フェイロー、敗れる!!

8月最終週のアメリカは、何と言っても29日のサラトガ競馬場で夏競馬の総決算とでも呼べるGⅠ6連発が大注目で、中でも三冠馬が参戦する真夏のダービーが最大の見所でした。そのサラトガからレース順に見ていきましょう。

最初は第6レースのパーソナル・エンサイン・ステークス Personal Ensign S (GⅠ、3歳上牝、9ハロン)。勝馬にはBCディスタッフへの優先出走権が付与される一戦で、fast の馬場に6頭が出走。初対決となった8月2日のシュヴィー・ハンデで1・2着したストップチャージングマリア Stopcharginhmaria とアンタパブル Untapable の一騎打ちと言う前評判で、前回勝った前者が3対2の1番人気、後者は2対1の2番人気で続いていました。
レースも予想通りスタートから2頭の競り合いとなり、前走とは逆にストップチャージングマリアが終始先手を取り、アンタパブルがピタリと付けての競り合い。後続は4馬身置かれる流れとなりましたが、3番手を追走していた3番人気(3対1)のシーア・ドラマ Sheer Drama が2頭の外から並び掛けるように直線に入ると、明らかに3頭の中では最も余裕を残していた同馬が2頭のライヴァルを纏めて交わすと、後方2番手から追い込む4番人気(6対1)のゴット・ラッキー Got Lucky に1馬身4分の1差を付けて快勝。首差でアンタパブルが3着に粘り、ストップチャージングマリアはバテて4着敗退に終わりました。
デヴィッド・フォウクス厩舎、ジョー・ブラーヴォ騎乗のシーア・ドラマは、これでデラウエア・ハンデに続きG戦2連勝となる5歳馬。人気2頭がやり合うのは予期した通りで、同馬にとっては理想的な流れとなりました。これでBCへの出走権を獲得、去年の勝馬アンタパブルを破ったことで、相手はビホールダー Beholder のみか。尤もビホールダーはクラシックで牡馬と対決する意思が強いようで、陣営としてはディスタッフでのチャンピオン対決を望みたいところ。

次は第7レースのバレリーナ・ステークス Ballerina S (GⅠ、3歳上牝、7ハロン)。こちらもBCの対象レースで、勝馬にはフィリー・アンド・メア・スプリントへの優先出走権が与えられます。1頭が取り消して7頭立て。5月にGⅠのフマーナ・ディスタッフを制しているデイム・ドロシー Dame Dorothy が7対5の1番人気。
最低人気(17対1)のサラー・シス Sarah Sis が玉砕的な逃げを打ち、デイム・ドロシーは4番手から。しかし直線、前半は最後方で待機した2番人気(3対1)のアンブライドルド・フォーエヴァー Unbridled Forever が外から2頭目に進路を取ると、直線だけのスプリントで一気に前を纏めて交わし、これも後方2番手から伸びたブービー人気(11対1)のキス・トゥー・リメンバー Kiss to Remember に1馬身差を付ける鮮やかな差し切り勝ち。更に1馬身4分の1差で4番人気(6対1)のルーム・フォー・ミー Room for Me が3着に入り、デイム・ドロシーは6着に敗退しました。
ダラス・スチュアート厩舎、ジョン・ヴェラスケス騎乗のアンブライドルド・フォーエヴァーは、意外にもこれがG戦初勝利となる4歳馬で、これがシーズン2戦目でした。去年はケンタッキー・オークス3着、エイコーン・ステークスも3着、CCAオークスでは2着と、何れもGⅠ戦をあと一歩の所で逃してきた馬。漸く念願のG戦を最高格で奪取したことになります。母レモンズ・フォーエヴァー Lemons Forever もスチュアート師が管理した馬で、ケンタッキー・オークスの覇者。良血を証明し、未だ成長が期待できそうな牝馬です。

第8レースのキングズ・ビショップ・ステークス King’s Bishop S (GⅠ、3歳、7ハロン)は3歳馬限定の短距離戦で、BCの対象ではありません。11頭と多頭数が揃い、前走アムステルダム・ステークス(GⅡ)を含めて4連勝中のホーリー・ボス Holy Boss が5対2の1番人気。
先ず8番人気(15対1)のリムジン・リベラル Limousine Liberal がダッシュ良く飛び出しましたが、直ぐに大外枠発走の7番人気(11対1)ランハッピー Runhappy がハナを奪うと、徐々に内に切れ込みながらラチ沿いに直線に向くと後は一人旅、そのままリムジン・リベラルに4馬身差を付ける圧巻の逃げ切り勝ちを演じました。人気のホーリー・ボスが4番手から順位を上げ、2馬身差の3着。
マリア・ボレル厩舎、エドガー・プラード騎乗のランハッピーは、未だこれが5戦目とキャリアが浅く、これがG戦初勝利。前走はエリス・パークのアローワンス戦で、女流調教師のボレル師にとっても嬉しいGⅠ戦初制覇となりました。勝時計1分20秒54はステークス・レコードという文句なしの快速馬で、夏のサラトガで一気に開花した短距離界の新星と言えるでしょう。

7ハロンのGⅠ戦第3弾は、フォアゴ・ステークス Forego S (GⅠ、3歳上、7ハロン)。これまた勝馬にはBCスプリントへの優先出走権が与えられるとあって12頭立ての賑やかなメンバー。サラトガは初体験ながら、既にGⅠ戦に3勝しているプライヴェイト・ゾーン Private Zone が8対5の1番人気。
好スタートを決めた本命馬、一つ前のキングズ・ビショップに続き、圧巻の逃げ切り勝ちでした。2番手を進んだ2番人気(7対2)のザ・ビッグ・ビースト The Big Beast が3馬身4分の3差で2着に流れ込み、頭差で9番人気(32対1)のヴィヴァ・マヨルカ Viva Majorca が3着。鞍上は合図のために1・2度ムチを入れただけ、直線半ばでは後ろを振り返る余裕の楽勝でした。なお、7番人気(26対1)のバーボン・カレッジ Bourbon Courage がレース途中で落馬し、ジョエル・ロザリオ騎手は歩いて病院に向かえる程度だったものの、これ以後のレースは乗り替わりとなっています。
ホルヘ・ナヴァロ厩舎、マーチン・ペドロザ騎乗のプライヴェイト・ゾーンは、今年6歳。去年と一昨年ヴォスバー・ステークスを連覇したほか、去年のシガー・マイルに続きGⅠ戦は4勝目。今期もチャーチル・ダウンズ・ステークス(GⅡ)、ベルモント・スプリント・チャンピオンシップ(GⅢ)にも勝っていてG戦は3勝目。もちろん目標はBCスプリントで、3着に終わった去年の雪辱を目指します。

第10レースのソード・ダンサー・ステークス Sword Dancer S (芝GⅠ、3歳上、12ハロン)もBCターフへの優先出走権を掛けたレースで、firm の馬場に8頭が出走し、去年のBCターフで2着だったフランスのフリントシャー Flintshire がイーヴンの1番人気。去年の勝馬メイン・シークエンス Main Sequence がその年のBCターフを制していますから、フリントシャーはそのステップを追うことになります。
スタートして間もなく、意を決したように7番人気(28対1)のガーディーニ Guardini がスパートして先頭を奪うと、スローに落しての逃げ。その4番手に付けていた本命フリントシャーが第3コーナーで勝負に出、内ラチ沿いに後続を引き離して先頭。最後はやや差が詰まったものの、後方2番手から追い込む2番人気(5対1)レッド・ライフル Red Rifle に2馬身半差を付ける楽勝でした。更に3馬身4分の1差で4番人気(7対1)のトゥワイライト・エクリプス Twilight Eclipse が3着。
アンドレ・ファーブル厩舎、ヴィンセント・シェミノー騎乗のフリントシャーは、3歳時にパリ大賞典、4歳時にもホンコン・ヴァーズを制した5歳馬で、GⅠ戦は3勝目。去年はBCターフの前に凱旋門賞でも2着しており、今年も同じローテーションからBCに参戦する可能性大。また凱旋門賞に有力候補が名乗りを上げた感じです。

そしてこの日最後のGⅠ戦は、第11レースに組まれたトラヴァース・ステークス Travers S (GⅠ、3歳、10ハロン)。3歳馬限定戦であるためBC優先出走権対象ではありませんが、何と言っても三冠馬アメリカン・フェイロー American Pharoah の参戦でスタンドも興奮気味。10頭が参戦し、もちろん三冠馬が1対5の圧倒的1番人気。
何時もの様にスタートから主導権を奪ったアメリカン・フェイローですが、今回は3番人気(7対1)のフロステッド Frosted が執拗に絡む展開。直線で漸くフロステッドを振り切って先頭を死守したものの、5番手から伸びた5番人気(16対1)キーン・アイス Keen Ice が迫ってきた時には脚が上がらない感じ。そのままキーン・アイスが無情にもアメリカのアイドルを4分の3馬身捉える大波乱。終始競ったフロステッドが2馬身4分の1差で3着。スタンドの歓声は悲鳴に変わりました。
デール・ロマンス厩舎、これがトラヴァース5勝目で最多勝利となるハヴィエル・カステラノ騎乗のキーン・アイスは、去年9月の未勝利戦に勝って以来の勝星で、もちろんG戦もステークスも初勝利。その間8連敗中でしたが、ケンタッキー・ダービー7着、ベルモント・ステークス3着、前走ハスケルは2着と、アメリカン・フェイローとの順位差を確実に詰めていました。これで10戦2勝となりますが、何と言う2勝目でしょうか。
一方アメリカン・フェイローの敗因、終始競られたレース展開も多少は影響したでしょうが、3週間の間にカリフォルニアからニュージャージー、一旦カリフォルニアに戻って再度ニューヨーク遠征と言う過密スケジュールが最大の敗因かも。エスピノザ騎手も、いつもの迫力を感じなかったと正直に告白しています。今年のBCクラシックの中心になると思われていましたが、オーナーのアームド・ザヤット氏は同馬の引退を仄めかしました。デビュー戦5着以来となる敗戦のショックからの発言かも知れませんが、このまま引退となれば、今年のBCは風景をガラリと変えることになりそうです。

この日のサラトガは最後の12レースもG戦が組まれ、ボールストン・スパ・ステークス Ballston Spa S (芝GⅡ、3歳上牝、8.5ハロン)は9頭立てで行われました。前々走ジャスト・ア・ゲイム・ステークスでGⅠ戦を制し、前走ダイアナ・ステークス(芝GⅠ)でも僅差2着のテーピン Tepin が8対5の1番人気。
レースは3番人気(6対1)のキッテンズ・クイーン Kitten’s Queen が逃げましたが、2番手を進んだテーピンが直線で先頭に立つと、そのまま期待に応えたかに見えました。しかし前半は後方2番手で待機していた6番人気(7対1)のダシータ Dacita が外から2頭目の進路を通って鋭い末脚を爆発させると、本命馬を頭差捉える大逆転。4分の3馬身差で3番人気(6対1)に並んでいたマイ・ミス・ソフィア My Miss Sophia が3着でした。
チャド・ブラウン厩舎、トラヴァースに続いて連続サプライズを演出したハヴィエル・カステラノ騎乗のダシータは、これがアメリカ・デビューとなるチリからやってきた4歳馬。去年現地でG戦に5勝、内3戦はGⅠレースだったという以外には全く知られていなかった存在で、陣営もアメリカ競馬に慣れるには時間が必要だろうと思っていた由。8月最後のサラトガG戦は、波乱の連続という結果に終わっています。

この日は他に2つの競馬場でもG戦が行われており、パークス・レーシング競馬場ではスマーティー・ジョーンズ・ステークス Smarty Jones S (GⅢ、3歳、8.32ハロン)。2頭が取り消して6頭立て。今年のクラシック路線を経験し、プリークネス・ステークス3着、レキシントン・ステークス(GⅢ)に勝っているディヴァイニング・ロッド Divining Rod が4対5の断然1番人気。
2番人気(3対2)のスーパー・コロッサル Souper Colossal が逃げ、ディヴァイニング・ロッドは4番手まで上がりましたがそこから伸びず、2番手を追走した3番人気(5対1)のアイランド・タウン Island Town が抜群の末脚を発揮すると、スーパー・コロッサルを6馬身4分の3差突き放して圧勝。3馬身4分の3差で最低人気(45対1)のバトル・ミッドウェイ Battle Midway が3着に食い込み、ディヴァイニング・ロッドはお疲れか、5着に沈んでいます。
イアン・ウイルケス厩舎、ブライアン・ジョセフ・ヘルナンデス騎乗のアイランド・タウンは、2走前にチャーチル・ダウンズでマット・ウイン・ステークス(GⅢ)に勝っており、G戦は2勝目となります。通算成績は8戦4勝2着1回。

最後にモンマス・パーク競馬場のヴァイオレット・ステークス Violet S (芝GⅢ、3歳上牝、9ハロン)に付いても簡単に。1頭が取り消して5頭立て。8対5の1番人気はチャド・ブラウン厩舎の4歳馬グラニー・マックス・キッテン Granny Mc’s Kitten 。
レースは同厩舎の2頭が先を行き、3番人気(7対2)のアメリカン・ガール American Girl の逃げ。これをレース半ばから2番手で追走した2番人気(2対1)のフォト・コール Photo Call が外から捉えて直線に入ると、最後方から追い込むジョイント3番人気(7対2)のクッション Cushion を4分の3馬身抑えて優勝。2馬身4分の1差で4番手を追走した本命グラニー・マックス・キッテンが3着でした。
グレアム・モーション厩舎、トレヴァー・マカーシー騎乗のフォト・コールは、これがステークス初勝利。今年は5戦目での初勝利となり、通算成績は12戦3勝となるアメリカでは珍しいガリレオ Galileo の4歳馬です。去年のラ・プレヴォヤンテ・ステークス(芝GⅢ)3着、今年5月のベルモントでボーゲイ・ステークス(芝GⅢ)2着の実績があり、やはり距離が伸びて良いタイプでしょう。

 

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