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梅の花

 

ずっと昔。
私には、一緒になりたいと思っても、
決してなれない人がいました。
お互いに、それは充分にわかってはいても
それでも悲しい逢瀬を続けていました。

ある冬の風の冷たい日。
その日、実家へ帰るという彼に、どうしても会いたくて
私は、彼の実家を訪ねました。
住所のメモ書き以外、頼るものは何もなく
初めての土地で、そのメモだけを頼りに日の暮れかかった頃、ようやく彼の実家を見つけました。
でも、彼は仕事の都合で実家へは戻れず そのまま職場に留まっていました。

お玄関に彼のお母様が出てきてくださって
「こちらへは戻れないそうなんですよ。ごめんなさい」と。
何の予告もなく、いきなり訪ねた私を怪訝そうに見つめて。
非常識この上ない非礼は、充分にわかっていました。
でも、そのとき、その日。
私は、どうしても彼に会いたいと、ただそれだけを思っていました。

門を開けてはいただけず、門をはさんで彼のお母様と話しました。
そのとき、門の脇に梅の古木が、冷たい夜気の中、
眩しいほどの月明かりを受けて、その樹皮や洞が、はっきりと見えました。

数日後、彼は私の行いをなじりましたが
「しかたのない人だね。。。」と。


「あの、ご門にあった梅は、白梅?紅梅?」と私が訊ねると
「さあ。。。そういえば、どっちだったかな?どうして?」
「別に。ただ、どちらかな、と思って」
梅の花が咲く頃には、もしかしたらあの門を私のために開いてはいただけないか。
梅の花の下で、彼のお母様が微笑みながら、私を招き入れてはくださらないか。
叶いもしない、そんなことをぼんやりと考えながら
あの梅の木は、何色の花をつけるのだろう、と。

数ヶ月の後。
「あの梅は、白梅だそうだ」と、彼に教えられました。
「そう。わざわざ、ありがとう。咲いたら、きっときれいでしょうね」
「そうだね。咲いているところ、記憶にないんだ。どうしてかな」


その後、彼は私を、ある郊外の梅園へと連れて行ってくれました。
数日間、暖かいお天気が続いた後だったので
季節より早い梅の花が、満開になっていました。
白、紅色、薄紅色。。。
数え切れない梅の花が、辺り一面に咲いていて
甘い香りが漂って、風の冷たさを忘れてしまうほどでした。

私は、彼と一緒に歩きながら、梅園の木の下に落ちている
梅の花を拾い集めました。
色とりどりの落ち花は、あっという間に私の両手にいっぱいになってしまって。
彼は、黙って手を差し出してくれて
私の手から梅の花を受け取って、何もいわず笑っていました。
そのまま、私はずっと梅の花を拾い続けて。
私の両手が再び、いっぱいになると、彼は
「こんなにたくさん、どうするの?」
「そうね。どうしようかしら。。。あんまり、きれいだったから」

その花は、そっと持ち帰って押し花にしました。
香りは消えてしまいましたが、花の色は残りました。





最後まで ご覧いただきまして ありがとうございました。
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