へちま細太郎

大学院生のへちま細太郎を主人公にしたお話。

3.11

2018-03-12 09:48:47 | へちま細太郎

世間では、あの日を忘れないと昨日はあちこちで追悼集会が開かれていた。
そんな昨日は、須庭寺で行われた法要に参加したへちま細太郎です。

あの日は何してた?と聞かれても思い出せない。
で、当時を振り返ってみたら、学園内の大清掃の日だった。
落ちてきた田子作の銅像を落ち葉に埋めてたな、藤川先生は。
「3.10は東京大空襲の日だったですわね」
と、藤川家の大おばあさまがおっしゃったそうで、
「あの時のことを思い出せと申されましても、私もう思い出せませんのよ」
とも付け加えられた。
「あら、お忘れになってしまわれたのですか?」
百合絵さまが、おいしいお茶を入れかえ、両足に毛布を巻き付けてあげる。
最近、体調がすぐれないのに、こうして3.11の法事に参加していただいている。今月はもう一度あるんだけどね。
「いえ、無理に思い出そうとしても恐怖だったとしかないの。そうすると連鎖反応で、亡くなられた方々を思い出してしまうでしょ?どうせ、もうすぐ会えるのですもの」
やめてよ、大あばあさま。
「でも、3.11がきっかけで百合絵さんがご住職のもとに嫁がれるなんて、おめでたい出来事もあったので、人ってわからないものですわよ。早く、東北の皆さまも立ち直られるとよいですわね」
藤川家は、かつて幕末のおり東北の藩が官軍に攻めらていた時、なんもしなかったことを悔いていたそうだ。
そうりゃそうだ、食うことしか考えていなかったんだから。
だから、いろいろ炊き出しとかやったわけだ。
でも、そんなことが幕末の罪滅ぼしにはならんわなあ。
「今年の桜はいつ咲くのかしら?」
大おばあさまは、そうつぶやかれてお茶を一口飲まれた。
「おいしいこと」
そう、みんな心からお茶が飲めるといいね。







 





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