第122話の続きです。ドイツ連邦最高裁から判断を委ねられた法律問題、およびそれに対するCJEUの判断を判決原文から抽出します。(Junek Europ-Vertrieb GmbH v. Lohmann & Rauscher International GmbH & Co. KG, CJEU 5/17/2018 )
付託された法律問題
理事会規則207/2009の第13条とは、商標の権利消尽に関する規定で、第2項は権利消尽の例外(商標権者が一度域内市場におかれた商標商品の並行輸入に対し権利行使できる場合)について規定しています。
CJEUの判断
・「リパッケージング」と「リラベリング」
Boehringer事件の場合 -- 以下のいくつかのパターンあり
本件の場合、
このような比較の下に、CJEUは、そもそも本件医療用品に対する新たなラベルの貼付はBoehringer判決でいう「リパッケージング」に包含されるものではなく、商品の出所を保証するという商標の目的に影響を及ぼすものではない、と判断しました。
そこで、ドイツ連邦最高裁から付託された法律問題に対する回答は、以下の通りとなったわけです。
6/3/2018 ヨシロー
第122話に追記したとおり、この判決の趣旨は「医薬品の並行輸入に関するルールはこう、他の医療用品の並行輸入に対するルールはこう」というものではなく、「医薬に関するBMS/Boehringer事件で示されたルールに対し、今回の医療用品に関するJunek Europ-Vertrieb事件では、より柔軟なケースバイケースの基準が示された」という性質のもののようです。タイトルもそれに伴い微修正しました。...まだ正確に把握しているとはとてもいえないのですが...。
付託された法律問題
≪EU商標に関する理事会規則(No 207/2009) 第13条2項は、以下の条件が満たされる場合を除き、オリジナルの内部および外部パッケージに入った医療用品に追加のラベルを貼付して他の加盟国から輸入する並行輸入業者のさらなる商業行為に対し、商標保有者が異議を申し立てることができる、ということを意味するものと解釈されなければならないのか。
- 新たにラベルが貼付された(overstickered)商品販売に対する商標保有者の異議申立てが、EU加盟国間の市場分割に該当する
- 新たなラベル付け(new labelling)が商品自体のオリジナル状態に影響を及ぼさない
- 当該パッケージは、新たにラベル貼付をした者と生産者名を明記している
- 新たにラベル貼付された商品の表示法が当該商標や商標保有者の名声を傷つけるもの(欠陥、低品質)ではない
- 並行輸入業者が、新たにラベル貼付された商品が販売に供される前に、商標保有者に通知をし、商標保有者から要望があれば、当該商品の見本を提供する≫
理事会規則207/2009の第13条とは、商標の権利消尽に関する規定で、第2項は権利消尽の例外(商標権者が一度域内市場におかれた商標商品の並行輸入に対し権利行使できる場合)について規定しています。
「欧州連合商標に関する理事会規則」(EC)No 207/2009 (2/26/2009)
第13条 「商標によって与えられた権利の消尽」
- EU商標は、商標保有者により、またはその承諾によりEU域内市場におかれた商品に関連して、当該商標の使用を禁ずる権限を、商標保有者に与えるものではない。
- ただし、当該商品のさらなる商業化に対し、商標保有者が異議を唱える正当な理由が存在する場合、とりわけ、当該商品の状態が変更または損なわれる場合は、この限りではない。
CJEUの判断
≪要するに、ドイツ最高裁が知りたがっているのは、1996年7月11日のBristol-Myers Squibb and Others(C-427/93, C/-429/93, C-436/93)および2007年4月26日のBoehringer Ingelheim and Others(C-348/04)が、医療用品の並行輸入に対しても、そのまま適用される(apply without restriction)のか否か、ということだ。
商標の目的とは当該商標が付された商品の出所について保証することであり、当該商標商品に対し第三者が商標保有者の承諾なしに再包装(リパッケージング)することは、かかる出所保証に対する真のリスクを生じさせる可能性がある。
...さらに、理事会規則(No 207/2009) 第13条2項と同等の文言を有する理事会指令(加盟国間の商標法の調和に関する)(89/104/EEC(12/21/1988))第7条2項について、当裁判所は「リパッケージングに対する商標保有者の異議申し立て(本来は「加盟国間の物の自由移動」という原則に反する行為)は、それが加盟国間の取引に対する「見せかけの制限(disguised restriction)」を構成するものであれば、 受け入れられないと判断した。...ここでいう「見せかけの制限」が存在する基準として当裁判所は5つの条件を示した(BMS/Boehringer判決)。
- ラベル付け替え商品(relabelled products)の販売に対する商標保有者の異議申立てが、EU加盟国間の市場分割に該当する
- リパッケージングが商品自体のオリジナル状態に影響を及ぼさない
- 新たなパッケージは、リパッケージングをした者と生産者名を明記している
- リパッケージングされた商品の表示法が当該商標や商標保有者の名声を傷つけるもの(欠陥、低品質)ではない
- 並行輸入業者が、リパッケージングされた商品が販売に供される前に、商標保有者に通知をし、商標保有者から要望があれば、リパッケージングされた商品の見本を提供する≫
・「リパッケージング」と「リラベリング」
CJEUは、「上記5つの条件は、並行輸入業者が当該商標商品をリパッケージした場合にのみ適用される」としながらも、「リパッケージング」の概念には、商標の付された医薬品のラベル付け替え(「リラベリング」)も含まれることは先例が示している通り、といいます。具体的には、
Boehringer事件の場合 -- 以下のいくつかのパターンあり
- 並行輸入業者の名称や並行輸入許可番号などの重要情報を含むラベルが貼付された。
- 並行輸入業者がデザインした包装箱に詰め替えられ、商標も新たに作られた。
- 並行輸入業者がデザインした包装箱に詰め替えられたが、そこには商標が付されておらず、当該薬の一般名のみが付された。
- 上記すべてのパターンにおいて、新たな包装箱には輸入国の言語で書かれた患者向け案内冊子が当該商標付きで含まれていた。
本件の場合、
- 並行輸入業者は、医療用品の元の包装箱の印刷されていない部分(空白部分) にラベルを貼付しただけであり、元の包装箱は開けられていない。
- 追加貼付されたラベルは小さく、それによって提供された情報も、並行輸入業者の名称、住所および電話番号、バーコード、central pharmacological number という、薬局への移動に必要な情報にとどまっている。
このような比較の下に、CJEUは、そもそも本件医療用品に対する新たなラベルの貼付はBoehringer判決でいう「リパッケージング」に包含されるものではなく、商品の出所を保証するという商標の目的に影響を及ぼすものではない、と判断しました。
そこで、ドイツ連邦最高裁から付託された法律問題に対する回答は、以下の通りとなったわけです。
「EU商標に関する理事会規則((EC)No 207/2009) 第13条(2)項は、並行輸入業者によって新たに貼付されたラベルが、その内容、機能、サイズ、表示、場所において、当該商標商品(医療用品)の出所保証へのリスクを生じさせない限り、並行輸入業者がオリジナルの内部および外部パッケージに入った医療用品をさらに商業化する行為に対し商標保有者が異議を申し立てることができない、ということを意味するものと解釈されなければならない。」
6/3/2018 ヨシロー
第122話に追記したとおり、この判決の趣旨は「医薬品の並行輸入に関するルールはこう、他の医療用品の並行輸入に対するルールはこう」というものではなく、「医薬に関するBMS/Boehringer事件で示されたルールに対し、今回の医療用品に関するJunek Europ-Vertrieb事件では、より柔軟なケースバイケースの基準が示された」という性質のもののようです。タイトルもそれに伴い微修正しました。...まだ正確に把握しているとはとてもいえないのですが...。
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