DEEPLY JAPAN

古い話も今の話も、それでもやっぱり、ずっと日本!
Truly, honestly, DEEPLY JAPAN!

空っぽの国体明徴運動と日本の「悩み」

2017-03-09 19:20:35 | アジア情勢複雑怪奇

前から書いている通りのことが起こっている気がする。


稲田防衛相「教育勅語の核の部分は取り戻すべき」
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170308/k10010903641000.html

3月8日 18時44分

稲田防衛大臣は参議院予算委員会で、大阪の学校法人「森友学園」が運営する幼稚園の教育内容に関連して、「教育勅語の精神である親孝行など、核の部分は取り戻すべきだと考えており、道義国家を目指すべきだという考えに変わりはない」と述べました。

 

これで、八紘一宇、教育勅語、道義国家と彼らにとっての重要アイテムが国会の場で発語されたわけですね。

戦線は見えているのだが

で、私はこの人たちは偽物右翼と思っているわけだけど、宮台氏は彼らをコスプレ右翼と呼んでいるらしい。コスプレでもいいし、なんちゃってでもいいんだけど、要するに徹底的に無意味な騒乱を起こしているという点で、なにか、アンチ日本の集団のようにさえ見えてきた。

なぜなら、非常にみっともないものを見せつけているから。ほとんど日本の恥部の具現化とさえ言える。

別ファイルにも書いたけど、そもそも、勅語を幼稚園児に唱和させているという点で、なんてかこう、勅語をバカにしているし、到底道徳的でも立派でもない人々がそれを高らかに称賛するに及んでは、靖国神社の前にたむろしたり、北方領土返還~とかの街宣車に乗っている人たちと通底するものがある。

というか、結局同じ資金源とか同じ団体なのではなかろうか?

さらに、今上陛下が教育勅語の復活をお望みになっているとは到底言えない事情が一方にある中で「勅語」を復活させようとするその考えがそもそも実に実に深刻に不敬だ。

 

とはいえ、そもそも教育勅語は、明治維新政府において西欧型にもっていこうとする勢力が大勢である中、天皇親政を求める人々がいて、後者が押し込んだもの。だから勅語という体裁をとっているものの、別に明治の天皇陛下が自ら発話されたという話ではないのはまぁ常識。

案を出しているのはこのあたりの人。

元田永孚
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%83%E7%94%B0%E6%B0%B8%E5%AD%9A

wikiの教育勅語の項の書き方は怪しいものがありますね。「天皇側近の儒学者である元田永孚は、以前から儒教に基づく道徳教育の必要性を明治天皇に進言しており、」と書くと、道徳が主眼みたいだけど、そもそも元田らのテーマは天皇親政で、そこに持っていくためにいろいろな段階があったというだけ。

親政にしたいグループは明治維新前から存在していて、そこを押しのける恰好で妥協的にいわゆる「近代」、実態としてドイツあたりの真似、という統治機構ができる。だから、伊藤博文、井上毅らを他の理由で全面否定すると、間接的に親政グループを持ちあげてしまうことになりかねないのでこの辺は取扱に注意が必要。

しかしこの妥協はやっぱりあんまり良い妥協と言えなかったでしょう。天皇親政と絶対王政って基本的に同じですから。だから次第次第に議会軽視、上からなんでも決めちゃう的に向かったのは当然ちゃ当然だったと思うな。

で、ここらへんの流れ方、流し方こそ明治維新以来築かれてきた日本を壊したという批判は、戦後何も左翼の人たちだけでなく、右でも真ん中でも同様にあった。戦後、言論、思想の自由が回復する中で多くの人たちが結構なエネルギーを注いで、どうしてあんなことになったのかを解明しようとしたことを私たちは忘れるべきではないでしょう。

そして中でも、平田篤胤の言い散らかしたものをそこら中で変容させていったのがまったく大問題だったと激烈に批判していたのは例えば法制史家の瀧川政次郎氏などが有名だと思うけど、この系統の思想がらみの問題意識が近代的な教育体制の中から漏れて、インチキにも宗教あたりに押し込まれて、見えなくなっていたというのが今から振り返ると問題だった気がする。

要するに復古神道が持ってきた、日本はすばらしい、なぜなら皇国だから、というプラットフォームが明治維新以降、いわゆる明治の志士を通じて表に出てきてしまい、時代にあわせて変容して、日本は素晴らしい→だから日本が主体となってアジアを導く、という発想に繋がっていって自爆したという話。でもこれはまぁ、外征にもっていきたい勢力にとっては好都合だった、という点も重要。

ただ、日本は神国だというのは平安時代から存在する発想なので、江戸期において復古神道が受け入れられやすかったというのも見逃せないと思う。

 

復古神道系の運動と戦争賛美系統が同期して動くのは、1935年国体明徴声明なる声明を政府が出すに至った経緯を見てもわかる。退役軍人たちが大騒ぎして、足利尊氏を評価したということをネタに現役の大臣を失脚させたりするあたりから急速に議会が壊れていく。

有名な問題議員は陸軍の菊池武夫

この人のwikiを見たら、

暗黙の了解だった天皇機関説を帝国議会で最初に取り上げ攻撃し、軍部や国粋主義者を台頭させ大日本帝国を結果として崩壊させた人物

という文章があった。誰が書いたのか知りませんが、私もこれは否定しない。

 

そして、1937年には文部省が「国体の本義」なる出版物を全国の教育機関に流通させる。体裁上、天皇親政的意義は達成さられました、みたいなことになっているわけでそれ以外の考えをするなどまかりならんとなる。

しかし、1936年には二二六事件があって、1937年には盧溝橋事件からシナ事変は泥沼へ、という経緯を考えてみると、全然陛下の声を聴いてないやん、ではあるわけですね。

つまり、今から考えてみるに、「親政」という恰好で異論を挟ませない形にすれば何でもできると思っている勢力がいました、というただそれだけの話でしょうね。

 

そして、今行われているのも同じだと思うんです。今回は、現実に存在されている今上陛下を使いきれないので、天皇陛下のご命令をきけないのか、の代わりに、日本の伝統、を使っているものと思う。日本の伝統に逆らうものは非日本人だ、みたいなロジック。

で、その結果として、自衛隊をアジア太平洋地区の西側戦力の一部に完全に統合していく、と。よく考えると、国軍に成り得る戦力を外国人に渡しているという点で、実に実に売国的なのだが、「日本の伝統」でごまかしちゃうのね。

 

■ 日本の「悩み」

そんな中、中国の王外相が、日本は「悩み」を解消した方がいいよ、と言っていた。

盧溝橋80年、歴史直視迫る=「日本は心の病気」と中国外相
http://www.jiji.com/jc/article?k=2017030800687&g=pol

中国語でなんといってたのかわからないのだが、英語版の記事では、

日本は、中国に関する「anxiety」を治すべき、と言ったとあった。anxietyは心配、懸念という意味なのだが、単なる心配というより不安神経症的になっているようなものを一般に指すので、まぁ時事の言い方も間違いではない。ただ、煽ってるなという気はするけど。

World News | Wed Mar 8, 2017 | 1:34am EST
Japan must cure its 'anxiety' about China: Chinese Foreign Minister
http://www.reuters.com/article/us-china-parliament-japan-idUSKBN16F0G5?il=0

時事は日本の新聞らしく、言葉尻だけ捉えているけど、ロイターにあった記事はもっとちゃんと文脈まで伝えている。

王さんは、盧溝橋事件から80年となることを踏まえて、

日本では、いまだに戦争か平和かの2つの道の間で行きつ戻りつして、昔の道に戻ろうとしている人々がいる。私たちは、日本の中の平和を愛好する人々がこの重要な年に国の針路を前に進められることを願っている。

私たちは、もちろんに両国の人々の利益となるべく日本との関係を向上させたいと思ってます。しかし、日本側は、自分の「anxiety」を治し、中国は発展し続けており、再生しつつあるのだという点を合理的に見て、それが現実だと受け止める必要があります。

と語ったらしい。原文は上のロイターの記事。

利口な外相がいるっていいよな、とつくづく思う。日本の状況をよく見てる。

戦争か平和かという2つの道で迷ってるという状態が既に、本気かよ?なわけでしょ。しかも、教育勅語とか持ちだして騒いでる、と。もう爆笑ものでしょう。

そして、後段。日本がなぜ「不安」なのかというと、その原因は中国が強くなっている、再生したから、と王さんは見てるんだと思いますね。これはよく見てると私は思いますね。

1920年代、30年代、日本はロシアが再び強くなることへの恐怖から精神の失調を来して崩れたようなもの。しかも、シベリア出兵の不始末として相手は日本を非常に警戒し、嫌ってもいるという頼まれもしないのに自分で引き起こしたオマケがついていた。

このへんで考えた通り、シベリア出兵を話題にしないのはそれが「不安」のかなり本質的な原因だからでしょう。

「真珠湾への道は日露戦争での“勝利”から始まっています」

中国についても同様で、辛亥革命に至る混乱の時代は日本にとっては楽な時代だったが、統合に向かうと日本にとって好都合ではない時代になる。日本はここで考えを変えらなかった。王さんならずともまた同じだなと思ってる人がいても不思議でない。

 

さてしかし、今回の国体明徴運動はどう続くのか。議会を機能不全にしているというあたり、昔と同じく非常に不安なものがあるのだが、前回と今回の違いは、中露がまとまって強いというが一つと、もう一つは、現在の日本には先制攻撃をするような戦力はない、じゃないですかね。米軍の二軍ですから。

これを私は嘆かわしいと思いますよ、もちろん。しかしそれは先制攻撃できないからじゃないですよ、もちろん。こんな風にしか安定を得られない、まったく頼りにならない私たちになっているんだなという点が実に嘆かわしい。

別の言い方をするのなら、国体明徴運動がどれだけ盛んになってもそれは日本の信用を傷つける以外には特に効果はないということですよ。実にまったく嘆かわしい。

 

■ 日本式中華思想からの脱却

明治朝日本の根本的な問題点は、確かにいきなり欧化して対応できないとかいろいろあるけど、滝川政次郎博士のいうとおり、インチキな復古神道の余波が常に常に問題だと私は思いますね。

これは、俺はエライ、なぜなら道義の故だ、道義はどこに源泉がある、それは日本の存在自体だ、なぜなら万世一系の天皇がいる、皇国はすばらしい、みたいななんかこう、どうやっても他者と対等に話すのに不都合な、まったくの独善的思考傾向なわけです。しかもそもそもこれ中華思想のローカルバージョンにしか思えないというところも痛い。

さらに、実証的な要素がまるでないから、いきおい信じるか信じないかになって、徒党を組んでカルト化する。

日本に必要なのは核兵器じゃない。理性だ、って感じなわけですが、そんなことを言おうものなら、お前は西洋にかぶれておる、みたいになっちゃう。

これに対して戦後日本は主に、民主主義を万能ツールみたいにして、そんなのは民主的でない、で押し切っていたように見えるんだけど、これは全然本来的でない。

啓蒙時代が必要だ、って感じの今日この頃。


 

シベリア出兵 - 近代日本の忘れられた七年戦争 (中公新書)
麻田 雅文
中央公論新社

 

日本法制史 (上) (講談社学術文庫 (692))
滝川 政次郎
講談社

 


コメント (9)    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ハンガリー、新規原発着工にE... | トップ | 稲田防衛相:敵基地攻撃能力... »
最新の画像もっと見る

9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
『天皇を毛沢東にしたい』 (ローレライ)
2017-03-09 18:20:11
中国からは『天皇を毛沢東にしたい』日本のとんちんかんがまる見え!『日本の始皇帝コンプレックス』。
絵に描いた天皇 (ブログ主)
2017-03-09 19:23:14
ローレライさん、

いやぁ、日本の場合欲しいのは絵に描いた天皇であって現実のリーダーじゃないと思います。だから本当のリーダーは出ない。出る前に潰されるから。

結局これは何なのか。実は本質的に全然集団主義じゃない、ということなんだろう、など思う今日この頃。
Unknown (明月)
2017-03-09 20:15:58
この問題、根が深いです。

明治維新のときに、王政復古の大号令、とぶち上げましたが、大日本帝国憲法で、立憲君主制としたものです。
その後、大正天皇は天皇親政をしたい気持ちがあったが病を得て挫折し、昭和天皇は建前としては立憲君主制を遵守したようです。
なにかフラフラとしているのです。

今上天皇が引退希望を昨年夏に言い出したのも、興味深いことで、何も年齢だけのことではなく、内外の時勢なども考慮してのことではないかと推察します。
つまり、最近また盛んになってきている「空っぽの国体明徴運動」に対する牽制という効果があるように思います。天皇家はやはりよく情勢が分かっているものだと感心しました。

第12期全国人民代表大会第5回会議の記者会見(8日午前)で、王毅外交部長(外相)が「中国の外交政策と対外関係」について、国内外の報道記者からの質問に答えた件ですが、詳細はよく分かりませんが、「歴史を直視し云々」は王毅さんの持論らしいです。

文字起こししたものがあれば、どのような持論なのか、確認したいものです。
皇国だって思ってるのアンタだけ (私は黙らない)
2017-03-10 04:04:57
万世一系の天皇がいて、日本は特別な世界一すばらしい国だって騒いでいる人たち、小さなコップの中でご苦労さまです。小さな島国を出て外から見ていると、やれ道義だ、皇国だって大騒ぎしているのはアンタ達だけですよ。恥ずかしいからおやめなさい。
それにもし、アンタ方が本物の右だったら、何で某国の下請けを嬉々としてやってるんですか?
これは、日本式中華思想なんてものでもないと私は思います。生活圏に中国人が多く、付き合えば付き合うほど、中国人一人一人の中に中華思想を感じる時があります。一言で言って彼らの個人レベルでの中華思想はもっとオープンな気がします。何というか非常に鷹揚な優越感と言ったらよいでしょうか?その鷹揚さは、黙っていても周囲を漢化してきた長い歴史、大国としての自負からくるのでしょうね。
植民地で自国の言語を強要するような思想とは全く違うような気がします。
タコツボ中華だから (ブログ主)
2017-03-10 11:51:35
私は黙らない さん、

ナイスな観察ありがとうございます。そうです、我が方の自分中心主義は、相手なしに、交流なしに、文字通り我が方の都合によって作られたもの。だからああなる。
対して、チャイナのそれ、より小さい程度にはロシアや昔のオーストリアあたりのそれは、本当に歴史的に周囲との関係で中心だったからそうなった、という事実ベースの上にある。だから論理としては整合性がないかもしれないが、サステイナブルに存在できる。
王さんだけではない (ブログ主)
2017-03-10 11:53:51
明月さん、

歴史をよく見ろ、知れ、というのは王さんだけの持論ではないでしょう。ほとんどすべての関係諸国がそう思っていると思います。
Unknown (明月)
2017-03-10 13:01:19
王さんの主張は、外相になってからで、中華思想込みの「歴史直視」発言のようです。その前に駐日大使をしていたときは、もっと親日家らしい発言をしていたらしいです。

国内で出世するために論を変えたという観測がされています
くだらないです (ブログ主)
2017-03-10 13:13:33
明月さん、

これで明月さんへのお答えは最後にしますが、御自分の主張があるのならどうぞご自分でブログを開設してください。
Unknown (明月)
2017-03-10 20:01:47
隣国の外相の言うことを鵜呑みにするのは、ちょっと単純かと。中共の工作員?

単純な方、と思うことが多いです。語学屋ですね。

特に反映しなくていいです。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

アジア情勢複雑怪奇」カテゴリの最新記事