判断基準(規範)を導く際に,理由付けは不要なのか | 司法試験ブログ・予備試験ブログ|工藤北斗の業務日誌

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資格試験予備校アガルートアカデミーで司法試験・予備試験の講師をしている工藤北斗のブログです。司法試験・予備試験・法科大学院入試に関する情報を発信しています。時々弁理士試験・行政書士試験についても書いています。

「必要」です。
今更な感じがあるのですが,答案を読んでいて理由付け無しに判断基準を書く人が多いので注意喚起の意味も込めて書いています。

判例の立場で書く場合にですら,理由付けは必要です。
例えば,(新)司法試験平成18年度刑事系科目のヒアリングでは,「その判例の行っている法解釈の位置付け,意味内容の具体的な理解にまで及ぶような答案,いかなる論理で条文に規定のない所持品検査が許される場合があると説明できるのかという点,あるいは,許される場合に,判例がいう必要性とか緊急性とか法益の均衡といった要件が要求されている理由は何かといった点についてまで判例の論理を内在的に理解して,その上で具体的な事例の当てはめを丁寧に行うというような極めて優れた答案も散見されたものの,他方で判例の用語の抽象的な文言を単に記述するだけで,事実に対する十分な検討やなぜそのような法解釈が導かれるのかについて十分な説明が欠如している答案も比較的多かった」(下線部は私が付したもの)と指摘されています。

古江頼隆「事例演習刑事訴訟法(第2版)」も「確かに,確立した最高裁判例の法解釈や判断枠組みが実務を支配していることは,厳然たる事実だけれども,君たちが最高裁判例と同じ法解釈や判断枠組みによるのを相当と考えるときは,なぜそのような法解釈や判断枠組みによるのが相当なのか,その理由付けは,必ず答案に書かないと高得点は望めないよ。」(4頁)と指摘しています。

おそらく「理由付け不要」なる謎の見解が出現するのは,(新)司法試験に特化した文脈で一般論を語るからだろうと思います。
(新)司法試験では,書くべき論点やあてはめで拾うべき事実がたくさんあるため,論点や事実を網羅するためには,時間的にも答案のスペース的にも理由付けなしに判断基準(規範)を書かなければならない,ということはあります。
確かに,それは,取捨選択の1つとしてアリだと思います。
しかし,出題趣旨や採点実感等では,法解釈論の重要性が何度も強調されています(特に,刑事系科目)。法解釈論には,当然理由付けも含まれるでしょうから,理由付けを書かない場合には,その部分の点数を失うことは覚悟しておいてください。

それから,理由付けは一言でいい,論証は短くていいという意見も聞きますが,これもケースバイケースです。
例えば,以下の問題を見てください。この問題ではあてはめ部分にはほとんど点数がないでしょうから,「特別法違反事件に関する捜索差押許可状の『罪名』及び『差し押さえるべき物』の各記載の適法性」(出題趣旨)の理由付け(論証)の厚みで勝負するしかありません。実際に,合格者の再現答案でも,理由付けが一言というものはほとんど見かけません。

[予備試験平成23年度刑事訴訟法設問1]
 次の記述を読んで,後記の設問に答えなさい。

 警察官は,甲が,平成23年7月1日にH市内において,乙に対して覚せい剤10グラムを30万円で譲渡したとの覚せい剤取締法違反被疑事件につき,甲宅を捜索して現金の出納及び甲の行動等に関する証拠を収集するため,H地方裁判所裁判官に対し,捜索差押許可状の発付を請求した。これを受けてH地方裁判所裁判官は,罪名として「覚せい剤取締法違反」,差し押さえるべき物として「金銭出納簿,預金通帳,日記,手帳,メモその他本件に関係ありと思料される一切の文書及び物件」とそれぞれ記載した捜索差押許可状を発付した。

〔設問1〕
 この捜索差押許可状の罪名及び差し押さえるべき物の記載は適法か。
(以下略)

なお,論証の長さについてはこちらの記事も参照。