こんばんは。

 

弱冠14歳の将棋界の超新星・藤井聡太四段の快進撃が止まらないですね。昨年12月のプロデビュー以来、負け知らずです。

 

非公式戦でしたが、将棋界の第一人者で「中学生棋士」としての先輩でもある羽生善治王位(3冠)をも破り、知名度も一躍全国区となりました。

 

18日、大阪市内で行われた対局でも勝利し、連勝記録を18に伸ばしたそうですよ〜。

 

将棋というものに、注目が集まっている今だからかは知りませんが(笑)、下北沢で長塚圭史さんが、パートナーの常盤貴子さんと『王将』を舞台化し上演すると聞いて、無理を言ってチケットを用意してもらい、友人と観てきたので今日はその感想を書いておきます。

 

『王将』は演劇界の大御所として、日本演劇協会会長や国際演劇協会日本センター会長なども歴任し、北條天皇の異名を取った、北條 秀司さんが1947年に書かれ、新国劇で辰巳柳太郎さん主演で初演され大ヒットした戯曲です。

 

そのヒットを受け、1950年に第2部、第3部が初演されました。

 

北條 秀司さんは、今年1月に歌舞伎座で観た『井伊大老』というお芝居も書かれた方で、そのblogで詳しく書かせていただきましたが、演劇らしい演劇といいますか、大衆に寄り添った熱くて泣けるお芝居を書かれる方だなあというのが僕の印象です。

 

『王将』は西条八十さん作詩、船村徹さん作曲、村田英雄さんが歌い、ミリオンセラーとなった名曲で有名な、明治から昭和初期にかけて活動した将棋棋士、坂田三吉の破天荒な生き様を描いた物語です。

 

大阪市浪速区、新世界にある通天閣の下には「王将」の碑があるんですよ〜。通天閣はこの物語の重要なシンボルですからね。

 

『王将』は何度が映画化されています。

◎王将 (1948年) 大映 伊藤大輔監督 阪東妻三郎さん主演

◎王将一代(1955年)新東宝 伊藤大輔監督 辰巳柳太郎さん主演

◎王将 (1962年) 東映 伊藤大輔監督 三國連太郎さん主演

◎続・王将 (1963年)東映 佐藤純弥監督 三國連太郎さん主演

◎王将 (1973年)東宝 堀川弘通監督 勝新太郎さん主演

 

僕が観たことがあるのは、1973年の勝新太郎さん主演版です。村田英雄さんが歌った曲は、1962年の三國連太郎さん主演版のために作られたそうですが、勝新太郎さん版の主題歌としてもやはり流れました。村田英雄さんも1シーンですが出演されています。

 

成瀬巳喜男監督作品でお馴染みの、中古智さんの美術が素晴らしい作品でした。

 

『王将』はこんな物語です。

明治39年。大阪は天王寺の貧乏長屋。坂田三吉は、三度の飯より将棋が好きで、素人名人とまで呼ばれる将棋指です。しかし、家庭を顧みず仕事を放り投げ、そのあげく借金で首がまわらない始末。

 

そんな時、将棋大会で関根七段に惜敗した三吉は、仕事をやめ、家庭を捨て棋道に身を投じ関根七段に雪辱を晴らそうと決意します。

 

それから八年後、ついに三吉は関根に勝利します。しかし、苦し紛れに打った手で、まぐれで勝利したに過ぎなかったのです。それを見抜いた娘の玉江は、三吉の将棋には品がないと叱責します。

 

図星を突かれた三吉は怒り狂いますが、玉江の言ったことは正しいと気づき、思い直した三吉は、弟子も断り、豊かになった生活を捨てても良いかと妻の小春に問うのでした。

 

微笑んでそれを受け入れる小春。こうして、三吉はさらに将棋の道をつきつめてゆくのです…。

 

『王将』

作:北條秀司さん

構成台本+演出:長塚圭史さん

音楽:山内圭哉さん

 

美術:堀尾幸男さん

照明:齋藤茂男さん

扮装統括:柘植伊佐夫さん

音響:加藤温さん

 

演出助手:城野健さん

舞台監督:福澤諭志さん

 

美術助手:片平圭衣子さん

衣裳助手:畑久美子さん

 

大道具:唐崎修さん

衣裳協力:松竹衣裳(白井恵さん)

 

宣伝美術:山内圭哉さん

題字:福田転球さん

web:鈴木拓さん

 

制作:笛木園子さん

制作助手:太田郁子さん

票券:熊谷由子さん

 

協力:ゴーチ・ブラザーズ

   よしもとクリエイティブ・エージェンシー 

   オフィス ピー・エス・シー・

   スターダストプロモーション

   ノックアウト

   ホリプロ 

   ミーアンドハーコーポレーション

   A.L.C.Atlantis

   石井光三オフィス

   文学座 

   ライターズ・カンパニー

   ワンダー・プロダクション

   ヨーロッパ企画/オポス

   neu

   KOOGEN

   boxes Inc.

 

特別協力:SAYATEI

 

企画・製作:新ロイヤル大衆舎

(福田転球 大堀こういち 長塚圭史 山内圭哉)

 

今回の上演は3部作一挙上演だったのですが、都合上、僕は第1部しか観ることが叶わなかったので、第1部の配役だけ書いておきます。

 

◎第1部 配役

坂田三吉:福田転球さん

妻・小春:常盤貴子さん

長女・玉江/他:江口のりこさん

長男・義夫:大堀こういちさん

うどん屋・新吉:高木稟さん

アイスクリーム売り・作平/他:金井良信さん

作平の女房・お兼/他:弘中麻紀さん

金杉子爵/世話人・斎藤/他:櫻井章喜さん

後援者(米仲買人)・宮田/他:山内圭哉さん

関根名人:長塚圭史さん

朝日新聞社学芸部長・小倉/他:さとうこうじさん

朝日新聞支局長・篠原/他:石田剛太さん

三吉の弟子・森/他:原田志さん

語り/菊岡博士:大堀こういちさん

 

第1部は大阪天王寺の裏長屋で貧乏暮しをしていた坂田三吉が,将棋の天分を生かし、関西一の棋士になるまでを、妻小春の献身や娘玉江との葛藤をからめて描かれていましたが、第2部は、むりやり関西名人に推された三吉の悲哀、第3部は晩年の三吉の孤独と将棋への妄執が描かれているそうなので、もし再演があるならばその時は1〜3部全て観てみたいと思っています。

 

この公演を企画・製作した『新ロイヤル大衆舎』とは、福田転球さん、 大堀こういちさん、 長塚圭史さん、 山内圭哉さんの4人によって新たに結成されたユニットです。『王将』はその旗揚げ公演でした。

 

福田転球さんは1993年に「転球劇場」を旗揚げし、座長を務められていた方だし、大堀こういちさんは劇団健康(現ナイロン100℃)旗揚げに参加された方だし、長塚圭史さんは演劇プロデュースユニット阿佐ヶ谷スパイダースを旗揚げし、作、演出、出演の三役を担う方だし、山内圭哉さんは、中島らもさんが主宰していた、劇団リリパットアーミー出身の方だし、最近ではジャニーズ事務所の中島裕翔くんが主演したドラマ『HOPE~期待ゼロの新入社員~』でとってもいい先輩社員役で出演されていて、いい俳優さんだなと思っていたので、この4人が組んでやるものが面白くないはずはないとワクワクしながら劇場へ行きました。

 

それも『王将』ですよ〜。僕なんかは関西出身で、映画や演劇が滅法好きな人間ですので、北条秀司作、『王将』という作品は知ってはいましたが、若い方は知っている人は少ないだろうし、元々は新国劇のスター役者さんにあてて、大劇場で上演するために書かれた戯曲を、下北沢の80人くらいしか入れないような空間で上演するという試みに「おもろいことやるやないの〜(笑)」と思いました〜。

 

劇場は京王井の頭線・小田急線下北沢駅南口より歩いてすぐのビルの地下1Fにある、小劇場 楽園でした。客席がL字型に作ってあり、演者と距離が近いので、臨場感もあり、戯曲の良さを再認識させてもらってとても楽しめました。

 

長塚圭史さんは、三好十郎さんが書かれた戯曲『浮標』、『『冒した者』』や真船豊さんが書かれた『鼬(いたち)』を舞台化されているし、日本のこうした埋もれた近代古典戯曲にこれからも光を当てて、若い俳優さんを使って世に知らしめてほしいなあと思います。日本にはいい戯曲がたくさんありますからね。

 

僕はパートナーの常盤貴子さんで、樋口一葉や谷崎潤一郎、三島由紀夫などの戯曲を長塚さん流に構成して舞台化してくれないかなと期待しています。

 

常盤さんにそんなことを言うと、いつも「いやいやいや」と首を振られてしまうんですけど(笑)。

 

坂田三吉を演じた、福田転球さん、良かったですよ〜。

 

無学文盲ながら独学で将棋を学び、家庭も仕事もほっぽり出して将棋三昧の日々…。どんどん将棋の腕は上がりますが、やがて名人の称号を巡って東京の将棋連盟と対立してしまいます。弟子には背かれ、事故や戦争でも失ったりと、その人生は平坦ではありません。傷つき、もがき、苦しみ、七転八倒しながらも将棋を打ち続ける三吉という男の半生を福田さんは熱く、誠実に役と向き合い僕たち観客の心を震わせてくれました。

 

破天荒に見えて、繊細で将棋以外は何もできない、気弱な男を、嫌味なく、可愛らしく演じきってられましたね。

 

ラストで、亡くなった妻、小春に電話口で語り続ける名シーンは、映画版の勝新太郎さんより感動しました。こんなこと言うと恐縮されそうですが、ほんまです(笑)。

 

そんな子供のような三吉を励まし、貧しさも何もかも受け入れる、健気で一途な恋女房・小春を演じたのは、脚本&演出を担当する長塚圭史さんのパートナーでもある常盤貴子さん。この小春の存在が、むさくるしいと言ってはあれですが(笑)この物語の一服の清涼剤となってましたね〜。

 

登場するたびに、パッと舞台が華やぐ感じがするんですよ〜。本当に素敵な女優さんです。(知り合いだから言っているのと違います。ほんまなんです!)

 

小春の存在があればこそ、三吉は将棋人生を全うできたのだと思わせてくれます。

 

二人の長女、玉江を演じた江口のりこさんも良かったです〜。

 

三吉が関根七段に初めて勝った日の夜、その試合を側で見ていた玉江は、三吉に花を持たすため、関根がわざと負けてくれたと見抜いたんです。そしてそんな試合での三吉の振る舞いや試合態度に品がないと、玉江は三吉を叱責し、溜まった想いをぶつけるのです。

 

それも三吉に立派な将棋指になって欲しいがためなんですけど、このシーンも名シーンですよね〜。泣けました。

 

事を成した男の側には、必ずこうした女性の存在があるんですよね〜。

 

出演された方々の芝居に対する情熱と、愛を感じる舞台でした!

 

笑って、泣いて、感動して、演劇って本来こういうものじゃないのって感じさせてもらえました。

 

楽屋もない、小さな劇場だったので、芝居が終わった後の客席横で、常盤貴子さんと少し話をさせてもらい、観劇した日は、端午の節句だったので、新宿の百貨店で和菓子の『とらや』さんのちまきと柏餅を購入し、差し入れさせてもらいました。喜んでもらえたみたいで嬉しかったです。

 

お金にはならないことかもしれませんけど、好きな事をこうやって形にできて生きている人達って素敵だなと思います。

 

 

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