『君戀しやと、呟けど。。。』

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『溺れゆく』その弐拾伍

2018-03-25 00:03:31 | 小説『溺れゆく』
カテゴリー;Novel


その弐拾伍

 いない、って……

 今、確かに、葛城先生はいないと言われた。
 教えられていた定期船に乗り、そして降りる。その先に彼が居ると信じて疑わなかった。
 何故。
 どうして。
 また消えてしまったというの……
 真帆の混乱は、呆然と立ち尽くすことでバランスをとるしかなかった。

「お嬢さん。大丈夫かい」
 行く当てを失った真帆は海を見ていた。ただ、そこにある海原。汐の香りと風。海鳥の泣き声が聞こえ、汽船の汽笛が聞こえる。
 いつだったか。海に身を投げたことがある。
 水帆との別れを受け入れ、生きる選択をしたものの、結局会ってはならないという呪縛に負けた。
 助けられた時、最初に目に飛び込んできたのは水帆の心配そうな顔だった。

『もう一度、会いたい』
 そう願った真帆の想いが、神に届いたのかと思った。
 しかし、それは現実で二人で生きていくと決心したのに。

 もう一度、身を投げれば、また水帆に逢えるだろうか。
 フラフラと防波堤に向かう真帆の足を止める者は、もう何処にもいなかった――。

To be continued. 著作:紫 草 
 


HP【孤悲物語り】内 『溺れゆく』表紙
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