*** june typhoon tokyo ***

Nao Yoshioka@赤坂BLITZ

 ショッキングピンクで語る決意と成長。

 デビュー以来の2作はどちらかというとジャズやソウルなどオールディーズ色の強いルーツ・ミュージックに依拠していたが、3rdアルバム『THE TRUTH』では大胆にモダンにチェンジしてネオソウルやアーバンソウルへと歩みを寄せたNao Yoshioka。それを可視化したかようにジャケットも鮮烈なショッキングピンクを配色。この色は赤と同様、情熱的な心理を表わすと言われているが、まさしく変化を厭わない、今の私自身(=“TRUTH”)を知ってほしいという思いが込められたアルバムとなった。その『THE TRUTH』を引っ提げてのツアー〈Nao Yoshioka The Truth Japan Tour 2016〉のファイナル公演が東京・赤坂BLITZで開催。当日朝には11月ながらも降雪に見舞われた東京だったが、開演時刻が近づくにつれて雪が止んだのは彼女の熱気が伝わったのだろうか。そう思わせるほどの熱とグルーヴが夜の赤坂に生まれていた。

 スクリーンにヴィデオが映されて「Journey(intro)」へと移ると、主役のNao Yoshiokaが鮮やかなドレス姿で登場。やや緊張の面持ちを見せながらも、ミュージックディレクターの松田博之やドラムのFuyu、インストライヴを共にした小林岳五郎ほかが集う盤石のバンドメンバーを見遣った後、おもむろに「Borderless」を歌い始めた。

 個人的に彼女のライヴを観たのは、1stアルバム『The Light』リリース前の2013年10月(Nao Yoshioka@LOOP)と同アルバムのリリースパーティ(Nao Yoshioka@代官山LOOP)、そして先日のタワーレコード新宿でのインストアライヴ(Nao Yoshioka@タワーレコード新宿)。3年前のデビュー・アルバム・リリース時はニーナ・シモンやエタ・ジェームス、サム・クックなどのスタンダードを自身の感情に重ね、身を削るように痛切を帯びながら歌っていた。それはソウル・ミュージックにソウル(魂)を入れて歌うというある種のソウル・カヴァー然たるパフォーマンスでもあったが、それから時を経たこの公演では、R&B/ソウルという楽曲性をしっかりと包含した上でのネオソウルやアーバンソウルを披露。その意識はシャーデーの「キス・オブ・ライフ」や後半戦のメンバー紹介時のマックスウェル「サムシン・サムシン」といったカヴァーにも表われていた。

 ギアがグッと上がったのはやはり、再びスクリーン映像を用いたインターミッション後に観客にスタンディングを促し、コール&レスポンスで熱気を呼び込んだ「Forget About It」以降か。鎌田みずきと吉岡悠歩という表情豊かな実力派コーラス隊のサポートを受けて、ジュジュ(ハスキー声のJUJUの方ではない)のゴー・ゴー風の薫りも漂わせたファンキーなグルーヴで、オーディエンスの身体を揺らせていく。
 「Freedom & Sound」「Set Me Free」「Make The Change」やチャカ・カーンの名唱で知られる「チュニジアの夜」のカヴァーなどのミディアムでは、ジル・スコットやアンジー・ストーン、あるいはマーシャ・アンブロウジアスあたりのR&Bやネオソウルのムードを存分に湛えた表現力と芳醇な色香を伴ったヴォーカルワークで沸かせる。その色香がグルーヴと妙になり得るのは、ジャンバと小林岳五郎によるメロウな鍵盤捌きの影響も大きい。ヴェルヴェットのような深い光沢を感じるスムーズな上モノを奏でたかと思えば、コロコロとカラフルな音色で装飾したりと、Nao Yoshiokaのヴォーカルにさらなる奥行きを与えていた。もちろん、基盤となる松田博之のベースとFuyuのドラミングというリズム隊の仕事も見事で、ノリの良さでは田中“TAK”拓也のギターが一辺倒に陥らせないメリハリをつける先鋒として敏腕を発揮していた。

 機微を存分に声色に染み込ませたセクシーな「I Love When」で本編は幕。アンコール明けに披露した「Possibility」は本来は『THE TRUTH』へ収めたかったという未発表曲。“可能性”というタイトルは、常に身近にある不安と未来への期待との狭間で揺れる彼女のアイデンティティとも言えるか。こちらもネオソウル路線を踏襲したアーバンな作風にチャレンジし、それを全うする彼女のポテンシャルの高さと貪欲に音楽に向き合う決意のようなものが伝わって来た。

 ルーツ的なサウンドからアーバン・モダンなR&Bへの移行には正直躊躇ったところもあるかと思う。だが、クオリティの高いクリエイターたちに囲まれたのが幸いし、当初の思惑以上の実感を得ているのではないか。楽曲の中に物語性を感じるのもその一つで、歌唱力だけではない大人の嗜みを持った“引き”の美学を擁した描出に成長の跡を感じた。Nao Yoshiokaなりのネオソウル(“Nao Soul”とでも言おうか)が構築され、実力派ソウル・カヴァー歌手から脱したオリジナリティ溢れる歌手への飛躍を証明した瞬間でもあった。

 ただ、一見順風に見えるものの課題はある。なかには「英語でR&Bやソウルを歌うなら、洋楽アーティストでいい」というリスナーもいるだろう。この手の意見の多くは、正確には批評というよりも自身の嗜好による話のすり替えなのだが、とはいっても、確かに日本人は特に歌詞を重視するリスナーの割合も多く、英語だとスッと頭に入ってこないとして敬遠しがちな向きもあるのも事実。だからといって、日本語詞で歌えばいいかという話でもない。
 実は、こういったR&B/ソウルの好事家だが日本人アーティストにやや懐疑的(日本人がそのまま英詞曲を歌うことに疑問を持つ)なリスナーをどのように手元に引き寄せるかというのが、ビジネスとしてプロとしての成功のカギを握っているような気もする。上手いだけでは飯が食えないプロの世界をどう生き抜くかはどのアーティストにもついて回ることだが、実力は申し分ないだけに、さらに魅力的な“何か”を輝かせる必要はありそうだ。日本のR&Bシーンが枯渇しかけている昨今に潤いを取り戻せる存在として、大いに期待したい。

◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION(VIDEO)~ Journey(intro)
01 Borderless
02 Beautiful Imperfections
03 A Long Walk(Original by Jill Scott)
04 The Truth
05 Freedom & Sound
06 Sun + Moon = Tomorrow(Original by Ivana Santilli)
07 Kiss of Life(Original by Sade)
08 Set Me Free
09 INTERMISSION(VIDEO〈Capital Jazz Fest.2016〉)
10 Awake
11 Forget About It(Including phrase of“It's Love”by Jill Scott)
12 Sumthin' Sumthin'(Including Member Introduction)(Original by Maxwell)
13 Fireking
14 A Night in Tunisia(be famous for Chaka Khan“And The Melody Still Lingers On”)
15 Make the Change
16 I Love When
≪ENCORE≫
17 Possibilities
18 Spark

<MEMBER>
Nao Yoshioka(vo)

Hiroyuki Matsuda(松田博之)(MD,b)
Tak Tanaka(田中“TAK”拓也)(g)
Fuyu(ds)
Jamba(key)
Takegoro Kobayashi(小林岳五郎)(key)
Mizuki Kamata(鎌田みずき)(back vo)
Yuho Yoshioka(吉岡悠歩)(back vo)

◇◇◇


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コメント一覧

野球狂。
全然問題ないですよ~!
http://blog.goo.ne.jp/jt_tokyo
Hide Grooveさん、お気になさらないでください。生意気だなんてとんでもないです。いつもコメントありがとうございます。

個性が滲み出たら、というのは確かにそう思う人も多いかなあと思います。歌唱力という意味ではポテンシャルがあるだけに、いろいろ求めてしまうのも必然かと。自分も今作はネオソウルに寄っていたので耳を引きましたが、初作のようなスタンダード・ソウル路線だったら、アルバムを聴いたかどうか微妙なところでしたし。

それに音楽は無理して聴くものでもないですから、聴きたいと思わせる何か=個性=武器になるんだと思います。そういえば、ビヨンセ全然聴いてないな、と思い返しました(笑)
Hide Groove
追伸
野球狂。さん、生意気なコメントしてしまいすみません。
ただ確かな事は、彼女には大いなる期待感を持たずしてはいられないのです!

SOULを愛してやまない彼女の歌声から、
『これぞNao Yoshiokaの個性であり武器』というSTYLEを期待しております!
野球狂。
Nao、期待したいです。
http://blog.goo.ne.jp/jt_tokyo
Hide Grooveさん、どうもです。
90年代のDIVAブーム……それっぽいR&B仕様でLike a 雨後の筍で出てきましたけど、結局“歌える”のはMISIAだけで(その後「Everything」の功罪かほぼバラード・シンガーに移行してしまいましたが)、それもすぐ宇多田に持ってかれたりして、メディアが作った安っぽいブームでした。

Nao Yoshiokaは上手いです。でも、Hide Grooveさんのおっしゃるように、ややソウル・ミュージックをリスペクトし過ぎているのかな、とも思います。そのあたりが、オリジナリティを求めてしまう一因なのかもしれません。期待させるだけに、厳しい見方もされると思いますが、何とか“垢抜けて”もらいたいなあと。
Hide Groove
実力…プラスアルファの個性を!
野球狂。さん、こんばんは🌃
90年代に日本のミュージックシーンにDIVAブームがありましたよね。
日本人離れした…アメリカに一番近い…そんな宣伝文句を掲げてR&B風サウンドに乗った女性ボーカリストが沢山デビューしました。
良い時代でもありましたが、『DIVA』という言葉をそんなに安易に使うになよと、感じていた時期もありました。

久しぶりに日本のミュージックシーンに気になる存在として彼女を見ています。
R&Bをこよなく愛するリスナーも彼女の力量には、無視できない何かしらの期待感を抱くはずですよね!

彼女の作品を聴いて『うまいな!』だけではない、彼女ならではの個性が滲み出てきたら良いなと感じています。
歌声から感じるその優等生的な雰囲気が邪魔しているのかな?
粗削りでも良いから、毒っぽい個性が欲しいなと大いなる期待を持ちつつ、気になる存在であります!
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