたものの、実態はステージ・パフォーマンスに有効な多面性を持ち合わせてきたということか。これまでなかなか確信が持てずにいた伸びしろや可能性を改めて実感したステージ。とはいえ、重い期待を寄せるにはまだ早い。その資質やポテンシャルは十二分に醸し出していたが、今後いかに加速度をつけて成長出来るかがカギとなりそうだ。


◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Affair
02 海辺のサティ
03 Mistake
04 FOOLISH(12" Vinyl Edit)
05 Over Time
06 シークレット・ジャイヴ
07 Savior
08 Fader
09 オレンジ・ファストレーン
10 Nothing
11 Boogie Aroma
≪ENCORE≫
12 Rainy Blues
13 Danger

<MEMBER>
Especia are:
Haruka Tominaga(vo)
Erika Mori(vo)
Mia Nascimento(vo)


◇◇◇

【〈Especia the Second〉(新体制)以降の記事】
2016/06/25 ESPECIA@渋谷Club asia
2016/08/12 Especia「Mirage」
2016/08/28 Especia@渋谷CHELSEA HOTEL
2016/09/11 Especia@O-nest
2016/10/16 Especia@六本木VARIT
2016/11/13 Let's Groove@六本木VARIT
2016/11/27 Especia@六本木VARIT(本記事)

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