2017-12-29

ジャンクDNAは進化の推進力

最新のゲノム解析から、生物ゲノムには、多くのウイルス(およびその関連因子)が存在しており、それらが生物進化に重大な貢献をしてきたことが明らかになりつつある。ヒトゲノムでも、その約半分はウイルスとウイルスもどきの遺伝子配列が占めている。

DNA画像はコチラからお借りしました。

 ■ジャンクDNAは宝の山だった
以前は、そういったゲノム中の「ウイルスのようなもの」は、利己的な寄生者たちが勝手に増えて、その死骸、痕跡を巻き散らかしているだけの、ゲノムのゴミ=「ジャンクDNA」と呼ばれていた。

しかし、最近、実はその「ゴミ」が生物の機能や進化にとても大切な役割を果たしていることが次々と明らかになっている。生物のシステムというのは、例えば「哺乳動物とはこうあるべきだ」みたいな形で整然と進化してきたというより、ウイルスのような外部からの侵入者も取り入れ、あるいはゲノムの寄生者みたいなものも積極的に利用して、進化しているらしい。

いろんな技術者がパーツとなるソフトウエアを持ち寄ってシステムを作り上げて行くリナックスOSのように、ウイルス感染やトランスポゾンの転移により取り込まれた「パーツ」がて、それまでのゲノムに付加されて、いわばOSのバージョンアップのように進化が起こったのかもしない。

■ジャンクDNAから転写されるRNAの新しい機能
では、そのようなジャンクDNAはどのような機能担っているのだろうか?
最近の研究によれば、ncRNA(=ジャンクDNAから転写される、タンパク質の情報を持たないノンコーディングRNA)に遺伝子の発現を制御する重要な機能を持つことを明らかになってきている。

ncRNAには、「レトロトランスポゾン」(レトロウイルスのように、DNA→RNAへの転写と、RNA→DNAへの逆転写によって増殖する遺伝因子)に由来する配列が多数含まれている。その一部は発生や細胞分化に関わっている。

最近のマウスのiPS細胞での実験では、細胞内で発現しているレトロトランスポゾン由来のncRNAを、1種類ずつ阻害したところろ、4種類のncRNAをそれぞれ阻害すると、iPS細胞が特定の種類の細胞に分化し始めることを確かめられた。それらのncRNAは、幹細胞が特定の種類の細胞に分化するのを抑えていると考えられる。

幹細胞が特定の細胞に分化せずに、あらゆる種類の細胞に分化できる能力を保ち続けるためには、たくさんの種類のタンパク質を合成する必要があり、そのためには、多くの遺伝子のスイッチを同時に活性化させる必要がある。ncRNAはその役割を担っている可能性が高い。

ジャンクDNAやその情報を転写したncRNAは、これもの生命科学の常識を覆し、新しい生命観や新しい医療を築くための宝庫であることが明らかになりつつある。

参考
・書籍 :中屋敷均著『ウイルスは生きている』講談社現代新書
・サイト:「ncRNA の発現がiPS細胞とES細胞の違いを決める」

List    投稿者 seibutusi | 2017-12-29 | Posted in ⑧科学ニュースよりNo Comments » 

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